「初恋」の香りのりんご風呂!藤村ゆかりの宿・信州小諸「中棚荘」

「初恋」の香りのりんご風呂!藤村ゆかりの宿・信州小諸「中棚荘」

更新日:2015/11/02 10:51

和山 光一のプロフィール写真 和山 光一 ブロガー
島崎藤村の「千曲川旅情のうた」に登場する信州小諸の中棚荘で、りんごが出回る10月から3月までの間行われているのが、中棚温泉名物「初恋りんご風呂」です。藤村の「初恋」の中の一節、「まだあげ染めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり・・・」から名付けられました。誰にでもある甘酸っぱい初恋の思い出に浸りながら、藤村のような詩人になってみませんか。

名物の初恋りんご風呂に身体も心も癒される

名物の初恋りんご風呂に身体も心も癒される

写真:和山 光一

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冬の寒さで冷えきった体を温めるには温泉に限ります。その温泉にりんごが浮いていたらもっと素敵ではないでしょうか。中棚荘の浴槽は太い円柱型の湯枕という木によって仕切られていて、冬の時期には、そこに地元で採れた数十個の赤いりんごが浮かんでいます。これが名物「初恋りんご風呂」です。檜の丸太にタオルを置けばまさしく湯枕になり、身体から力が抜けて極楽の境地にひたれます。

中棚温泉は、自家所有の地下600Mから汲み上げた源泉100%の温泉です。泉質は弱アルカリ性低張性温泉で、濃度が低い分肌に優しく、包み込むような感じがしますし、もちろん飲用も可能です。神経痛、慢性疲労、美肌、ストレス、冷え性に効果があります。湯船に身を沈めると、温められたリンゴが互いにぶつかりあって放つ香りに、身も心も癒されます。眼下には、千曲川沿いの風景が広がり、飽きることなく、浴槽から眺めることができます。

島崎藤村が愛した小諸の湯宿「中棚荘」

島崎藤村が愛した小諸の湯宿「中棚荘」

写真:和山 光一

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しなの鉄道の小諸駅から小諸城址・懐古園脇の細い坂道をぐるりと回り、眼の前に千曲川が開けた、崖沿いに立つ中棚荘。その風情は、「千曲川いざよう波の岸辺近き宿にのぼりて 濁り酒濁れる飲みて・・・」と島崎藤村が詩にしたためた頃のままです。

小諸義塾校長の木村熊二の別荘「水明楼」を拠点に、近隣の人々の社交場として明治31年に造られた宿で、明治時代、小諸義塾の教師として小諸に赴任した藤村自身も中棚荘の温泉を好み、塾生たちを連れてしばしば入浴に訪れたといいます。

玄関口に掛けられたオリジナルデザインである、着物の形をした大きな暖簾をくぐり館内に入ると、右手に藤村の肖像画が掲げられた落ち着いたラウンジがあります。ラウンジの大きなガラス窓からは、千曲川に架かる「もどり橋」と対岸の山並みを見ることができます。島崎藤村の著書をはじめ、信州ゆかりの多くの本がそろっています。温泉水でいれたコーヒーなどをいただきながら、ゆっくり読書などはいかがでしょうか。冬場は暖炉に火が入り、暖かいことこのうえなしです。

気持ち良いのはりんご風呂だけではなく露天風呂も

気持ち良いのはりんご風呂だけではなく露天風呂も

写真:和山 光一

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中棚荘の浴室には、建物の裏手にある長い石段を50段ほど上っていきます。途中には、休み処もあって風情あふれる心遣いに、うれしい気持ちになりながら、手前に男湯「樹林の湯」、奥には女湯の「観月の湯」と書かれた湯小屋に着きます。

畳敷の脱衣所と浴室の仕切りがない「大名風呂」と言われる開放的な浴室で、むき出しになった梁が印象的です。内湯の奥の木製の取っ手を押して、千曲川を望める眺めの良い露天風呂に行くと、その解放感に心が躍ります。内湯より少しぬるめで長湯が楽しめ、源泉の打たせ湯も気持ちがいいです。打たせ湯で肩をほぐして、露天風呂に肩までどっぷりとつかると、肩も心もゆっくりとほぐれていくのを感じます。

