夢花まき麦酒醸造所は、宮城マイクロブルワリーという会社が運営しています。そう、元々は宮城県の沿岸南部・亘理町に「鳥の海ブルワリー」という名前の醸造所を持っていました。亘理町は果物の生産が盛んで、鳥の海ブルワリーでは、地元で採れるイチゴやブドウやリンゴなどを使ったフルーツビールを多く造っていました。フルーツビールをメインで造っている地ビール醸造所は東北では珍しく、またその味わいは苦みが少なくフルーティだったので、苦いビールが苦手な人にも人気でした。
ところが、2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生します。この地震がもたらした大津波で、海のすぐそばにあった鳥の海ブルワリーは壊滅的な被害を受けてしまいます。建物も、醸造設備も、出来上がっていたビールも、すべてが津波によって壊され、流されてしまったのです。幸いなことに働いていた人たちは全員無事でしたが、中には津波に巻き込まれつつも目の前にあった電柱にしがみついて辛うじて流されずに済んだという人もおり、本当に紙一重の状況だったわけです。
その直前の3月6日には、亘理町で開催された「伊達なわたりまるごとフェア」で、宮城マイクロブルワリーが出品した「わたり苺ビールゼリー」が、見事「伊達なわたり活き生き大賞」のグランプリを受賞したばかりでした。まさかその5日後にこのようなことになるとは誰も思わなかったに違いありません。
東北六県にある地ビール醸造所の中には、一時的に生産がストップしたり、出荷が停止したりといったことがあったところはありましたが、宮城マイクロブルワリーのようなダメージを受けたところは他にありませんでした。被害の規模を考えると、再建は容易なものではなさそうということは想像がつきます。場合によってはそのまま廃業してしまうこともあるのではないか、そうなるともうあのオリジナルのフルーツビールを飲むことはできないのではないか、などと思ったりしていたものです。
でも、宮城マイクロブルワリーの人たちはあきらめませんでした。さすがに同じ場所での再建は、醸造所があった地域自体がいまだ再建されていないため、難しかったようですが、代わりに縁のあった岩手県花巻市に場所を移して醸造所を再建し、震災発生から1年9カ月経った2012年12月に新しく「夢花まき麦酒醸造所」をオープンさせたのです。
新しい醸造所、2階建てで、1階には手造りパン工房「ロジ」があります。ビールだけではなく、ここのパンも人気です。ビールもパンも、酵母相手の仕事ですから、親和性が高いんですね。2階は地ビールに漬けこんだホルモン焼きが名物の「味かく亭」です。出来立ての地ビールを飲みながら、ホルモン焼きやその他の料理が食べられます。全体として値段が安いことも特徴で、つまみとなるようなメニューはほとんど350円、地ビールも全種類350円です。特に地ビールがこの値段ということは他ではほとんどなく、驚異的な安値です。
安くて美味しくてついビールも進んでしまうと思いますが、注意点が一つあります。ここのフルーツビールはビールにフルーツジュースを混ぜて造られるのではなく、最初からフルーツを入れて醸造されます。したがって、ここのビール、実はアルコール度数が7〜8%と、普通のビールよりもさらに高めなのです。にもかかわらずフルーツの味で飲み口がいいのでついついゴクゴクと飲んでしまいがちなのですが、いい気になって飲んでいるとあっという間に酔いが回ってしまうので、これは本当に要注意です。ある意味、キケンなビールです。
この夢花まき麦酒醸造所の各種地ビール、味かく亭で樽生で飲める他、持ち帰り用のビール「夢花巻物語」も販売しています。珍しいのは、瓶ではなくペットボトル入りだということです。なるほど、ペットボトルの方が軽いですし、炭酸飲料と同じ感覚ですね。ただし、ビールは直射日光で劣化してしまう可能性があるので(だからビール瓶は茶色をしています)、光を通さない茶色の保存袋に入れて売られています。
宮城マイクロブルワリーの人によると、ゆくゆくは元の亘理町でも醸造所を復活させたいそうですが、仙台で毎年秋に開催されるビールイベント、「仙台オクトーバーフェスト」には夢花まき麦酒醸造所も毎回出店していて、一足早く「里帰り」を果たしています。
震災による壊滅的な被害にも負けず、見事復活したオリジナルのフルーツビール、ぜひ一度味わってみていただきたいと思います。
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(2024/9/18更新)
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