写真:沢木 慎太郎
地図を見る“北方のバラ”と呼ばれる古都チェンマイ。「ラーンナー」(“百万の水田”という意味)というタイ北部独自の文化をはぐくみ、風情ある多くの寺院が点在しています。そんなチェンマイは、旅人の心をとらえて離さない不思議な旅情たっぷり!
数多くある寺院の中でもおススメは、標高1080mのステープ山にある仏教寺院「ドイ・ステープ」。北タイ式と呼ばれる独自の装飾が寺院を彩り、境内に整然と並ぶ黄金の仏像が実に見事です。
しかし、最大の見どころは、高さ22メートルの黄金に輝くチェーディー(仏塔)。仏教の創設者ブッダ(釈迦)の遺骨が納めているとされ、多くのタイ人から信仰されています。
このチェーディーが最も美しく輝くのは黄昏時。青い波のように連なるミャンマー国境の山脈へと夕日が沈むころ、薄桃色の空を背にチェーディーは聖なる光をまとい、夜の訪れを静かに告げます。その姿は言葉に出ないほど美しく、あまりにも荘厳。切ない思いが込みあげ、旅情をくすぐられます。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る山の夕暮れは早く、美しい夕焼けを見つめていると、いつの間にか夜がひっそり訪れます。
昼間は多くの観光客でにぎわう「ドイ・ステープ」ですが、夜のとばりが下りるころ、人影は途絶え、境内は厳粛な雰囲気に。観光の顔とは違った別の顔が。
チェンマイの闇の中に浮かぶのは、「ドイ・ステープ」が持つ本来の力。信仰そのものの姿。僧侶たちの修行の時間が始まり、寺院の中から読経が鳴り響いてきます。僧侶たちの声は低く深く、魂の奥底を揺すぶられ、仏教徒でなくても胸を熱くさせられます。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る夜の訪れとともに目を覚ますのが、境内に整然と並ぶ黄金の仏像たち。明るい光の中では目をつぶっていた仏像は、闇の気配に気づいて穏やかに目を開き、静かで優しい微笑みを浮かべます。強い磁場が張り巡らされているような、ものすごいパワーが境内から感じされ、ぶるっと身震いさえしてしまう。
実は、こちらのステープ山は特別な場所。「ドイ・ステープ」は1383年にクーナー王(ラーンナー王朝6代目)が建立した仏教寺院ですが、お寺の建設場所を決めるため、クーナー王はブッダの遺骨を白い象に乗せて、自由に歩かせたところ。象はステープ山に登り、その山頂で息絶えました。この地に建てられたのが「ドイ・ステープ」。
白い象は自分の命と引き換えに、寺院の立地場所を王に告げたのです。多くの人々の苦しみを救済するために。
“おまえは何のために生まれて来たのだ”“いったい、本当は何をやりたいんだ。人生はそんなに長くないぞ”と、そう言われているような感慨深い逸話です。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る夜も次第に更け、中空に冴えた月がかかります。空気は澄み切り、あたりは神聖で神秘的な静寂が。チェーディーはますます黄金の輝きを増し、仏塔の四隅に飾られた傘も見事なまでに美しい。
仏教の発祥地のインドでは古代、貴人の頭上に傘蓋(さんがい)をかざして歩きました。チェーディーのまわりに傘が飾られているのはこの名残りであり、ブッダの盾となって守り続けています。
黄金に輝くチェーディーは回廊に囲まれ、昼間は花を手に回廊を巡る多くのタイ人たちの姿が。仏塔のまわりを3回巡ることがならわしですが、暗くなってからは参拝することはできません。
仏教は「殺生」を重んじる宗教。暗くなったら、小さな虫たちを踏んで殺してしまうかもしれない。だから、暗くなってからの参拝は好ましくないのです。
写真:沢木 慎太郎
地図を見るこちらは、「ドイ・ステープ」の参道となる長い階段。7つの頭を持つ蛇神ナーガが階段の手すり部分を占め、長い身体をくねらせています。これは、いわば神社の狛犬のようなもの。
ナーガが両脇を固める階段の数は200段以上。体力に自信のない方はケーブルカーを利用することできますが、できれば階段をのぼって参拝されてはいかが?深い森の新鮮な空気を吸いながら階段を登りきると、チェンマイ市街と見渡す展望台があり、たまらない爽快感が得られます。
このナーガの階段も、夜になれば昼間とはまったく別の顔。背筋がぞっとするような不気味さと美しさが混ざりあい、神秘的で不思議な世界が渦巻き、魂を吸い寄せられるような魅力があります。
ここは天界と下界の境目。再び下界に戻って世俗の泥にはまって生きるか。あるいは酒も女も絶ち、崇高な精神性を求めて仏の道に生きるか。どこにも行き場のない深い森の闇の中、黄金に輝く天空の寺院に向けて、月明かりの使者のようなナーガの不思議な階段だけが遥か高く天空にまで伸びています。
ところで、ナーガはブッダが悟りを開くときに守護した精霊で、天候をつかさどる存在。タイ北部の有名な寺院の入り口にはナーガの装飾がほどこされていますが、これもランナー様式のお寺の特色です。
もともとはコブラを神格化したナーガですが、中国では「竜」として翻訳。日本の仏教もその流れをくんでいます。
「ドイ・ステープ」はチェンマイ市内から約14キロの位置にあり、ソンテウ(小型トラックバス)で約30分。夜になれば誰もいなくなってしまうので、帰りの足を確保するか、そのまま仏の世界に入るか覚悟を決めなければなりません。
ちなみに、チェンマイ市内では自転車を借りることができます。「ドイ・ステープ」までの山道は比較的に緩やかなので、脚力に自信のある方はレンタサイクルでのアクセスもおススメです(所要時間は3時間以上)。山道をサイクリングしている欧米人も多く、先を争うパワーとパワーの対決も楽しい。
なお、チェンマイの寺院や楽しみ方については別途、記事にまとめていますので、ご興味のある方はリンクからのぞいてみて下さい。
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(2025/1/20更新)
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