信州「諏訪五蔵」で伝統に触れ、美酒を味わう酒蔵巡り

信州「諏訪五蔵」で伝統に触れ、美酒を味わう酒蔵巡り

更新日:2015/09/28 15:14

和山 光一のプロフィール写真 和山 光一 ブロガー
JR上諏訪駅からほど近い国道20号(甲州街道)沿いには5軒の酒蔵があり、しかもそれぞれの蔵は五分圏内です。諏訪盆地特有の寒さ厳しい冬の気候と霧ヶ峰山麓からの伏流水を利用して醸された美酒は、この地方を代表する地の味覚の一つです。そんな各蔵こだわりの美酒たちを味わいに出かけたいものです。毎年10月と3月には「上諏訪街道呑みあるき」というイベントが催されます。呑み比べに出かけてみてはいかかですか。

近代日本酒造りの礎を築いた「七号酵母」発祥蔵「宮坂醸造」

近代日本酒造りの礎を築いた「七号酵母」発祥蔵「宮坂醸造」

写真:和山 光一

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昭和21年、酒造りに一大革新をもたらす「協会七号酵母」の発祥蔵で、酒銘は諏訪大社上社の宝物「真澄の鏡」の名を冠した銘酒の蔵元が、寛文2(1662)年創業で高島藩の御用酒屋を勤めていた老舗酒蔵「宮坂醸造」です。諏訪で半生を過ごした松平忠輝公(徳川家康の六男)が常に座右に置き愛飲したとか、赤穂浪士の大高源吾が喉越しを絶賛したなど、江戸時代の逸話として伝わるほど美味なる酒として名高かったといいます。創業時から食中酒として好まれる酒を作り続けていて、その酒質は、ほんのりと甘めで喉を通った時にスーッと流れていくキレのよさも備えた美酒です。

海外でも注目を集める宮坂醸造のアンテナショップ「Cella MASUMI」では、いつでも試飲用のグラス320円を購入すれば月替わりで5〜6種類のお酒を唎き酒できます。さすがは世界の真澄、お洒落な和の空間で、作家物の酒器やセンスのいいオリジナル商品も揃っています。

大地の贈り物、温泉熱を利用した麹づくりの「伊東酒造」

大地の贈り物、温泉熱を利用した麹づくりの「伊東酒造」

写真:和山 光一

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諏訪湖の東岸一帯に開けた上諏訪温泉の熱を利用した麹づくりをしている全国でも珍しい酒蔵が、昭和28(1953)年創業の「伊東酒造」です。

平家物語にある、平重盛に仕える若武者齋藤滝口時頼と建礼門院の官女「横笛」との悲恋物語を耳にした信仰心深かった初代当主が、「横笛」の名を後世に残すと同時に末長く菩薩を弔うことも含め、「大銘酒 横笛」と命名し醸造することとしたのです。又、この悲恋物語を初代当主より耳にされた故伊東深水画伯は当蔵の為に「紅梅の図」を図柄に描いて下さっているとのことです。

「横笛」は辛口をうたっていますが飲み口は甘く、その後に続く酸と一瞬感じるドライなキレがあります。

家族中心の小さな造り酒屋「酒ぬのや本金酒造」

家族中心の小さな造り酒屋「酒ぬのや本金酒造」

写真:和山 光一

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5軒の酒蔵の中で真澄の宮坂醸造の次に歴史があるのが、創業から2016年に260年を迎える伝統ある酒蔵「酒ぬのや本金酒造」です。
創業者である宮坂伊三郎が酒株を譲り受け酒造業をはじめたのがはじまりです。屋号は志茂布屋(しもぬのや)といい、当時上諏訪町には13軒の造り酒屋があり、その内の1軒でしたが明治、大正、昭和と激動の中、屋号も志茂布屋から現在の酒布屋に改めています。本金の文字には「本当の一番(金)の酒を醸す」という想いが込められているとのこと。また、左右対称の2文字からは、「裏表のない商売」という意味もあるらしいです。

社氏の名を冠した辛口の本醸造「太一」は、ただ辛いだけでなく、甘辛酸といった酒質のバランスがとれた幅のあるお酒で、飲むと、ほっとできてどこか懐かしさを感じるお酒です。

