写真:風祭 哲哉
地図を見る「太陽の森 ディマシオ美術館」は、北海道日高地方中部の町、新冠(にいかっぷ)の中心部から30分ほど山の中に入った新冠町太陽地区にあります。
クルマであれば札幌から約150km、列車であればJR日高本線で新冠駅や厚賀駅まで行き、コミュニティバスやデマンドバスを利用することもできますが、本数もきわめて少ないため、公共交通機関を使って行くのはかなり難易度の高い場所になります。そのため、マイカーやレンタカーなどを利用するのが現実的かもしれません(JR日高本線は2016年4月現在災害により代行バスで運行中)。
この美術館、なぜそんなに人里離れた場所にあるのか、というと、ここは2008年に廃校となった小学校の校舎を利用して作られた美術館だからなのです。そのかつての小学校名は「太陽小学校」。確かに廃校とともに忘れ去られてしまうのは惜しい名前ですね。
生まれ変わってできた美術館は、かつての小学校名を彷彿させるような赤い屋根と白壁のコントラストが美しい、明るく開放的な外観。太陽の森と呼ばれる周囲の大自然にもすっかり溶け込んで、春の新芽の緑にも、短い夏の空の青にも、静かな秋の紅葉の赤にもよく映えるのです。
写真:風祭 哲哉
地図を見る「太陽の森 ディマシオ美術館」は、フランス幻想絵画の鬼才として知られるジェラール・ディマシオ氏の作品を集めた美術館で、館内にあるのはほぼすべてが彼の作品。解剖学や建築学も学んだというディマシオは、優れた芸術性と洗練された高度な技法を持ち、極めて写実的な未知の世界を描くことで有名です。日本でも1992年から93年にかけて全国8会場で展覧会を行い、25万人を動員し、多くの熱狂的ファンを生み出しました。
作品は、かつての小学校の教室や体育館を改良した展示室に飾られています。ディマシオの作品には大きなサイズのものも多いため、比較的小型のものは教室に、大きなものは体育館に展示がされています。
館内にはそのほかにも、かつて小学校だった痕跡がたくさん残っています。玄関から中に入ると現れる、まっすぐに延びた廊下は、まさに昔学校で見た廊下の風景。廊下の途中の洗面所は子どもたちがかつて使った手洗い場を改良したもの。「きょうざいこ」や「そうじぐいれ」といった部屋もそのまま活用されています。
写真:風祭 哲哉
地図を見るこの美術館のメインの作品は、一番奥の体育館にある、世界最大の油彩画。高さ9メートル、横幅27メートルのこの作品は、ディマシオただ一人の手によって3年がかりで完成され、ひとりの作家によってキャンバスに描かれた油絵としては世界最大とされています。
もちろんこれだけでも十分に大きいのですが、実はここにはさらにからくりがあるのです。写真をよくご覧いただくと、壁の上下左右に鏡があるのがおわかりでしょうか。画を取り囲むように鏡を張り合わせることによって、ディマシオの「無限」の幻想世界を表しているのだそうです。ちなみにここは美術館としては珍しく、館内の作品も自由に写真撮影が可能です。
この大作は、1997年にチュニジアにある大聖堂で初公開され世界中に衝撃を与えましたが、それ以降、あまりに巨大なため設置場所がなく、公には一切公開されないまま、幻の大作となっていました。そんな中、この体育館のサイズがこの絵を設置するのにピッタリだったことも、ここにディマシオ美術館ができるきっかけとなったようです。
写真:風祭 哲哉
地図を見る館内の中央にはライブラリーサロンと呼ばれる、ガラス張りの窓に吹き抜けの天井とシャンデリア、という開放的な一画があります。ここにはディマシオ関連のライブラリやビデオの上映などが行われていますが、この場所がまた、いいのです。
ここはかつて子供たちの給食スペースだった場所だそうですが、「太陽」という名前の通り、子供たちがあたたかな日差しの中で、賑やかに給食を食べていたシーンが目に浮かんでくような、やさしくて、おだやかな場所です。
そんな場所でコーヒーを飲みながらソファーに座っていると、腰を上げるのをためらってしまうほど、時間がゆっくり流れる美術館なのです。
写真:風祭 哲哉
地図を見る北海道日高の新冠町といえば、ハイセイコーやナリタブライアンといった優駿を数多く輩出し「サラブレッド銀座」と呼ばれるほど競走馬の産地として有名です。もちろんこの「ディマシオ美術館」に向かう途中の道端にも素晴らしいファームがたくさん現れてきます。
緑の芝が丘の上まで続き、その向こうに広い青空。そしてところどころに美しく輝くサラブレッド。こんな北海道らしい風景を楽しみながらドライブするのも楽しみのひとつかもしれません。
「太陽の森 ディマシオ美術館」はまさにその名の通り「太陽」のようにあたたかくてやさしい美術館。ここに行くのは、本当に不便です。でも都会の中ではなく、日高の美しい大自然の中にポツンとあるのがいいのです。
「太陽」という美しい小学校の名前が、形を変えてでもこうして残ってよかった。帰り際にはそんなふうに思ってしまう不思議な美術館です。
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(2024/10/16更新)
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