写真:万葉 りえ
地図を見るボスフォラス海峡をはさんでヨーロッパサイトとアジアサイトに分かれている街、イスタンブール。ヨーロッパ側から来るとヨーロッパの先端にあるのがスィルケジ駅で、その先のボスフォラス海峡を超えると、そこはもうアジアです。
1883年に開通したオリエント急行。この豪華な個室と食堂、一流のサービスを提供する国際列車に乗れたのは、当時の上流階級に属する人々だけでした。パリ・ストラスブール駅を出て6日かけて到着するコンスタンチノーブル(現イスタンブール)。豪華列車にいた人が降り立つ駅ですから、やはり相応の造りで人々を出迎えていました。
そして、現在のガイドブックにも歴史あるホテルとして「ペラ・パレス」が必ずと言っていいほど紹介されているのですが、このホテルもオリエント急行の開通によって1892年開業しています。
宿泊の対象はこちらもヨーロッパの上流階級。ですから宿泊者リストに載るのは小説家ヘミングウェイや女優グレタ・ガルボなど錚々(そうそう)たる顔ぶれ。そんな著名人の中で忘れてはいけないのが「オリエント急行殺人事件」の著作もある作家アガサ・クリスティです。
写真:万葉 りえ
地図を見る大きな丸いステンドグラスに、見上げればシャンデリア。天井は折り上げの形になっており、ヨーロッパとをつなぐ玄関口であった威厳をそなえた駅。そして壁際にはあめ色になった木のベンチが残されます。
ここに座っていたら、列車の到着とともに、飾りのついたおしゃれな帽子をかぶり華奢なハイヒールをはいた20世紀初頭のいでたちをしたご婦人が、丸い帽子ケースや革のトランクなどをポーターに持たせて入ってきそう。そんな当時の空気が今も感じられる待合室です。
写真:万葉 りえ
地図を見る人気作家にはなったけれど結婚生活が破たんして傷心のうちにいたアガサ・クリスティも、そんなご婦人の一人だったのでしょう。彼女は、オリエント急行のことを聞くやいなや、予定していた旅先を変更してこの地に向かったのでした。
当時の中東への女性の一人旅は、切符を手配したイギリスの旅行社さえ反対したといいます。スィルケジ駅に着いたアガサはイスタンブールで数日過ごし、最終目的地バクダードヘ再度旅立ちました。
オリエントの魅力にとりつかれた彼女は、翌年もバグダードへ向かっています。やがて、その地で若い考古学者と運命の出会い。年齢差を乗り越えて結ばれ、生涯を共にしたのです。夫のいるバクダートの発掘現場と彼女が作品を執筆していたペラ・パレス、そして母国イギリスの間を行き来するために何度もこのステンドグラスの下を通ったのです。
写真:万葉 りえ
地図を見るそんな駅も時代とともに、オリエントを旅する上流階級だけのものではなくなっていきます。
トルコが共和国となり、カリフ制が廃止され、オスマン王家は追放。ここは、その時に最後のカリフがトルコ領外へと去って行った駅。
また、第二次世界大戦末期には日本人特派員も国外追放処分となり、ここから去っていきました。そして、20世紀後半は、トルコからヨーロッパ諸国へ出稼ぎに行く労働者をたくさん送り出していったのです。
写真:万葉 りえ
地図を見るそんなスィルケジ駅の名前を現在につないでいるのが、地下鉄(マルマライ)のスィルケジ駅です。
オリエント急行が走っていた当時は、スィルケジ駅から先へ向かう人は船を使ってアジアサイトへと移動していました。現在は新しい地下鉄のスィルケジ駅から4分ほどでアジア側へ移動できます。
写真:万葉 りえ
地図を見るイスタンブールはご存知のように文明の十字路として歴史を重ねてきた都市。掘り返せば様々な場所から古い遺跡が出てきます。発掘調査を進めながら地下深くを結ぶという難工事は、「世紀の一大プロジェクト」といわれるほどでした。
日本企業もこの難工事で重要な役割を果たし、2013年10月に無事開通式を迎えています。
写真:万葉 りえ
地図を見るマルマライに乗って、ボスフォラス海峡対岸にあるユスキュダル(ウスキュダル)駅で降りれば、観光スポットのクズ・クレスィ(乙女の塔)にも歩いて見に行けます。ここから見る旧市街にあるモスクのシルエットはとてもきれい。ユスキュダルでは、駅の近くの市場やロカンタ(大衆食堂)もおすすめです。
オリエント急行の始発駅であり、終着駅でもあるスィルケジ駅。数えきれない人々の喜びや悲しみの舞台となって、今も静かに次の幕を待っている…。
トプカプ宮殿から歩いて20分程の場所にあるので、そんな駅をイスタンブールを巡る際に訪れてみませんか。
住所:Hocapasa Mahallesi Ankara Cadddesi,Halil Lutfu 4. Is Merkezi K: 1 No:113,Hoca Pasa, 34110 Fatih/Istanbul
アクセス:トプカプ宮殿から徒歩で約20分
※オリエント急行時の駅のほうにレストランがあり、観光スポットになっています。
この記事を書いたナビゲーター
万葉 りえ
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