写真:塚本 隆司
地図を見る静岡県静岡市葵区弥勒、安倍川橋のたもとに、昔から愛されてきた名物「安倍川もち」を売る店が軒を連ねている。
「安倍川もち」の誕生は慶長年間(1596-1615)だという。安倍川上流では、金の採掘が盛んであり、検分に訪れた徳川家康にきな粉をまぶした餅を「金粉餅(きんこもち)」と称して献上したところ、いたく気に入り「安倍川餅」と命名したのが始まりという。
元々の「安倍川もち」は餅に、きな粉をまぶしたもの。のちに餡をまとった餅が作られるようになる。「安倍川もち」の名を世間に知らしめたのは、砂糖がまだ貴重品であった頃に、駿河特産の白砂糖を上に乗せたことで評判になったそうだ。
写真は石部屋の「安倍川もち」。お茶付きで1皿600円(税込)。
写真:塚本 隆司
地図を見る安倍川は、山梨県と静岡県の県境にある安倍川峠を水源として、静岡市西部を駿河湾へと流れている。普段の水量は少ないが、今でも大雨が降ると濁流が川幅いっぱいに広がるという。
江戸時代には橋もなく渡船もなかった。江戸幕府は、安倍川に橋をかけることを禁じて「徒渡(かちわたし)」と定め、川越人足が手を引いたり肩や蓮台に乗せて川を渡っていたようだ。料金は、川の水量・流れで変動し交渉で決めていたという。
十返舎一九の「東海道中膝栗毛」でも、弥次さん喜多さんは川が深く流れも速いからと、高額を支払って渡してもらう。その後、戻っていく人足が川上の浅いところを難なく渡るのを見て、騙されたことに気づくのだ。
「川ごしの肩車にてわれわれを ふかいところへひきまわしたり」
そんな光景に思いを馳せながら、川を眺めてみるのも面白いだろう。
写真:塚本 隆司
地図を見る石部屋(せきべや)の創業は文化元年(1804年)。
昔ながらの製法を今も守り続けている老舗だ。出来立て手作りの柔らかい餅をいつでも味わうことができる。土産用として販売している商品も賞味期限が翌日中と短いことも納得ができる。
創業時の建物は戦時中に焼けてしまったそうだが、当時の趣がある古民家を見つけ移築してきたそうだ。老舗好きにとって、入らずにはいられない店構えをしている。
写真:塚本 隆司
地図を見る広いとは言えない店内だが、赤い毛氈(もうせん)が敷かれた床几が茶店の雰囲気を感じさせてくれる。土間に小上がり・ちゃぶ台とノスタルジックな雰囲気がよい。壁に掛かる短冊はメニューなどではなく、有名人がサイン色紙代わりに書いた短冊だ。
この席で食べれば、ひとときの休息をとる旅人の気分を味わえる。ひとつの木盆にきな粉餅が5つと餡餅が5つ。2種類を並べて盛った上へ砂糖をひと盛り。好みにあわせて砂糖の量を調整しながら食べられるのも嬉しい。
安倍川の改修以前は、土手に面していたそうで川を眺めながら食べることもできたという。江戸時代には近くに遊郭があり、そのお客さんが食べに来ていたと聞けば、当時の賑やかさがうかがえる。
写真:塚本 隆司
地図を見る東海道の数ある街道で、府中宿は唯一遊郭が認められた地で安倍川の近くにあった。当時の石部屋は旅人だけではなく、遊郭へ通う客が川を眺めながら酒を吞む店でもあったという。その客に、酒のアテとして提供していたのが「からみもち」だ。
まだ柔らかい餅を、静岡名産の生山葵(わさび)と醤油で食べる。餅は、硬くならないように程よい温度の湯に浸した状態ででてくる。生わさびの香りとツンとくる辛みの美味さが、より一層味わえる静岡らしい逸品だ。たっぷりの山葵で涙しながら酒をあおってみたくなる。
残念ながら現在はお酒の提供はない。しかし、この味が目当てで訪れる客は今も絶えないという。お土産用としての持ち帰り商品はないので、ここ石部屋で食べるしかない。
お茶付きで一皿600円(税込)。
土産物として全国的に有名な安倍川もち。もちろん、それも美味いがこの店の出来立ての安倍川もちは、期待を遥かに上回る柔らかさと香しさが心地よい。旅人が腰を下ろし、甘い「安倍川もち」で旅の疲れをとる。ひと息ついていく気持ちがよくわかる。遊郭へと出かける前に一杯ひっかけたという「からみもち」も、甘いものが苦手な人に是非おすすめしたい。
石部屋の詳しい情報については、文末のMEMO欄から確認して欲しい。
静岡名物として外せない「安倍川もち」の出来立ての美味さ。同様に古くから愛されてきた「からみもち」。この2つを食べずに帰るのは、もったいない
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(2024/10/16更新)
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