南北に長い市域を吉野川が貫流する美馬市。集落のほとんどが吉野川沿いに集中しており、江戸時代に藍商を中心にした商人の町として発展した脇町が中心市街地です。脇町にある、藍商家の重厚な建物が軒を連ねる南町通りは「脇町うだつの町並み」として知られています。
昭和59(1984)年に「脇町の文化をすすめる会」が発足し住民運動が盛んになると、行政との連携でまちづくり計画が進み、歴史的町並みの再生・保存の体制が整いました。その成果もあり、昭和63(1988)年に全国で28番目の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたのです。全国的にも貴重な町並みです。ゆっくりとその美しさをご鑑賞下さい。
さて、「脇町うだつの町並み」と言う以上、脇町の特徴であり、最も見るべきものは「うだつ」です。ひらがなでの表記が多い一方で、漢字では「卯建」や「梲」とも書きます。しかし、うだつ自体の種類はその表記方法以上に多彩です。
うだつの種類は「本うだつ」と「袖うだつ」の大きく分けて2種類。脇町で見られるのは後者になります。2階建ての家の2階部分、正面両妻側に付けられた袖壁がそれにあたり、小屋根を掛けています。
小さな屋根にもかかわらず端には鴟尾(しび)があったり、獅子などの軒飾りがあったりと、よく見ることで各々が個性を放っていることが分かります。
脇町から吉野川を遡り西へ約10キロ。ここまで来たら、つるぎ町の貞光まで足を運びましょう。こちらで有名なのは、脇町と同じ「袖うだつ」でも、写真のように二層になったうだつです。したがって、貞光の町並みは「二層うだつの町並み」と呼ばれます。
「二層うだつの町並み」が展開しているのは一宇(いっちゅう)街道という名の街道で、四国第二の高峰・剣山方面に向かうことから剣山街道とも呼ばれています。
地図からは、剣山系を源流とする貞光川が、吉野川に流れ込むことでできた小さな平地に町をつくったことが知れ、吉野川の北側を除いて三方は山です。周辺の山村の収穫物と、下流の街の品々が集まったことで繁栄した商業地であると頭で理解しながらも、なぜこうした町が形作られたのか不思議に感じてしまいます。
話をうだつに戻しましょう。貞光のうだつが二層ということは、装飾も2倍ということです。形も1通りではなく、上層・下層が階段状に造られているものもあれば、下層が葺き下ろしになっているものもあり、実に多種多様です。
「二層」で充分にインパクトがありますが、さらに「鏝絵(こてえ)」まで施されたうだつが見られるのも貞光ならでは。鏝絵とは漆喰を塗った上に、鏝(こて)で絵を描いたものです。写真の鏝絵は「鯉の滝昇り」。立身出世、防火を願い描かれました。これ以外にも、白虎、鷹、亀などが見られます。
「うだつ」と言えば先述の脇町や岐阜県美濃市が、「鏝絵」と言えば大分県宇佐市の安心院(あじむ)が有名ですが、「うだつ」も「鏝絵」も見られるのは全国でも貞光くらいでしょう。貴重な意匠が江戸を超え平成を生き抜いていることに感慨を感じます。
脇町は観光地化されており、お土産店や喫茶店もあるので観光客が歩きやすい環境が整っています。一方、貞光はあまり観光地化されていません。換言すれば「俗化されていない」とも言えるでしょう。
いわゆる観光を楽しんだり、気分転換に町歩きをしたりするなら脇町が良いです。静かにバラエティに富んだうだつを鑑賞したいのなら貞光がおすすめです。しかし、うだつの表情の違いを楽しむなら、やはり2つの町を訪れることをお勧めします。江戸期の和風建築意匠のセンスを味わいましょう。
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