写真:菊池 模糊
地図を見るゾロアスター教はBC1500年〜BC1000年頃に成立した古代宗教で、開祖が明らかなものとしては世界最古の宗教です。「天国と地獄」「世界の終末」「最後の審判」「メシア」といった思想をはじめて提示し、世界宗教の源流となり、ユダヤ教や大乗仏教の成立にも大きな影響を与えました。
現在は、イランの中央部の町であるヤズドで、ゾロアスター教の寺院や、鳥葬を実施する施設である「沈黙の塔」を見ることができます。
ヤズドのゾロアスター教寺院・アータシュキャデは、ゾロアスター教徒以外の異教徒にも見学を許された貴重な寺院です。本殿中央では、写真のように、ガラス越しに覗ける部屋があり、別名拝火教とも言われるゾロアスター教の聖火が安置されています。
この寺院は新しく建てられたものですが、そこに灯されている聖なる火は、1500年以上前から絶やされることなく燃え続けており、およそ80年ほど前にイラン南部のゾロアスター教神殿から、このヤズドの寺院に運び込まれたものです。
オリンピックの聖火リレーは、ゾロアスター教の火を聖なるものとする習慣から来ているとされています。
また、ゾロアスター教の神官はマギと呼ばれ不思議な力を持つことからマジックの語源となりました。結婚指輪、イスラム教徒の女性の衣装であるヒジャブやチャドルなども、ゾロアスター教に起源があるようです。
アータシュキャデの聖火を見たあとは、敷地内の横の棟にあるゾロアスター教博物館を見学しましょう。
そこには開祖ゾロアスター(ザラスシュトラ、ツァラトストラ)画像や、啓典『アヴェスター』、ゾロアスター教徒の生活や服装などが展示されています。
写真:菊池 模糊
地図を見るヤズドの郊外の荒野には2基の「沈黙の塔」がそびえ立っています。
ここはゾロアスター教徒の遺体を葬る鳥葬(曝葬・風葬)の場所で、現在は近くに人家が多くなったため使用されていません。死体を啄むハゲタカも、もう今ではここに生息していません。
ゾロアスター教徒は火・水・土を神聖なものとし、それらを汚す土葬や火葬を嫌い、自然を汚すことの最も少ない葬儀方式をとったのです。それが鳥葬という葬制です。
古代のゾロアスター教徒は、曝葬してから摩崖横穴に放り込む葬制だったようですが、より洗練された方式として「沈黙の塔」がつくられたらしいです。
下から見上げると「沈黙の塔」の荘厳な姿が印象的です。
向かって左側の「沈黙の塔」が大きく、右側のものはやや小さいです。
この「沈黙の塔」が2基あるのは、ひとつの沈黙の塔を数十年使い穴が一杯になってしまうと、別のほうに移り数十年晒すことで一方が風化するのを待つといった形で使用したためだそうです。従って「沈黙の塔」は2基一対なのです。
写真:菊池 模糊
地図を見るヤズドの「沈黙の塔」は、登って見学することができます。鳥葬が行われていた現場を間近で見るのは貴重な体験です。
2基の「沈黙の塔」のどちらにも登ることができます。右側の塔のほうが低くて登りやすいですが、滑りやすい道なので注意して登りましょう。
頂上に近づくと、彼方に峨々たるザクロス山脈の山容を遠望でき、目前にはもう一方の「沈黙の塔」がそびえています。
振り返ると土漠の中にヤズドの街が俯瞰できます。近くには通夜などに使う集会所の廃墟なども見えます。
「沈黙の塔」に登りきり中に入ると、ぐるっと四方を壁に囲まれた広場があり、写真のように真ん中に大きな円形の穴があります。
現在では浅い穴ですが、かつてはもっと深い穴だったようです。
ゾロアスター教の遺体の晒し方は詳しくは分かりませんが、衣服を脱がせた死者を置き、外側から男性、女性、子供という順番に並べたと伝えられます。
ここに立つと、太陽と鳥により遺体を処理するという自然を汚さない葬制の凄さを実感し、厳粛な思いにとらわれます。
