六甲ケーブル山上駅から徒歩10分のところにある天狗岩は、ドライブウェイから別荘地へつづく山道を少し入ったところにあり、今は廃駅となった山上ロープウェイ天狗岩駅からもほど近く、眺望の素晴らしい磐座(いわくら)です。
六甲山は近代アルピニズムの黎明期のはるか昔から修験者たちによってさまざまな行場が築かれてきました。
その中でもとりわけ愛された磐座が、ここ天狗岩だったのです。
秋深くなるときのこの名所となるこの磐座へ至る山道は、登山客にはなじみの岩峰。この山旅の序章として最適なものです。
まずはこの岩角に立ち、かっては茅渟(ちぬ)の海と呼ばれた大阪湾の眺望を楽しんでから、六甲修験の最奥部の磐座へと向かいましょう。
ふたたびドライブウェイへと舞い戻り、向かいの六甲スカイヴィラの脇の小道を上り、神戸ゴルフ倶楽部のフェンスにそって六甲高山植物園へと進路を取ります。
六甲高山植物園前を通り過ぎ、六甲オルゴールミュージアムの前からドライブウェイの枝道へと入り、さらに行くこと15分。別荘地が果て、舗装路が終わるところから山道へと分け入り約5分ほどで磐座直下の広場に出ます。
真冬には、巨大氷柱がシャンデリアのように垂れ下がるこの眼前の大岩峰全体が、行者たちの聖地。
裏六甲の唐櫃(からと)にある法道仙人由来の毘沙門天を本尊とする多聞寺の奥の院なのです。
7世紀前半に印度から飛来したといわれる法道仙人は、役行者の播磨版の修験の開祖。摩耶山の天上寺は言うまでもなく、六甲以西の開山伝説は、この仙人が大半を占めるほどの人気者です。
かっては裏六甲の山腹にあったと伝えられる多聞寺をベースに、裏からシュラインロード(行者道)を上り、この奥の院、天狗岩を経て表六甲を甲山や金鳥山へと下るルートが古くから通じており、多くの修験者、巡礼者が行き来しました。
さきほどの広場からすぐ上手には、法道仙人が般若心経を刻んだといわれる経ケ岩(現在のものは大正5年再建)があります。
この屹立する岩峰に真向かうと、ここが六甲連山の最奥部だという思いにとらわれます。
この経ケ岩からはほぼ垂直の細い岩間の道が続き、それを上りつめたところには仙人が毘沙門天を感得したといわれる雲ケ岩(蜘蛛ケ岩)が鎮座まします。(もちろん一般客用には、手すりつきの鉄製の階段が取り付けられています)
この岩峰の上下両岩の中間地点には六甲比売(命)神社が巨岩の傍らに据えられています。
また、雲ケ岩のすぐ上の山巓には数畳ほどもあろうかと思われる平らな磐座があり、脇には石の祠がまつられています。
ここから熊笹の小道を東へ行くと六甲山カンツリーハウスに出ます。
こうした名高い観光スポットに取り巻かれながら、おとなう人とてなく、実に静謐の時を刻んできたこの磐座には、秘められたパワーを感じずにはいられません。
この霊山の核心部に位置する磐座への往還には六甲高山植物園と神戸ゴルフ倶楽部に挟まれた隘路(あいろ)をたどりますが、運がよければ写真のような身ひとつ入れるだけの穴ぼこに納まりかえる蟾蜍(ひきがえる)に出会えるかも。
こんな大物と出会うことは稀としても、こののどかな天空の旅では、四季折々の野草やきのこ、そして普段なじみのうすい蝶や昆虫たちもふんだんに見ることができ、きっと忘れ得ぬ思い出となるでしょう。
この旅のおまけとして、六甲ガーデンテラスへ立ち寄り、眺望を楽しみ、オシャレな神戸みやげを買い求めることも忘れてはなりません。
毎年の秋には恒例の六甲ミーツ・アート 芸術散歩が開催され、山なみを走るドライブウェイ沿線の各所で趣向をこらしたアート作品が自然に溶け込む形でさりげなく展示されます。
2015年度は、9月13日から11月23日まで六甲山はいたるところギャラリーとなります。
車で来られる方は、六甲の山上アートとショッピングが、ふたつながら楽しめるガーデンテラスに車を置かれると、磐座まで難なくたどることができます。
神戸市民にとって六甲山ほど愛される山はありません。市バスやケーブル、ロープウェイなどさまざまな交通機関を利用すれば、気楽に山の雰囲気が味わえ、しかも山頂は一大都市と化した感すらあり、高山にもかかわらず安全です。
そんな六甲山が山岳信仰の一大聖地であったことは、人々の記憶からどんどん薄らいできています。
俗世を離れ、大いなる自然に包まれることで心身のバランスを回復してきた山岳信仰。
そんな不思議なパワーをそこに立つだけで体感できる磐座(いわくら)巡りを、ぜひこの安全な六甲山からはじめましょう。
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