インド4大都市のひとつとされるタミルナドゥー州の州都チェンナイからバスで約2時間、荒野を駆け抜けてたどり着くマハーバリプラムという街に「ファイブラタ」があります。「クリシュナのバターボール」や「アルジュナの苦行」(下記MEMO欄参照)がある岩山のさらに奥に位置し、この岩山の南端からなら徒歩15分程でたどり着きます。周辺の遺跡を巡るには、レンタサイクルが便利です。
古代の木造建築の民家やヒンドゥー寺院を模して、地面に突出した巨大な一枚岩の花崗岩から彫り出されたというこの遺跡は、4世紀から9世紀にかけてこの地に栄えたパッラヴァ王朝時代において、この地を統治していた王、マーヘンドラヴァルマン及びその息子であるナラシンハヴァルマン1世の治世下(7世紀半ば頃)に築かれました。しかし、王の死と共に作業は打ち切られ、未完成のまま放置されたと言われています。19世紀に発掘されてようやく地上にその姿を現し、1985年には世界遺産に登録されました。
ラタとはサンスクリット語で山車を意味します。この5つのラタは、長方形や、前方後円型などレイアウトも様々で、大きさや屋根の形もそれぞれ異なる特徴を備えています。これらは、南インドの寺院建築に多大な影響を与えたと言われており、現存する南インドのヒンドゥー寺院は、この5つのどれかが原型になっているとされています。
南インドの古代の建築様式を知る上で極めて価値の高い遺跡であり、周辺には他にも未だに遺跡が眠っている可能性が高く、多くの学者が研究を続けています。
5つのラタには、インドの叙情詩「マハーバーラタ」に登場する英雄やその妻に由来する名前がつけられており、それぞれダルマラージャ・ラタ、ビーマ・ラタ、ドラウパディー・ラタ、アルジュナ・ラタ、ナクラ・サハデーヴァ・ラタと呼ばれています。
(写真は民家をルーツにしているというドラウパディー・ラタ)
写真の中央付近に写りこむ人々と比べて頂ければよく分かりますが、5つのラタは最も大きいもので長さ13メートル、一番高いもので高さは12メートルもあります。
機械のない時代、ひとつの岩からこれだけの大きさのものを手作業で彫り出すことがどれほど困難で、膨大な労力と時間を費やしたかは想像に難くないでしょう。
今でも容赦なく日光が照りつける暑い場所、当時の人々は何を思いながら作業に没頭していたのでしょうか。
マハーバリプラムの街を歩けば、今でも地元民が見事な仏像を彫る風景に出会うことができます。周辺地域では、彫刻が一大産業として根付いており、かつてこれらの遺跡を作った末裔たちが今もその技術を支えているのかもしれません。
インドラ神を祀るナクラ・サハデーヴァ・ラタの横には、神の乗り物とされる象の彫刻があります。これは遺跡のマスコットのような存在で、常に記念撮影をする観光客でごった返しています。
さすがはインド、神聖な遺跡にも関わらず観光客が象の上に乗って撮影したりする光景も見かけます。他にもシヴァ神の乗り物とされるナンディーという聖なる牛や、ドゥルガー女神の乗り物であるライオン像などもあり、動物はどれも撮影スポットとして人気が高いです。これらの動物像に乗っても特にお咎めはないので、神の真似事をしてみるのも一興かもしれません。
この象を鑑賞する上でのポイントは、後姿にあります。ナクラ・サハデーヴァ・ラタの入り口からはまず象の後姿が見えるため、その見た目の通り「象の後姿」という愛称があるそうです。寺院と象のお尻の丸みが同じように見えるのがユニークです。
先述の通り、これらの寺院は未完成のままの状態となっていて、明らかに途中で作業を中断している部分が多数見受けられます。しかしながら、壁面や柱に美しい彫刻が残る部分も多く、是非じっくり時間をかけて見て頂きたいです。
写真はアルジュナ・ラタを裏側から撮影したもので、象に乗ったインドラ神を中心に神々の見事なレリーフを見ることができます。
また、南端にあるダルマラージャ・ラタの壁面は、内部は未完であるものの、外壁には興味深い彫刻があり、中でもアルダーナリシュヴァラという世界でも珍しい男女融合の神(男性はシヴァ神、女性はその妻パールヴァティー神とされています)の像や建設に関わったパッラヴァ朝の王、ナラシンハヴァルマン1世の姿が見てとれます。この王の姿はエジプトのファラオにも似ていて、貿易でアフリカ大陸とも交流があったことを示す証拠とされています。
他にも、ドラウパディー・ラタ内部に彫られた蓮の花に佇むドゥルガー女神も美しく見逃せない彫刻です。
ファイブラタは日本円にして約500円ほどの入場料がかかりますが、マハーバリプラムで最も有名な観光名所である海岸寺院のチケットと共通になっています。
コンパクトな作りではありますが、多くの遺跡にありがちな風化もそこまで激しくなく、建物全体の形がしっかりと残っていて、現存する遺跡としてはかなり見応えのあるものと思います。
少し離れた場所にあるため、ここを見ずして帰ってしまう方も多いようですが、南インドに根付くドラヴィダ建築の真髄とも言えるこの遺跡に立ち、古代パッラヴァ王朝の栄華に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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(2024/4/19更新)
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