写真:Naoyuki 金井
地図を見る戦後間もない昭和21年、戦災の爪跡の残る浅草で創業した『アンヂェラス』は、浅草屈指の老舗喫茶店で、川端康成、池波正太郎、太宰治、手塚治虫など多くの文化人に愛されたお店です。
日本で最初と言われる独特な方法で煎れられる“ダッチコーヒー”と、長い伝統と高い技術を生かした下町の洒落た洋菓子店として多くの人々に愛され、来店するお客は男女問わず多くの方がケーキとコーヒーを楽しんでおり、中には男性一人で来店し、2つのケーキを食している光景も目に映ります。
外観から想像しにくい3階建ての建物は、ヨーロッパの山小屋をイメージし、創業当時から使用されているテーブルや椅子は、先代オーナーのオリジナルデザインで、椅子の背もたれの先端がこけしの形をしているという遊び心も満載のクラシックな空間です。
レトロな店舗でレトロなスイーツとコーヒーのヴィンテージカフェが、昭和へ誘います。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るダッチコーヒーとは、一般には“水出しコーヒー”と呼ばれます。オランダ人が、旧オランダ領東インドネシアで苦いインドネシアのコーヒーを美味しく飲むために考え出された方法を、日本で最初に提供したのがアンヂェラスで、コーヒーにオランダ人を意味する“ダッチ”を付けて命名されました。
ダッチコーヒーを一口飲めば、その深いコクとまったりした味わいに至福のひと時を感じ、抽出に5時間以上かかると聞けば、感動すら覚えるコーヒーです。しかし、アンヂェラスでは更にひとひねり。海外旅行が趣味の現オーナーが考え出したのが『梅ダッチコーヒー』で、ダッチコーヒーに自家製の梅酒を注いで飲むという裏メニューを創作したのですが、池波正太郎が飲ませてと頼んだことからレギュラー化されたものです。
コーヒーの苦さに梅の爽やかな酸味が意外と合い、最後にいただく梅酒用の梅が、時代劇の世界に引き込みます。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る現代の中高年世代が「不味かった」と声を揃えるであろう“バタークリーム”は、ヌルヌルとした食感と脂っぽい味の、生クリームのなかった時代のケーキ用クリームでした。
そのバタークリームが、アンヂェラスでは今だに市民権を得ています。それがチョコとホワイトチョコの2つの味が楽しめる、店名を冠したロールケーキ『アンヂェラス』です。
このロールケーキに使われているのがバタークリームで、生クリームの軽やかさや、甘さ控えめなんて我関せず、昔ながらのベタ甘クリームです。しかし、コクがあって脂っぽさのないクリームは、かつてのバタークリームとは似ても似つかぬ美味しさ。その理由は、往時のバタークリームは名ばかりで、バターを使わず不味いマーガリンや身体に悪いショートニングを使っていたからなのです。
本来のバターを使った美味しいバタークリームケーキが、懐かしい味を思い起こさせます。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る昭和の時代に大人の味として人気があったのが“サヴァラン”と呼ばれるフランスの焼き菓子で、ブリオッシュを切ってシロップを染み込ませ、冷やしたものにスピリッツをかけ、生クリームや果物で飾りつけたものです。
アンヂェラスでは『サバリン』と命名し、あの巨匠・手塚治虫が何度も通って好んで食べていたケーキです。
この『サバリン』は、ラム酒のシロップを染み込ませたデニッシュに、クリームを挟んだシンプルなものですが、兎に角ラム酒の量が凄いのです。デニッシュがラム酒につかっているようなもので、生地にしみこまないラム酒が銀紙にあふれ出ているのが見て取れるほど。
そして甘さ抑えめなクリームと相まって、まさにラム酒を飲んでいるのではないかと錯覚するほどの強烈さで、お酒が飲めない方は本当に酔ってしまうかもしれません。
偉大な漫画家の愛すべき強烈なラム酒で、懐かしいアニメが蘇ります。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るアンヂェラスのメニューは、大別すると洋菓子・クリーム・飲み物の三部門で、これらのメニューの中には、フルーツパフェ、プリンアラモード、ピーチメルバといった懐かしい昭和のレトロスイーツが目白押しです。
その中でも特に異彩を放っているのが『フルーツポンチ』。
果汁などを混ぜたアルコール飲料に、切ったフルーツを入れた飲み物で、外国映画や海外TVに出てくるフルーツ盛りだくさんのカラフルなパンチは、日本人の憧れの的でした。
“パンチ”が“ポンチ”になった説は置いといて、桜桃やパインがゴロゴロと敷き詰めた上に、コーヒー・イチゴ・メロン・カルピス味の4色のゼリーが盛り込まれ、薄めたシロップが、ちょっとスパイシーな香りを漂わせるフルーツポンチは、まさしく昭和のシンボルカラーです。
憧れの的であったキッチュな味と色彩が、忘れていた無垢なあの頃に戻してくれます。
初代オーナーの夫人がクリスチャンだったところから、“聖なる鐘の音”という意味の店名になった『アンヂェラス』。
懐かしさを求める中年や、新しさを感じる若い方のカップルが多いのですが、意外と父娘のカップルも訪れています。また、男性の多くがケーキをいただいているので、隠れスイーツファンの男性でも気兼ねなく食べられるのが嬉しいところ。
そして店内にはスイーツケースがありますので、ケーキをテイクアウトすることもできます。
昭和が懐かしくなった人、昭和を感じてみたい人、そして何よりレトロなコーヒーとスイーツを味わってみたい方、わざわざ行っても価値ある『アンヂェラス』です。
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(2023/12/5更新)
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