写真:乾口 達司
地図を見る泉屋博古館(せんおくはくこかん)は住友家の所蔵するコレクションを収蔵・展示することを目的として、1960年、設立されました。その名は、住友家のかつての屋号であった「泉屋」と中国・宋代に編まれた青銅器図録「博古図録」とに由来します。そのことからもうかがえるように、泉屋博古館といえば、古代中国の青銅器を数多く収蔵・展示する日本有数の博物館として、好事家のあいだではよく知られています。
青銅器の展示スペースは4室から成り、さまざまな時代のさまざまな青銅器を間近で拝見することが出来ます。ボランティアの解説員も複数待機しているため、質問、その他、何かあれば、遠慮なく訊ねてみましょう。丁寧に教えてもらえますよ。
写真:乾口 達司
地図を見る今回は泉屋博古館所蔵品のうち、特に名高い逸品を幾つか紹介しましょう。泉屋博古館の逸品といえば、真っ先に取りあげなければならないのは、写真の太鼓形の青銅器。「き神鼓」(きじんこ)です。高さ82センチメートルで、いまから三千数百年前に繁栄した商(殷)の時代の作と考えられています。なかでも、特徴的なのは、その表面に人間のような姿が描かれていること。しかし、羊の角や虎の耳、獣の爪、羽毛を持っていることから、実際には音をつかさどる「き神」であると考えられています。
驚くべきは、この「き神鼓」、実際に太鼓としての機能を持っているのです。全体が厚さ3〜5ミリの青銅で作られており、実際に叩くとちゃんと太鼓の音色を奏でられるとのこと。いまから三千年以上前によくぞこのようなものが作られたと驚かされます。古代中国の驚異の技術力には脱帽です。
※「き神鼓」の「き」は漢字ですが、PCの機種・OSの種類により表示されないケースがある為、ひらがなで表記しています。
写真:乾口 達司
地図を見る写真は「虎ゆう」(こゆう)と呼ばれている作品。高さは35.7センチメートルで、やはり商代の作と考えられています。ご覧のように、虎が立ち上がって人間を抱えていますが、日常では有り得ない状況に直面していながら決して慌てず、あるいは泣き喚かず、あるいは笑わず、真顔で虎に抱きかかえられている人間の様子が、劇中では決して笑顔を見せなかった喜劇王バスター・キートンをどこかしら彷彿させ、強烈なユーモアを喚起します。この姿にはいったいどのようなメッセージが込められているのでしょうか。謎の多い作品です。
ちなみに、この「虎ゆう」は酒器として使われたと考えられており、虎の頭の上に立つシカをつまむとフタが開き、酒を注ぎ入れたり、出したりすることが出来ます。
※「虎ゆう」の「ゆう」は漢字ですが、PCの機種・OSの種類により表示されないケースがある為、ひらがなで表記しています。
写真:乾口 達司
地図を見る左手は「戈ゆう」(かゆう)と呼ばれている酒器。高さは23.3センチメートルで商代の作と考えられています。背中合わせに立つ一対のミミズクが造形化されており、羽根まで精緻に刻まれている点には、決して手を抜かず、丹念に作品を完成させた職人の心意気が感じられます。一方、右側の「鴟きょうゆう」(しきょうゆう)も商代の作で、高さは24.4センチメートル。こちらは、そのものずばりミミズクを全体で表しています。
しかし、なぜ、ミミズクなのか。そう思われる方も多いはず。ミミズクは悪霊の跋扈する夜間に宗廟などを守護する存在と見なされており、古来、青銅器や玉器のモチーフとしてさかんに使われていました。ミミズクが古代中国でこのように見なされていたこと、ご存じでしたか?
※「戈ゆう」の「ゆう」、「鴟きょうゆう」の「きょうゆう」は漢字ですが、PCの機種・OSの種類により表示されないケースがある為、ひらがなで表記しています。
写真:乾口 達司
地図を見る青銅器を見学する際は細部の文様にも注目してみましょう。写真は西周時代に作られたと考えられている「父戌尊」(ふぼそん)の中央部分をクローズアップしたものですが、そこに刻まれている文様、いったい何だと思いますか?
実はこの文様、一般には「饕餮文」(とうてつもん)と呼ばれており、古代中国で信じられて来た神話上の怪獣の顔面部分をかたどったものなのです。実際、よく見ると、角や目、鼻などが刻まれているのがおわかりいただけるでしょう。古代中国では、青銅器は神へ捧げる供物などをおさめる器としても活用されていたため、その文様にこの世のものならざる存在が刻まれているのもごく自然なこと。独創性にあふれた文様までじっくり眺めて、古代中国の精神世界に思いを馳せてみましょう。
泉屋博古館所蔵の青銅器がいかに特異で魅力的か、おわかりいただけたでしょうか。青銅器を展示した博物館といえば、何やら堅苦しいイメージを抱く方もいらっしゃるでしょうが、現代人が想像することも出来ないほど斬新な造形が随所にうかがえ、青銅器に詳しくない方でも充分に楽しめます。哲学の道からも近いため、東山界隈をめぐる際には足を運び、その魅力的な世界をご堪能下さい。
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(2024/9/16更新)
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