寛政元年創業、歴史と水の蔵「麗人酒造」

寛政元年創業、歴史と水の蔵「麗人酒造」

写真:和山 光一

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今を遡ること二百数十余年、寛政元(1789)年に諏訪の地に創業したのが、「麗人酒造」です。蔵内には、酒の神・京都・松尾大社の銘と年号が記された大黒柱が残されています。
麗人酒造の所在する諏訪盆地は、フォッサマグナ(中央大地溝帯)の上に所在し、霧ヶ峰高原(海抜約1900m)に降り注いだ雨が、非常に長い時間をかけて地中で浄化された水が、伏流水となって流れ込んでいます。麗人の蔵の中の井戸には、その伏流水が、毎分150リットルあまり、止むことなく涌き出ています。この井戸の水は軟水で、仕込みから製品になるまでの間に大量の水を必要とする日本酒造りの源として、創業より大切に受け継がれているとのこと。一般に、軟水は硬水に比べて酒の発酵を和らげると言われ、麗人のお酒がまろやかな喉ごし、芳醇な香りとコクを持つのは、この水の特性を熟知した杜氏や蔵人の技によって生まれてくるからなのかもしれません。

また麗人酒造は、自社の井戸水である「軟水」に、当地に豊富に湧き出るミネラルの豊富な「上諏訪温泉」をブレンドし、「諏訪浪漫麦酒」というキレのある旨いビールを醸しています。

諏訪社氏の手によって「甘・辛・酸・苦・渋」の五味が調和した酒造りを目指す「舞姫酒造」

諏訪社氏の手によって「甘・辛・酸・苦・渋」の五味が調和した酒造りを目指す「舞姫酒造」

写真:和山 光一

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最後に5軒の酒蔵でJR上諏訪駅に一番近い場所に位置するのが「舞姫酒造」です。明治27(1894)年、初代当主土橋四郎(隠居名は亀仙)が同地区内にあった味噌・醤油の醸造元である亀源醸造から分家し、亀泉酒造店として酒造りを始め、大正元(1912)年大正天皇即位の際に、酒を献上し、「桜楓正宗」から「舞姫」へ銘柄を改名されたといわれます。ちなみに、初代当主の隠居名である「亀仙」の銘柄も商品にあります。平成11(1999)年自社酵母を使った新ブランド「翠露」(すいろ)をリリースし、酒米に「雄町」と「美山錦」を使い、味や香りが異なる限定酒を発売しています。翠露は生酒を主力としているので、冷蔵管理された酒販店しか卸されていません。

昭和25年、朝日新聞に小説「舞姫」を連載していたのを3代目当主が知り、親しみを覚えて川端康成に酒を贈呈し、そのお礼として礼状が届けられたのです。川端康成の書いた「舞姫」の文字は、限定酒・純米吟醸のラベルとなって今に甦っています。

上諏訪街道呑みあるきイベントに参加してみましょう

甲州街道のわずか500mの間に5軒の酒蔵が立ち並ぶ全国的にも珍しい酒の街で行われている上諏訪街道呑みあるきは、各蔵元が丹精込めた美酒を楽しみながら、諏訪の歴史ある街並みのそぞろ歩きを楽しんでいただきたいと1998年から秋(10月)と春(3月)の年2回開催されています。お猪口付きのパスポートを買って、あちらの蔵、こちらの蔵と巡ってみてください。試飲だけでなく各蔵おつまみを用意したり、地場産品ブースも出店するので楽しいこと間違いありません。秋は涼しい風にほろ酔い加減がなんとも言えなく、春の呑み歩きはほんのり暖かいです。JR松本駅からは臨時列車「ほろ酔い上諏訪街道号」が運行されますので利用されてみてはいかがでしょうか。

また呑みあるき以外の日でも酒蔵めぐりができる「いつでもごくらく酒蔵めぐり」が2014年からスタートしています。参加者は蔵元でクーポンを購入し、スタンプラリー形式で各蔵元を巡り、それぞれオリジナルのお猪口やグラスがもらえ、試飲が楽しめます。五蔵すべてのスタンプが集まったらプレゼントに応募してみてください。

最後に大正元(1912)年に下諏訪町で創業した下諏訪唯一の造り酒屋「菱友醸造」を紹介しておきます。町内の黒曜石採掘場から湧き出る「黒曜水」を使って「御湖鶴(ミコツル)」を醸しています。五蔵めぐりにあわせて訪れてみてください。

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掲載内容は執筆時点のものです。 2015/02/07 訪問

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