ヤズドには、ペルシア帝国の最後の皇帝ヤズデギルド3世の皇妃や王女が、アラブ人イスラム教徒軍に追われて姿を消したとされる聖地「セティ・ピール」や「チャク・チャク」もあります。こうしたゾロアスター教の聖地も趣がありますので、時間的に余裕があれば見に行ってください。
写真:菊池 模糊
地図を見るヤズドは位置的には現イランの中央部の土漠地帯にあり、古来どこの地からも攻略するのが難しいことから、地域住民の避難地となってきました。そのためゾロアスター教もここで生き残ったのです。
ヤズドの歴史は3000年以上の昔に遡り、メディア王国やペルシア帝国の時代から、土漠の中のオアシス都市として発展し、土漠に水を引く地下水路施設であるカナート網が世界最大の規模で布設されています。そのカナートを巧みに利用した建物による冷房がバードギールと呼ばれる風採り塔の空調システムです。
ヤズドは夏は酷暑で過ごしにくいので、このバードギールが発達しました。これは、高い煙突のような塔を建物の真ん中に設け、上部に暑い空気を導き、カナートの地下水路からの冷気を通すことで、涼しい風が通るように設計されたものです。
写真を御覧下さい。これはヤズドのドラウト・アーバード庭園にあるイラン最大のバードギールで、高さ33.8mあり、ヤズドに来たら必見の建物です。
このバードギールの真ん中に立って、涼しい風を実際に体感してください。
厳しい土漠の環境の中で生き続けて来た、古代からの先人の知恵を身体で理解することができるでしょう。
なお、ドラウト・アーバード庭園は、ペルシア式庭園のひとつとして世界遺産に指定されています。
写真:菊池 模糊
地図を見るヤズドは、日干し煉瓦で構築された都市としても世界有数で、建築学的にも貴重な場所です。
特に旧市街のベージュ色の街並みを散策すれば、迷路のように小路が入り組み、古代の町にタイムスリップしたような感覚にとらわれます。アッシュカラーの建物には大小のバードギールも見られ、魅力ある景観を展開しています。
写真にあるのはその代表的な旧市街の風景です。
また、ヤズドは土漠の真ん中にあるため、古くからキャラバンサライと呼ばれる隊商宿がありました。中庭を取り囲んだ二階建ての四角い建築物です。
現在では、その歴史的伝統を引き継いだ、トラディショナルホテルが数多くヤズドにあり、中庭を天幕で覆ってレストランやチャーイハネ(喫茶)とし周囲の建物を宿泊室としています。特に旧市街の中にある古いホテルに多い形式です。
ヤズドに来たら、ぜひこうしたトラディショナルホテルに宿泊し、エキゾチックな雰囲気を味わいましょう。
さらにヤズドには、アレクサンダー大王が建造したと伝えられるアレクサンダー牢獄跡や、マスジェデ・ジャーメという大きなイスラム寺院、さらにバザールや市民の憩い場となっているアミール・チャグマーグの広場があります。歴史が交錯するこうした場所も忘れずに観光してください。
ヤズドはペルシア古代の面影を残す印象的な町です。
いろいろな見どころがありますが、特にゾロアスター教関連の施設は他に無いユニークなものです。
ヤズドという名前は、ササン朝ペルシア帝国の統治者ヤズデギルド1世に由来し、当時の帝国の公認宗教であったゾロアスター教の中心地であったことから、現在でもいろいろのゾロアスター教施設が残っています。
他にも世界遺産の庭園やバードギール、日干し煉瓦の街並みなど、魅力がいっぱいです。
ぜひキャラバンサライの歴史的伝統をひくトラディショナルホテルに宿泊して、土漠の中の聖地ヤズドを楽しんでください。(下記、関連MEMO欄参照)
この記事の関連MEMO
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(2024/10/16更新)
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