旧前田公爵邸〜東京で愉しめる加賀百万石の粋〜

旧前田公爵邸〜東京で愉しめる加賀百万石の粋〜

更新日:2016/01/21 17:43

東京は目黒区に、加賀百万石の藩主の子孫、前田家第16代当主・前田利為公爵の本邸として建設された邸宅が保存されているのをご存知でしょうか。
昭和4年、それまでに培われた加賀百万石の美の髄を集約し、賓客をもてなすために建てられたイギリスはチューダー洋式を模した邸宅。
GHQの接収という苦難の時代を経て今なお美しい邸宅へ、当時の公爵家の生活を覗きに行ってみませんか?

設計は高橋貞太郎氏率いる建築委員の粋

設計は高橋貞太郎氏率いる建築委員の粋
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宮内省内匠寮技師・高橋貞太郎氏、その作品といえば帝国ホテルや日本橋にある高島屋など豪華な建築で知られている建築家。前田公爵邸もまた、そんな高橋氏が手掛けたビルヂングのひとつ。

そう、実はこちらの前田公爵邸は「ビルヂング」すなわち鉄筋コンクリート造なのです。造りは鉄筋コンクリートながら内部には立派な梁や見事な大理石の柱を備え、訪れるひとの目を楽しませてくれるこちらの建物はイギリスはチューダー洋式のもの。

チューダー様式とはその名の通りイギリスチューダー王朝期の様式で15世紀末から17世紀初頭までを中心に栄えたもので扁平尖頭アーチが特徴的。
古い伝統的な様式を持ちながら外壁のタイルは当時流行の「スクラッチタイル」を用いるなどしたこちらの館は、昭和4年の建築当初「東洋一の邸宅」と称えられました。

イングルヌック = 暖かく居心地のよい場所

イングルヌック = 暖かく居心地のよい場所
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「東洋一の邸宅」と謳われた旧前田公爵邸、玄関から入ってまず最初に目を引くのがこちらの「イングルヌック」と呼ばれる階段下のスペース。

「イングルヌック」とは「暖かく居心地の良い場所」という意味です。伝統的な日本家屋と異なり天井の高い洋館では当時のセントラルヒーティング(地下のボイラー室より蒸気で館全体を暖める技術が採用されていました)を用いてもなかなか隅々まで暖めるのは難しいもの。それはこちらの公爵邸でも同じです。

が、このイングルヌックは暖炉の暖かさとステンドグラス越しの優しい陽射しがとても心地よい空間を生み出しているもの。そしてなんといっても人目につき難いこの空間は
時にご婦人方の他愛もない噂話、時に恋人たちの語らいの場、そして時に財界人の密談の場にも使われたことでしょう。

当時のままのこの空間の中には、実際に足を踏み入れてソファに腰掛けることもできます。

今なお息づく日本の美

今なお息づく日本の美
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さて、建築様式はチューダー様式とはいえ、すべてをイギリスに倣ったわけではないのが日本らしいところ。

本国イギリスの来賓をして「イギリス様式だけれど、日本の美が息づいていてイギリスのものとは違う」と言わしめた邸宅。
階段手すり部分にあしらわれている唐草模様の装飾は鋳物製、そのほかの装飾部分にも透かし彫りの唐草模様が見え隠れします。これらはすべて日本の匠による手仕事です。

また、見せかけの華美さだけでなく、質実剛健な前田家らしく当時の壁紙は控えめな暗い色をしながらも職人の技が光る金唐革紙の一品で覆われていたとか。
ただ、それら壁紙は戦後GHQに接収された際にほとんどが剥がされてしまい、僅かに残っているのは大食堂のマントルピースの上の壁紙だけ。
来館の際にはぜひ大食堂を訪れることをお忘れなく!

和館もあります、旧前田公爵邸

和館もあります、旧前田公爵邸
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さて、海外生活の経験もある前田利為氏が諸外国からの来賓をもてなすためにと建てられた私邸、当初は氏の希望により洋館だけが建てられる予定だったとか。
ところが、前田家といえば由緒正しい御大名。氏を当主と据えていたとはいえ、すべてが氏の希望だけで成り立つものではありませんでした。

やはり、ご由緒のある前田家ですからそこは茶室のひとつ、和室のひとつも設えがなくては!という一族の主張も汲んで洋館の後に建てられたのが和館。洋館からは通路でも繋がっていますが、こちらの通路は主に使用人用だったのだそう。

こちらの和館では日本の文化を伝える目的もあり、伝統的な日本家屋のスタイルでありながら外国の方々が水回りで苦労のないようにと配慮され、館内にあるお風呂場などは当初から西洋式で作られました。

今では通常の一階部分の一般公開のほか、お茶室などとしての貸し出しも行われ、2階は東京文化財ウィークなどの特別期間のみ開放されます。

尚、写真の黄金の雲海は2階客室にある限定公開部分です。肉眼では見難いのですが不思議とファインダーを通すと雲海が浮き上がって立体的に見える特殊な技法が用いられており、一見の価値があります。見学の際はカメラをお忘れなく!

洋館では優雅にお茶もいただけます。

洋館では優雅にお茶もいただけます。
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前田公爵邸一階の庭園に面したフォワイエ部分は、現在カフェとしても利用されています。財力を象徴するような大きな鏡、大理石のマントルピース。

広大な前田公爵邸を隅々まで愉しむとどうしても歩き疲れてしまいます。そんな時は現在は公園として多くの人々も利用する美しい庭を眺め、お茶をいただきながら文明華やかなりし当時に思いを馳せてみてはいかがでしょう。

今こそ訪れたい前田邸洋館

いかがでしたでしょうか。
日本に花開いた和洋折衷建築の粋、前田家ならではの美しさ、そして当時の華族の生活様式やそこに住まい前田家を支えた良家の子女の生活を今なお生き生きと伝えてくれる旧前田公爵邸。

そんな前田邸洋館ですが、耐震補強の問題もあり、館を管理する東京都では改修工事に向けて動き出しています(和館は2015年に耐震工事完了済み)。ただ、現代ではこの建築様式を維持・再現するだけの技術も材料も確保が困難なため、改修工事が始まると今のままの姿をもう一度見ることは難しくなるでしょう。

ぜひ、今の館を訪れ、当時の息遣いを五感で感じてみてください。

入館料は無料です。

掲載内容は執筆時点のものです。

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