JR北海道の釧網(センモウ)本線は、網走から釧路までをつなぐ路線で、道東のオホーツク海沿岸と太平洋沿岸を南北にむすんでいます。駅でいうと網走駅から東釧路駅、そして根室本線の釧路駅までで、全長は約169km(営業キロ数)。路線周辺には阿寒国立公園、釧路湿原国立公園、知床国立公園、網走国定公園などがあり、類い稀ともいえるほどの豊かな自然に恵まれた中を走る、絶景路線でもあります。
期間限定で「釧路湿原ノロッコ号」「SL冬の湿原号(釧路駅〜標茶駅)」「流氷ノロッコ号(知床斜里駅〜網走駅)」などが運行されており、恵まれた自然を思う存分に味わえるのも嬉しいところです。中でも蒸気機関車のC11-171号による「冬の湿原号」は、鉄道マニアならずとも、一度は乗ってみたくなるのではないでしょうか。
そんな釧網本線の網走駅〜知床斜里駅間は、オホーツク海沿岸を走る区間です。海はもう、すぐそこ。車窓からは、荒々しい波や極寒の流氷、海の向こうに霞む知床連山、砂浜から続く原生花園や原野など、四季折々のこの地ならではの風景が展開してゆきます。その美しさは、釧網本線の中でも傑出しているといえるでしょう。
そして今回ご紹介する北浜駅は、網走駅から4つめの駅。最もオホーツク海の近くにある、木造駅舎の美しい駅です。
写真をご覧下さい。駅のすぐ向こうにオホーツク海が広がっているのが、おわかりになると思います。日頃の慌ただしい中で生活をしていると、「これが本当に駅なの?」など感じてしまうほどの、悠々とした佇まい。静かに時間が流れるその中に身を置いた時、知らず知らずのうちに心が安らいでゆく、そんな癒しの空間です。
北浜駅がその歴史をスタートさせたのは、大正13年の網走駅〜北浜駅間の部分開通の時。釧網本線の全線開通が昭和6年なので、この駅はこの路線の中でも、いち早く開通した区間だったわけです。しかし、長年に渡り地域の発展、地域の足として活躍した北浜駅も、昭和59年には周辺地域の過疎化や旅客数の減少などもあり、残念ながら無人駅となってしまいます。
昭和55年の国鉄再建法施行の際には、釧網本線自体も廃止の危機にあったといいますから、今こうして美しい駅舎とともに路線が存続しているのは、本当に嬉しいことです。この先もいつまでも残っていてほしい、北浜駅はそんな駅の風景なのです。
駅舎横にある展望台、ここからの景色は超オススメです。
雄大に広がるオホーツクの青い海。その向こうには、長くのびる知床連山の姿が霞んで見え、夕暮れ時になると、原野の中を平行に走る線路が夕陽の中に光り、浮かび上がって見えます。やがて、その中をライトを光らせたキハ車両がゆっくりと入ってきます。その時の、夕陽が列車のボディに反射する様は何ともいえず美しいものです。
そしてこの駅で有名なのは、流氷を見ることができる駅だということでしょう。駅から流氷が見られるなんて本当に驚きです。冬の訪問の際には、展望台からオホーツクに広がる流氷の絶景にも期待できますね。
吹きつける風の冷たさも忘れてずっと眺めていたくなる、そんな展望台からの風景。時間が許す限り、味わってみてください。
駅舎の中がまた、ものすごいことになっています。壁面一面に貼られた旅のメッセージや名刺。高い天井にまで貼られていますが、いったいどうやって貼ったのでしょうか?名刺をよく見ると、海外の方のものが多くあります。こんなに小さな駅にどうして海外から??など思ったのですが、それにはこういう理由がありました。
じつは中国で作られた「非誠勿擾(フェイチェンウーラオ/狙った恋の落とし方。:2008年公開)」という映画が、中国全土で大ヒットし、その映画の中でこの北浜駅が使われていたのです。この他にも釧路、知床、阿寒など道東のいろいろな所でロケが行われているのですが、それはこの映画の監督が、映画制作の2年前にこの辺りを訪れ、とても美しいと感じられたからだそうです。
それにしても、こうした日本の美しさを、海外の人たちも感じてくれるというのは、なんだか嬉しいですね。
もう一つ北浜駅で嬉しいのは、駅舎内にコーヒー&ランチのできる「停車場」というお店があることです。特に列車の本数が少なく、駅前にお店などの少ない駅が多いこのあたりなので、こうして食事ができて、お茶でも飲みながらゆっくりできるお店があるというのは、何とも嬉しいものです。各駅停車での気まぐれ鉄道旅では、オアシスともいえそうですね。
店内は古い鉄道車両の座席や網棚が使われており、鉄道ファンならば、思い切り心をくすぐられそうな佇まいとなっています。
そしてここでのオススメメニューは、やはりオホーツクの味「オホーツクラーメン」「カニラーメン」「ホタテカレー」でしょう。オホーツク海に一番近い駅ですもんね。新鮮な獲りたての具材がたっぷりと入っています。もちろんピラフやスパゲティー、ランチ、サンドイッチ、デザート類などもあり、予約をすればコース料理なども可能です。
雄大なオホーツク海、向こうに見える知床連山、そしてゆっくりと駅に入ってくる列車、これらを見ながら食事やお茶ができるなんて、なかなか味わえないぜいたくではないでしょうか。訪れられた際には、ぜひ「停車場」さんでの至福の時間もおすごしください。
古い駅舎が今もきれいに残されているのは、こうして駅が活用されているからこそ。木造駅舎と「停車場」さんの風景は一体になって歩んできている、そのように感じます。
いかがでしたでしょうか、釧網本線の北浜駅。
こうした古びた木造駅舎でひとときをすごしてみるのも、なかなか素敵なものです。しかも周囲の景観も素晴らしいなんて、いうことないですよね。
実はこの周辺には、北浜駅の他にも止別(ヤムベツ)駅、藻琴(モコト)駅などの木造駅舎が健在です。そしてそれぞれ「停車場」さんのように飲食のできるお店が入っています。木造駅舎巡りをしながら、食べ歩きをしてみるのもおもしろいかもしれませんね。北浜駅〜藻琴駅間は3km弱の距離ですので、天候の良い時などは、周囲の風景を楽しみながら歩いてみるのもいいでしょう。ちなみに、鱒浦駅にも古い木造駅舎があったのですが、そちらは解体され、平成27年より新しい駅舎へと変わっています。
なお、北浜駅に停車する列車は、上下とも1日9本ほどしかありません。また釧路方面行きは、緑駅や知床斜里駅止まりの便もありますので、鉄道旅でご利用の際には、事前に時刻表等のご確認をお忘れないようにお願いします。
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