木曽山脈と赤石山脈を縫うように走る天竜川は、「佐久間ダム」があるこのあたりでは大きく蛇行し、なおかつ断崖絶壁の谷を流れる急流となっており、かねてから水力発電を行うのに理想的な川だと注目を浴びていました。しかし春から夏にかけての天竜川の水量が膨大であること、そして秋から冬の短期間で工事を完成させるのは困難だったこと、また資金の調達も難しかったことから、なかなかダム建設の着工には至りませんでした。
しかし昭和27年に政府が発足した特殊法人「電源開発」に水力発電の開発がゆだねられると、いよいよ工事が本格的にはじまりました。ただ、ダム建設によって水没してしまうエリアが静岡、長野、愛知3県と広範囲にわたるため、地域との補償交渉も難航を極めましたが、昭和28年12月、とうとう仮排水路トンネルの着工にこぎつけたのです。
しかしながら、水量が増える春までに水路の確保をしなければならない、という過酷なスケジュール。ダム本体工事では、1日のコンクリート打設量が、当時の世界記録になったほどです。そして着工からわずか3年、驚くほどの短期間で完成したのが、この「佐久間ダム」です。
天竜川は昔から洪水被害が幾度となく繰り返され「暴れ川」と異名をもつほどの河川。莫大な貯水容量を持つ「佐久間ダム」の完成は、地域にとってはとてもありがたいものとなりました。ただし貯水量が莫大で、なおかつ発電に使われる放流量も多いため、「佐久間ダム」の下流に水量調整のための「秋葉ダム」も造られました。
年間14億キロワットという国内最大級の水力発電ができる「佐久間ダム」ですが、完成までに96名の尊い命が失われています。「佐久間ダム」の傍らには殉職者の慰霊碑が建てられており、10月最終日曜日には殉職者への慰霊の意味をこめて「佐久間ダムまつり」が開催されています。
人造湖「佐久間湖」では、鮎やニジマスなどが釣れるのですが、漁協が管理しているので自由に釣りをすることはできません。また、秋の紅葉の頃はダム湖周辺を訪れる人も多くなりますが、それ以外の時期は、巨大な人工物が静かな山あいの谷にたたずんでいる風景をご覧になれます。
「佐久間ダム」に併設されている「佐久間電力館」は入場無料の博物館。「佐久間ダム」のことはもちろん、電源開発の取り組み、天竜川水系のその他のダムなどの展示がたくさんあります。電力館には展望台も備わっており「佐久間ダム」の全貌がご覧になれます。ダムの対岸は愛知県の山々が連なっており、ダムの天端は県道1号線に指定されています。そしてこの県道上の位置する「佐久間ダム」が静岡と愛知の県境です。
展望台には「やまびこ」体験ができるスポットがあります。対岸に向かって「ヤッホー」と叫ぶと、ダムと山に反射して「やまびこ」が聞こえます。みなさんこの場で思い思いの言葉を発していて、聞いているだけでも楽しいですよ。
「佐久間電力館」の入り口では、最近じわりじわりと人気が出てきている「ダムカード」が配られます。「ダムカード」の裏面には、そのダムについての詳細が記載されており、表はダムの写真が一面に大きく掲載されています。ダムに訪れた人しか手にできないカードですが「佐久間電力館」では、下流にある「秋葉ダム」のカードも配布しています。
「佐久間電力館」展望台からの風景を楽しんだら、内部の展示物もじっくりご覧ください。「佐久間ダム」や水力発電所の役割を、パネルやビデオで紹介しています。ダム建設の様子を再現した模型は、当時の建設現場をリアルに再現しています。模型を見ると、こんな断崖絶壁にどうやって巨大な重機を運んだのかと不思議に思えてきますが、この巨大ダムをわずか3年で完成させたことにも驚かずにはいられません。
建設の記録映画のダイジェスト版も見ごたえがありますし、当時の新聞記事を拡大したパネル板も興味深い内容となっています。
夏休みに訪れれば、お子さまの自由研究に役立ちそうです。大人でもダムや発電についての勉強になる展示物です。
今回ご紹介した「佐久間ダム」は浜松市の天竜区に属していますが、まわりは浜松市北部の北遠地区と呼ばれている森林地帯。日本の行政区の中でも人口密度が最小の、いわば過疎地域と呼ばれるエリアです。しかしながら豊かな自然が残され、伝統的なお祭りも多く、近年は国道の拡張工事なども進み、以前よりはアクセスがよくなりました。とはいえ高速道路の最寄りインターから1時間以上かかり、山脈の間に挟まれているため冬場は積雪もあります。なかなか気軽に訪れることができないエリアではありますが、当時の日本の近代土木の集大成と言われる「佐久間ダム」は一見の価値ありです。
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