写真:風祭 哲哉
地図を見る静岡県の浜松市天竜区、天竜浜名湖鉄道の中心駅「天竜二俣駅」付近から国道152号線を北へ5キロほど進んだところに「月」への入り口を示すこの不思議な看板があります。ここは政令指定都市でもある大都会の浜松市街からは想像もできないほど何もない、のどかな場所ですが、かつては天竜市と呼ばれていた山深い町が、市町村合併により浜松市の一部になった、と聞けば納得です。
「月まであと3km」の看板は、天竜市街を抜けた国道152号線に両側から山が迫り、最初のトンネルをくぐる手前の側道に入ってすぐのところにあります。ほとんどの車は152号線をまっすぐ進むため、残念ながら気づかずに通り過ぎてしまうことが多いのですが、マイカーであれば国道152号線から県道360号線が分岐するところを目印に、路線バスであれば遠鉄バス北遠本線の水窪駅行きに乗って「伊砂(いすか)入口」で下車するとこの看板の目の前です。
この手前からすでに天竜川が国道に寄り添うように近づいていて、看板がある場所の左岸にはたっぷりと水をたたえたエメラルドグリーンの川が流れています。そしてまわりを囲むのは何十種類もの緑が映える山々。そんな中にこの看板が現れると、この先にはどんな別世界が待っているのだろう、とワクワクしてしまいます。
写真:風祭 哲哉
地図を見る「月 3km」の看板の先には、もちろん本当に「月」という地名の集落があるのです。
正式名称は「浜松市天竜区月」。その名前の由来は諸説ありますが、南北朝騒乱の時代、楠木正成に仕えた源氏の一族、鈴木左京之進が北朝に敗れ、12人の家子郎党を連れてここに落ちのびた際、それでもなお「楠木正成公の心の清らかさこそ、中空にかかる月のようである。私たちの心のよりどころを地名に残そう」として村の名を「月」とつけた、とされています。 あるいは同じく左京之進が「私たちはたった12人となってしまったが、いつの日か満月のように発展しよう」として「月」と名付けたとも言われています。
現在の「月」は、わずか十数軒の民家が残っている程度の小さな集落ではありますが、そんな古くからの由緒ある地名だったのですね。
写真:風祭 哲哉
地図を見る「月」に到着しても、アポロ号やうさぎ、かぐや姫がいるわけではありません。しかしそこには雄大な天竜川を目の前にした、まるで別世界のような美しい場所があるのです。
よく晴れた日には、下流の船明ダムにせき止められた天竜川が湖のように豊かな水をたたえ、エメラルドグリーンに輝いています。そこは「月」という名前の通り、もの静かで、しかし万物をやさしく包み込んでくれるような女性的な雰囲気を持つ場所でもあります。
また、月の集落の中心部には「天竜ボート場」があります。急流で知られる天竜川ですが、このあたりは流れや波がほとんどないため、ここは美しい景観の中で2000メートルの競漕ができる日本有数の漕艇場となっていて、ボートの甲子園とも言われる全国高等学校選抜ボート大会や静岡国体のボート競技などが行われ「ボートの聖地」とも呼ばれています。
写真:風祭 哲哉
地図を見る天竜浜名湖鉄道の西鹿島駅と飯田線の水窪駅を結ぶ路線バス、遠鉄バス北遠本線には「月」という名前の停留所もあります。
ただしこのバス路線は、国道152号線をまっすぐに進み、月の集落がある県道360号は通らないため、このバス停は天竜川を挟んだ対岸にあるのです。おまけにこの停留所は国道沿いの路肩にポツンとあるだけで、まわりには民家もなにもありません。対岸を望めば目の前に月の集落は見えるのですが、両岸を結ぶ橋もないため「月」へと直接行くことはできません。
そんなわけで、この停留所を利用する人はほとんどいないと思われますが、「月」という名前の停留所はいつまでも残っていてほしいと思ってしまいます。
写真:風祭 哲哉
地図を見る「月」のバス停の南側、天竜区相津地区に、赤い色をしたひときわ目立つ橋がかかっています。これは「夢の架け橋」と呼ばれる歩行者・自転車専用の橋梁で、国道152号線にある道の駅「天竜相津 花桃の里」と月の集落の南側にある伊砂ボートパークとを結んでいます。
元々この場所は、国鉄佐久間線として一度は着工された鉄道路線が通るはずだったところで、この「夢の架け橋」は、鉄道用の橋梁として建設されたものだったのです。結局、佐久間線は開通することなく途中で工事が打ち切られたのですが、すでに完成していたトンネルや橋脚が現在でも数多く残っていて、その一部がさまざまな形で再利用されています。この「夢の架け橋」もそのうちの一つで、第二天竜川橋梁として建設された橋脚が、歩行者・自転車用橋として再整備され、2000年に完成、開通したものなのです。
佐久間線は、現在の天竜浜名湖鉄道・天竜二俣駅とJR飯田線の中部天竜駅を結ぶ予定の約35キロの路線だったのですが、もしこれが開通していたら、現在の飯田線に匹敵する風光明媚な山岳路線になっていたことでしょう。残念ながら「月」という駅ができる予定はなかったようですが。
また、この「夢の架け橋」のたもとにある道の駅「花桃の里」は、その名の通り3月中旬から4月上旬にかけてピンク色の花桃が咲き乱れる美しい里。その時期に訪れれば、さらに幻想的な別世界を楽しめるかもしれません。
ご覧のように、日本にある「月」へはロケットがなくても比較的簡単にアクセスできてしまいます。しかしせっかく月に行くのであれば、ここはぜひレンタサイクルをおススメします。
月へ向かう道のりのワクワク感、川の青さの微妙な変化、風や匂いや音、自転車であればこうした感覚をフルに使って、この別世界のように美しい場所を楽しむことができます。車では通れない「夢の架け橋」を渡ることもできるんです。
レンタサイクルと言っても、月までの38万キロを乗れと言っているわけではありませんのでご安心を。天竜二俣駅にレンタサイクルがありますので、そこで借りれば往復しても20キロ程度。ちょっと遠回りしてぐるっと回っても30キロ程度ですので、2,3時間の宇宙への旅です。
けれども一点ご注意を。月までの道のりは意外にアップダウンがありますので、くれぐれも電動自転車をレンタルしてくださいね。
ではみなさんもぜひ、よい月旅行を!
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(2025/2/16更新)
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