五島列島のほぼ中央に位置する人口2,259人(2015年版市政要覧)の「奈留島」は手のような形が特徴的な入江と岬がとても美しい島です。
五島におけるキリシタン信仰は永禄9年(1566年)に領主であった宇久純定がイエズス会のルイス・デ・アルメイダを招いたことによって始まりますが、江戸幕府の禁教令に基づく弾圧から途絶えてしまいます。
その後、寛政9年(1797年)に福江藩の要請により大村藩の外海(そとめ)地域から3,000人もの潜伏キリシタンたちを労働力として移住させたことで信仰の火は再度灯ります。この奈留島にも三重村樫山(現「新長崎漁港」北側の半島部)の長吉、正吉、北平の3人が葛島に移住したのが始まりと伝わっています。
禁教令撤廃後、上五島地区を担当していたブーレル神父によって明治14年(1881年)3月に洗礼を受け、カトリックに復帰したカクレキリシタンの4家族が「江上天主堂」の信者のルーツとされています。
信者たちがカトリックに復帰した当時、江上地区に教会がなかったため、小さな櫓こぎ舟で「奈留島」北方の葛島教会や上五島の有福(ありふく)教会に通い続けていましたが、当地で祈りを捧げたいという信徒190人が結束し、鉄川与助に設計・施工を依頼。
信徒たちはタブの木を切り払って敷地を造成し、建設資金の20,000円(現在の価値に置き換えると約6,600万円)は、きびなご漁で得た収入などによって全てを賄い、大正7年(1918年)3月に完成させた教会がこの「江上天主堂」です。
「江上天主堂」は「奈留島」北西部に大きく突き出した半島部の西側:大串湾に面した海辺近くにあります。山にほど近い河口の平坦地に建てたため、建物周囲に雨水が溢れても大丈夫なよう、高床式の構造になっています。
木造平屋瓦葺きのロマネスク様式による建物で二段になった切妻屋根と円形のアーチを持つ2つの小窓、天主堂と筆書された額が特徴的。白く塗られた横板下見張りの外壁と水色の窓枠の建物が森から見える様子は愛らしい印象を与えています。
内部は本格的な三廊式、リブ・ヴォールト(かまぼこ型のアーチ)天井で作られ、内部の柱も湿気による腐食防止と虫除けのために弁柄(べんがら)という酸化鉄を塗布。その上から立派な柱に見えるよう手書きで木目を描いており、同様に天井にも木目に描いています。柔らかな日が差し込む窓ガラスにもステンドグラスの代わりに手書きで桜の花を描いています。
江上天主堂が愛らしい雰囲気を出しているのは、作り手たちの心づくしの思いが込められた教会だからなのでしょう。
ちなみに教会の右側の林にはハートの形をした枝を見ることができます。自然が作り出した意匠ですが、女性の方には人気の見学スポットになっています。
現在、「江上天主堂」の内部見学は「長崎の教会群インフォメーションセンター」への事前申込が必要となりました。世界遺産認定となれば見学人数の制限も予想され、たやすく見られないようになるかもしれません。
数多くの人が訪問する前に心静かに訪れてみてはいかがですか。
※ 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)休・第3日曜日の14時30分以降はミサのため、見学できません。
最初に教会が建てられたのは奈留島北方に浮かぶ「葛島」でしたが、過疎化のため昭和48年(1973年)に「奈留島」島内の樫木山地区に集団移住し、「奈留教会」の所属となりました。それにより江上地区と南越地区の信徒たちとともに「奈留教会」が島内のカトリック信仰の中心となっています。
今の建物は台風対策のため、昭和36年(1961年)に建てられたものですが、もともとは大正15年(1926年)に建てられた由緒ある教会です。かつては「江上天主堂」を見学するには「奈留教会堂」で見学を申し込み鍵を借りていました。「奈留教会」はミサの時間以外は自由に見学できますので、ぜひ立ち寄ってみてください。
余談ながら、奈留島中央部に突き出した半島の南越地区にある「南越教会」は、現在閉鎖されており、江上天主堂に行く際、対岸からその姿を見ることができます。教会に行くには私有地を通ることとなるため、観光目的の訪問はやめましょう。
「奈留島」は本土からダイレクトに訪れることはできませんが、「福江島」や上五島の「中通島」、「若松島」から訪れることができます。また、「博多港」を23時45分に出発し、3島を経由して翌朝7時25分に「奈留港」に着くフェリーもあります。船の便数や種類も多く、島内にレンタカー会社やタクシー会社も複数あるため、比較的旅程が立てやすい島といえます。
前述の教会以外にも雄大な「千畳敷海岸(写真)」や「奈留高校のユーミンの歌碑:瞳をとじて」、変わったところではメジャー殿堂入りした野茂投手が育った祖母が営む家電店などがあります。
起伏に富んだ島内の景色はとてもきれいですから、たっぷり時間をとって訪れてみてはいかがでしょうか。
教会は信者の皆さんにとって大切な祈りの場です。お祈りされている方の邪魔にならないよう静かにご見学ください。特に長崎の教会は過酷な弾圧を耐え、信仰を守り続けた歴史に対する配慮が必要です。くれぐれもマナーを守って見学してください。
祭壇はもっとも神聖な場所です。絶対に立ち入らないようにしましょう。教会後ろの二階部分も立ち入り禁止です。
また、祭壇はもちろん、ミサの撮影はNGです。司祭等のお許しがない限り、撮影・公開するのはマナー違反です。
くれぐれも教会や史跡を毀損することはお止めください。撮影しようとして、墓所に立ち入るなどの行為はもちろん、木々や草花を折ったり、抜いたり、モノを移動することは慎みましょう。
※ 見学マナーについては「長崎の教会群インフォメーションセンター」のWEBサイトもご覧ください。
参考文献
長崎游学(2) 長崎文献社
カクレキリシタン オラショ-魂の通奏低音 宮崎 賢太郎/長崎新聞新書
カクレキリシタンの信仰世界 宮崎 賢太郎/東京大学出版会
五島キリシタン史 浦川和三郎著/国書刊行会
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