写真:風祭 哲哉
地図を見る五條は、奈良県の南西部にある人口3万人程度の小さな町ですが、吉野川(和歌山県では紀の川)流域に位置していて、また吉野山地への入り口となる場所でもあったことから、大和国と紀伊国を結ぶ交通の要衝として古くから栄えてきました。
中でも旧紀州街道沿いの新町通りは、宿場、商業のまちとして発展した江戸時代の景観を残す街並みが残っており、往時の栄華をしのばせてくれる通りとして有名です。
JR五条駅から吉野川の河岸平野に向けて、ゆるやかな坂を下ると五條の町の中心部となります。ちなみにJRの駅名は「五条」ですが、市の正式名称は「五條」です。
本陣という交差点を南に進むとすぐに現れるのが、栗山家住宅。この建物は江戸時代初期の慶長12(1607)年築で、建築年代の判る民家では日本最古のものといわれています。国の重要文化財に指定されていますが、現在も住居として使われているため、中は非公開となっています。
写真:風祭 哲哉
地図を見る栗山家住宅のすぐ先、新町口の交差点からが、いよいよ新町通りの入り口となります。
通りに入るとすぐ左にある格子戸の建物が五條市指定文化財の栗山邸。少し進むと、両側に白壁造りの古い屋敷が続き、やがて新町通りのシンボル的存在といえる一ツ橋餅店が見えてきます。
吉野川の支流の小さな川にかかる鉄屋橋のわきにある「餅商一ツ橋」という大きな看板を掲げたずんぐりむっくりの古い建物。黙っていても目立ちすぎるこの建物の周辺は、映画やドラマのロケなどにもよく使われています。
メニューは焼き餅、餡入り饅頭、揚げ饅頭と白餅の4種類とシンプルですが、素朴な味に人気があって昼には売り切れて無くなることもしばしば。
写真:風祭 哲哉
地図を見る一ツ橋餅店の先が新町通りの古い町並みが一番美しく見えるポイント。しばらくの間、両側に古いお屋敷が続きます。
すぐ右手にある「まちや館」は、江戸時代末期の建築を修復したもので、初代保安庁長官、木村篤太郎の生家。重厚で風格のある町家づくりの建物のひとつです。
新町通りの中間近くにある「まちなみ伝承館」は、明治から大正の建築で、往時の風情を今に伝える民家を改修整備したものです。
新町通り沿いからは、南北に延びる渋い路地もたくさん張り巡らされています。そのうちのいくつかの路地を南側へ進むと、吉野川の河畔に出られるようになっています。
新緑の時期には、紀伊や吉野の山々を背に、河川敷に建てられたたくさんのこいのぼりが泳いでいます。
写真:風祭 哲哉
地図を見る新町通りをさらに西に進むと、突然、街道をまたぐように目の前を巨大な鉄道のコンクリート橋梁が横切ります。しかもその橋梁は、すぐ先で行き場を失い、宙に向かってむなしく寸断面を晒しています。
これが幻の鉄道、と呼ばれている「五新鉄道」の建設途中で取り残された工事跡なのです。
五新鉄道は、名前の通り、この「五」條と和歌山の「新」宮を結び、紀伊山地を縦断する長大山岳路線として明治末期に計画され、昭和12年に着工されました。このコンクリート橋梁をはじめ、吉野川横断の橋脚や一部のトンネルの貫通なども終わっていたのですが、太平洋戦争の激化に伴う資材不足で工事は一時中断されました。戦後、工事を再開し、五條から新宮までの路盤工事は完成したものの、経済状況の変化などの理由により、結局はここを列車が一度も走ることなく廃墟となった路線なのです。
写真:風祭 哲哉
地図を見るその後、路盤工事した跡地をバス専用道路として整備し、かつては一部の区間を路線バスが走っていましたが、現在ではそれも廃止されてしまい、この先をたどるのはなかなか難しいようです。
残念ながら一度も列車の通ることなく終わってしまった五新鉄道ですが、もし開通していたらどんなルートで、どんな車窓になったのでしょうか。
日本一長い路線バスとして有名な八木新宮特急バスが、ちょうど五條と新宮の間を走っています。このバスに乗ると、途中、十津川の峡谷にかかる谷瀬の吊橋という名物橋や、日本一大きな村といわれる十津川村、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」などを通り、谷あいの絶壁を這うような道が続く、スリル満点の車窓を堪能できます。
そう考えると、もしこの鉄路が実現していれば世界遺産の山々や素晴らしい渓谷を眺めながら走る絶景鉄道路線になっていたことでしょう。
五條の新町通りはJR五条駅から徒歩15分程度、新町通りの入り口から五新鉄道跡までは徒歩10分程度です。町並みをゆっくり散歩しながらでも五条駅を起点に約2時間でぐるっとひとまわりできるコースだと思います。
江戸の景観を残す街並みを散歩しながら、幻の絶景鉄道路線に思いをはせる、時にはそんな空想散歩も、いいかもしれません。
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(2023/12/7更新)
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