はりこし亭で古き良き時代の空気に和む

はりこし亭で古き良き時代の空気に和む

写真:和山 光一

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中棚荘の敷地には「はりこし亭」という伊東深水がこよなく愛した、藍染め業を営んでいた築140年の古民家を移築した食事処があります。木組みの高い天井には太く見事な梁がめぐり、畳敷きに信州名物の長座布団と掘り炬燵式の佇まいは古き良き時代の日本建築そのままです。お座敷では、足を伸ばしてゆっくり食事が楽しめます。民家に残っていたという藍染の型紙を使った、タペストリーや暖簾が何とも粋な雰囲気です。

名前の由来は南佐久地方の郷土料理「はりこしまんじゅう」からきています。丸めた饅頭を天井の梁を越すようにポーンと投げ、お椀で受け止めて作るというまんじゅうなのです。「君はまだハリコシなぞという物を食ったことがあるまい」という一節が藤村の「千曲川スケッチ」に登場しています。

ここではやはり信州小諸蕎麦か、具だくさんの汁の中にあらかじめ茹でておいたうどんを「とうじカゴ」で投じて食べるおにかけうどんです。食事をすると入浴料が割引になりますよ。

小諸といえば「小諸なる古城のほとり・・・」懐古園に、お散歩は如何

小諸といえば「小諸なる古城のほとり・・・」懐古園に、お散歩は如何

写真:和山 光一

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中棚荘から徒歩10分弱のところにあるのが、島崎藤村の「千曲川旅情のうた」で「小諸なる古城のほとり 雲白く遊子悲しむ・・・」と詠まれ、全国的に有名になった小諸城址・懐古園です。小諸の地には浅間山の火山灰地が浸食された深い谷が幾筋も走り、小諸駅の南東に位置する小諸城は、城としてはめずらしく城下町よりも低い場所に立つ穴城です。

天文23(1554)年、武田信玄が山本勘助らに命じて綱張りされ、千石秀久、2代忠政の代に完成した城内は、枡形を多用し、要所要所には橋や櫓、門を構えるなど、敵の侵入に備えた造りでした。別名「酔月城」とも呼ばれたお城のほとんどの建物は廃藩の際に壊され、藤村記念館などがある懐古園となりましたが、現存する建物のひとつに「三の門」があります。

三の門は国の重要文化財で、自然石をそのまま積み上げた野面積みの石垣が、そびえ立つ寄棟造り瓦葺きの門にさらなる迫力を与えています。威風堂々としながらも、どこか哀愁漂う雰囲気も醸しています。三の門に掲げられた「懐古園」の文字は、徳川16代家達によるものです。

また名曲「上を向いて歩こう」という歌の歌詞は、永六輔さんが戦時中に小諸に疎開に来て、疎開先でいじめられて、懐古園を一人歩いていたときのおもいを詩にしたものです。

小諸の眺めには、たくさんのスケッチポイント

上信越自動車道を小諸ICで降りると、小諸の市街地まで10分ほどです。島崎藤村が散文集「千曲川スケッチ」や「千曲川旅情のうた」に謳った詩情豊かな風景が残る小諸。その風光明媚な土地は、藤村の小説への旅立ちの地であり、若山牧水、高浜虚子、幸田露伴、伊東深水等多くの文人の来訪した地でもあります。

旧北国街道小諸宿の中心である本町は、古い商家の町並みが残り、島崎藤村が明治32年から6年間住んでいた場所でもあり、その作品にもこの界隈のことが登場しています。この本町界隈は、昭和63年(1988)12月24日に公開された日本映画・男はつらいよシリーズの40作目「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」の舞台でもあります。
「男はつらいよ」の寅さん演じる渥美清は、この映画のロケ地となる前から小諸には足しげく通い、晩年はこの地に住みたいと願うほど愛したまちで、言わば小諸は、寅さんの心のふるさとなのです。

小諸には中棚温泉以外にも隠れた名湯があります。ランプの灯る標高2000mの高峰温泉、浅間登山口にあるオレンジ色の天狗温泉 浅間山荘、登山電車で露天風呂へ直行する菱野温泉 常盤館など、趣も様々です。

信州小諸に自分自身のスケッチポイントを探しに来てみませんか。

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掲載内容は執筆時点のものです。 2014/02/09 訪問

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