写真:竹内 あや
地図を見る「橋を渡る間、絶対に息をしてはいけないよ。息をすると人間だとばれてしまうからね」。
アニメ映画『千と千尋の神隠し』のなかで、謎の少年ハクにそう言われて千尋がおそるおそる渡ったのが、温泉宿へと続く赤い橋。橋の先には、八百万の神々が夜な夜な癒されに集うという「油屋」がどっしりとした姿で構えています。
木造建築による、堂々とした重層構造の造り。この「油屋」のモデルといわれる宿のひとつとされるのが、群馬・四万(しま)温泉にある積善館(せきぜんかん)。日本最古の湯宿として、群馬県の重要指定文化財にも登録されている温泉宿です。
四万川の支流に隔てられ、山の斜面に沿って建つ宿へと続くのは、『千と千尋の神隠し』に登場する、赤い橋とそっくりな慶雲橋。さぁ、いよいよ千尋の世界へと足を踏み入れます。
写真:竹内 あや
地図を見る建物内には、千尋の世界を彷彿させる光景があちらこちらに残っています。物語の冒頭で、道に迷った千尋たち一家が不思議な廃墟を見つけ、中へと入っていくシーン。現実の世界を八百万の神々が住む世界へとつなぐトンネルも、ここにありました。
「浪漫のトンネル」と呼ばれるこの薄暗いトンネルは、建物と建物とをつなぐために造られたもの。実際に“モルタル製”か、どうかはわかりませんが、ドーム型の長いトンネルの先に、出口の明かりがぼおっと浮き出すように見えている様子は、物語のなかのトンネルとそっくり! 壁の所々からしみ出した泉水が、足元の床の下に敷かれたタイルの上を静かに流れていきます。
窓枠や手すり、渡り廊下と部屋とを仕切る襖など……。千尋たちが寝泊りしていた女中部屋を彷彿させる風景も残っています。物語のシーンを思い出しながら、館内を見て回るのも楽しいかもしれません。より詳しく知りたい人は、亭主自らが案内するツアーに参加するのがおすすめ! 湯治宿の歴史とともに、積善館の建築様式、そして『千と千尋の神隠し』の世界について、いきいきと語ってくれます。
写真:竹内 あや
地図を見る元禄7年に本館が建てられて以来、時代に合わせて増築していった館内は、まるで迷路のような構造。山の斜面に沿って、本館、山荘、佳松亭と3つの館が連なり、各館の間をトンネルがつないでいます。
昔ながらの湯治宿の面影を強く残した本館に、桃山様式の美しい内装が人気の山荘、松林のなかにひっそりと建つ、まるで隠れ家のような雰囲気の佳松亭。それぞれに趣があり、各自の予算や目的に合わせて滞在先が選べるのも魅力的です。
写真:竹内 あや
地図を見るもともと湯治宿であるだけに、泉質はもちろん、温泉施設の種類も豊富です。なかでも昭和5年に建てられ、国の登録有形文化財にも登録されている元禄の湯は、大正浪漫の雰囲気たっぷり! 太陽の光が注ぎ込むアーチ型の大きな窓に高い天井といった洋風な造りで、タイル張りの床には5つの石造りの浴槽が並んでいます。
さらに壁に見える小さな扉を開けると、その先にはひとりが入れるだけの小さな空間が! 昔ながらのいわゆるサウナで、寝椅子の下に湧き出ている源泉の蒸気によって体がぽっかりと温まります。
ほかにも自然林に囲まれた開放的な露天風呂、利根川の青石が壁に埋め込まれた岩風呂、4つの貸切り風呂があります。岩風呂は唯一の混浴ですが、時間帯によって男女専用にもなるのでご安心を。ちなみに貸切り風呂のうち2つは、空いていれば予約や追加料金等なしで、誰もが利用できるというシステムです。
四万温泉は“四万(よんまん)種類もの病を治す湯”として、昔から多くの湯治客たちを惹きつけてきました。ナトリウム―カルシウム塩化物・硫酸塩泉という肌にやさしい泉質で、湯に入れば切り傷や神経痛、疲労回復等に効き、飲めば胃腸に効くといわれています。とりわけ飲用としては有名で、“日本3大胃腸病の名湯”のひとつとしても知られています。館内にも飲泉所があるので、ぜひ試してみては?
写真:竹内 あや
地図を見る本館での滞在は、昔ながらの湯治スタイル。布団の上げ下ろしなどのサービスはなく、すべて自分で、そして食事の配膳も基本自分で行います。バス・トイレも共同で、客室は決して豪華ではありませんが、寒くなるとこたつも登場して、なかなか快適に過ごせます。温泉宿本来のよさを思う存分楽しみたいという人には、ぴったりのスタイルかもしれません。
食事は基本、朝・夕の2食付き。湯治宿というだけあって、料理も体によさそうなものばかり! 野菜やコンニャク、豆腐など、ヘルシーな素材を使った素朴な料理でありながらも、食べ応え十分で、ダイエットにもいい感じ! 朝食には、温泉で炊き上げた胃腸にやさしい飲泉粥がいただけます。
『千と千尋の神隠し』のモデルになった宿については諸説あり、宮崎駿監督は「いろいろな場所の要素が入っていて、特定のモデルはない」と語っています。それでもこの積善館を目の前にすると、千尋がどこか一室の窓からひょっこりと顔をのぞかせているのではないか、といった感覚を抱いてしまうのは気のせいでしょうか……。
現実の世界にありながら、橋を渡った先に広がる、どこか懐かしくもあり異国でもある不思議な光景――。豊かな自然と昔ながらの趣き深い佇まい、そんな湯宿と周囲の風景が相まって、忘れかけていた何かを思い出させてくれる不思議な世界、千尋のいた世界をつくり出しているのかもしれません。
ちなみに、中之条町から四万温泉へと続く国道353号線で聞こえる主題歌ですが、道路に溝が掘られていて、時速40kmで走ると走行音がメロディーを奏でる仕組みになっているのだとか……。幻想の世界への誘いは、ここから始まっていたのですね!
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(2024/10/11更新)
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