福島県須賀川宿の宮先町で代々庄屋を務める市原家に飼われていた白毛の秋田犬「シロ」は、人間の言葉がなんでも分かり、買い物や用事を行なう利発な犬として町中の評判でした。
市原家では毎年、当主が春の皇大神宮(内宮)神楽祭りに参拝していましたが、ある年のこと当主の綱稠(つなしげ)氏が病気になってしまい、伊勢参りを行なうことができなくなりました。
さて、どうしたものかと皆で相談したところ、「シロ」に代参させようということに決まり、道中の路銀と道順を記した帳面、『人の言葉が分かるので道順を教えてあげてください。「シロ」を助けてあげてください』というメッセージを頭陀袋に入れて「シロ」の頭から下げ、伊勢神宮に向けて出立させました。
市原家の人々は須賀川宿のはずれまで「シロ」を見送り、朝晩神棚に灯明をあげて無事を祈っていたと伝わっています。
「シロ」は奥州街道(現在の国道4号線)を下って江戸に入り、東海道〜四日市経由で伊勢神宮に向かい、2ヶ月後の夕方、無事に帰って来ました。
頭陀袋の中には、皇太神宮(内宮)のお札と奉納金の受領や食べ物の代金を記した帳面と路銀の残りが入っていました。
「シロ」は主人に代わってお伊勢参りをした忠犬と町中の評判になり、皆から可愛がられますが、3年後に死んでしまいました。文化・文政年間(1804年〜1831年)頃の出来事です。
須賀川〜日本橋/37宿、日本橋〜四日市/43宿、四日市〜山田/8宿。「シロ」は、一日3宿のペースで往復したこととなります。
当時、街道沿いの人たちも主人に代わって代参する犬たちを気遣い、水を与えて軒先で休ませてあげたり、路銀の小銭が多くなっていたら両替して袋を軽くしてあげたり、次の宿場宛に申し送り状をつけた奉行もいたという微笑ましいエピエードが残されています。
また、白犬(白い毛の動物は神の化身であり、人に近いという俗信)であったことも「シロ」の身を追い剥ぎなどから守ったようです。
没後、「シロ」は市原家の菩提寺である十念寺に葬られます。「シロ」を模した石像付きの立派な犬塚(お墓)が建てられ、今も丁寧に弔われています。
正式名称は来迎山白道院十念寺。浄土宗名越派のお寺として良岌上人によって文禄元年(1592年)に開山された古刹で境内には芭蕉の句碑、女流歌人 市原多代女の句碑、そして東京オリンピックの銅メダリスト円谷幸吉さんの墓所があります。
余談ながら人間の言葉が理解できたということは5歳〜7歳位のシニア犬であったかもしれません。であれば、内宮までの旅路はシロにとって、かなりの負担であっただろうと思いますが、大好きな飼い主さんのために命がけでお使いを果たしたのでしょう。
「シロ」の墓碑は本堂左側の墓所内にあります。お墓参りをされている方や参拝されている方の邪魔にならないよう静かにご見学ください。まわりに十分配慮し、マナーを守って見学(お参り)してください。また、見学(お参り)の際、墓碑や石碑、石像に自ら手向けたお供物などは絶対に放置せず、すべて持ち帰りましょう。残していくと誰かが片付けなければなりません。追悼するお気持ちだけで十分かと思います。
また、くれぐれも墓碑や石碑、石像を毀損することは絶対にお止めください。良い写真を撮影しようとして他の墓所に足を踏み入れるなど、墓所や史跡を冒涜する行為はもちろん、木々や草花を折ったり、抜いたり、モノを移動することは厳に慎みましょう。深くお願いいたします。
余談ながら十念寺の墓所は2011年に起こった東北地方太平洋沖地震での損壊が激しく、今も修復工事が行なわれており、そこかしこに倒れた古い墓石や石仏が数多くあります。
見学(お参り)される方は工事されている方の邪魔にならないよう、損壊している墓碑等に失礼のないよう、ご配慮ください。
一日も早い復旧をお祈りいたします。
アクセスと参考文献
JR東北本線「須賀川」駅下車・福島交通バス「宮先町」バス停下車徒歩5分程度。
「犬の伊勢参り」(仁科邦男著/平凡社新書)
「郷土須賀川」(須賀川市史 別巻/須賀川市教育委員会)
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