写真:万葉 りえ
地図を見る美術史の上でも世界で最高の写実美を持っているといわれる薬師三尊像。教科書などに載っていたのを記憶されている方も多いのではないでしょうか。
しかし、私たちの体も、そして心も、病から救ってくださるとして古より深く敬われてきたこの仏像の美しさは、小さな写真などではとても伝えられません。東京の博物館で展示された時にはかなりの人出を集め、実物を見たい人がいかに多いかを教えてくれました。
国宝になっている薬師三尊像は、薬師寺の修二会の期間中は色鮮やかなたくさんの造花で包まれます。三尊像がいらっしゃる金堂の中はとても華やか。そして、その金堂の前には特設ステージが作られ、ここでいくつもの奉納行事が行われるのです。
写真:万葉 りえ
地図を見る薬師寺は7世紀後半に天武天皇が皇后(のちの持統天皇)の病気平癒を願い、飛鳥の地に創建した寺です。その後、都が平城京へと遷都(710年)されたのにともない、現在の地へと移ってきました。
花会式の歴史は、堀川天皇の御代である平安時代までさかのぼれるといいます。薬師三尊に皇后の病気平癒を願い、それがかなえられた天皇。そこで人民の健康を祈って毎年この法要を続けるようにと詔を出されたのが始まりとなっています。五彩の造り花が感謝の気持ちを込めて毎年納められ、花会式と呼ばれるようになりました。
境内では、ウメにボタン、ハギなど、いろいろな植物がそれぞれの季節の美しさを添えますが、修二会のころは捧げられた造花に加えて桜が満開を迎えます。薬師寺の駐車場と南門との間には近鉄の線路のそばに桜並木もあり、広い境内を桜を探してめぐることもできるのです。
写真:万葉 りえ
地図を見る薬師三尊像がいらっしゃる金堂の前のステージでは、修二会花会式の間、一週間にわたり様々な奉納行事が行われます。奉納太鼓や、献華、献香などがありますが、和風のものばかりではありません。プロのヴァイオリニストによる奉納演奏なども一緒に聞くことができるのです。
写真は献茶式の様子。薬師三尊像の前でささげられるお茶は、茶道の手前の中でも特に格式を持ち高貴な方にささげる台子(だいす)を使った手前。
栄西禅師(ようさいぜんじ)が800年近く前に中国から茶を持ち帰ったことが、日本の茶の始まりになります。初めは薬として茶の効用が珍重されていました。そんな歴史があるので、献茶は薬師寺にふさわしい奉納行事といえますね。
写真:万葉 りえ
地図を見る薬師寺は中国の玄奘三蔵を始祖とする法相(ほっそう)宗のお寺です。
その始祖を祀るために1991年に造られたのが、寺の北側にある玄奘三蔵伽藍です。
伽藍中央にある玄奘塔には、玄奘三蔵のご頂骨が奉安されています。また、平山郁夫画伯が30年もの歳月をかけて描いた巨大な壁画は、ぜひ薬師寺で見ていただきたいもの。
金堂からこの玄奘三蔵伽藍へと向かう途中にある寺務所前には、大きな薄墨桜。そのそばにはたわわに花房を付ける八重の桜などもあります。それらの桜が見事な景色を見せてくれるのも、ちょうど修二会のある頃なのです。
写真:万葉 りえ
地図を見る修二会の期間中は、野点席が設けられます。裏千家、大日本茶道学会、遠州流などの流派が担当して、参拝に訪れた人々に抹茶や煎茶をお出しします。大勢の人が順に茶をいただく形をとっているので、作法を知らなくても大丈夫。桜を愛でながら、うららかな春の日を深く感じられる一日になるはずです。
その野点の席で出される菓子も薬師寺ならではのもの。桜のような色をした菓子の上で笛を奏でているのは、あの飛天の姿です。
薬師寺の創建当時の姿を今に伝え、「凍れる音楽」とも形容された優美な姿の東塔。その東塔の頂部にある水煙(すいえん)には、天を舞っている天人(飛天)が透かし彫りされています。
その一人が仏の国から降りてきて、春の喜びを菓子の上で奏でてくれているようです。そう思うと、なんだか食べてしまうのがちょっともったいないような気がしてしまうかもしれません。そんな時は、吉野葛で作られたこの菓子を、添えられている懐紙(かいし)に包んでそっとお持ち帰りを。
春に奈良へ行くなら、薬師寺の修二会式は旅の予定から外せません。
薬師寺は、近鉄の西ノ京駅からすぐ。鑑真和上で有名な唐招提寺も近くにあり、両方を歩いてめぐる方も珍しくありません。
いつ訪れても、おおらかな奈良の空気に包まれているこの辺り。
ぜひ、桜も楽しめる春の西ノ京へお出かけください。
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(2024/9/9更新)
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