悠久の歴史ロマンが目の前に!ロシア・エルミタージュ美術館に眠るシルクロードの遺宝

悠久の歴史ロマンが目の前に!ロシア・エルミタージュ美術館に眠るシルクロードの遺宝

更新日:2017/01/31 11:39

ロシア、サンクトペテルブルグにあるエルミタージュ美術館は、著名なヨーロッパ絵画を多く有することで有名ですが、実はユーラシアの貴重な考古学資料や東洋美術のすばらしいコレクションの展示もあることはあまり知られていません。しかし、これらも美術全集で必ず取り上げられるような世界的な名品揃いなのです。
今回は悠久の歴史ロマンに満ちた、エルミタージュ美術館所蔵のシルクロード美術をご紹介します。

ラピスラズリに彩られた古代ペンジケントの壁画

ラピスラズリに彩られた古代ペンジケントの壁画
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ペンジケントは古代シルクロードの都市遺跡。中央アジアのオアシス都市として有名なサマルカンドの東方に位置します。ペンジケントからはシルクロードを通じた東西交易の担い手であったソグド人の邸宅や神殿の遺跡が数多く発見されています。

その中で最も保存が良く、有名な壁画の一つがこちら。貴族の邸宅跡から発見されたもので、イラン民族の英雄ルスタムの絵があることから「ルスタムの間」の壁画と呼ばれています。壁画が描かれたのは8世紀の半ば、ちょうど日本で東大寺の大仏ができた頃です。
壁画にはルスタムの物語のほか、さまざまな説話をモチーフにした絵も描かれています。古代インドの説話集やなんとイソップ物語をテーマにした絵もあるのだとか。

吸い込まれそうな深く美しい青色が印象的な壁画。実はこの青色は、宝石のラピスラズリを砕いて作ったウルトラマリンブルーという絵具によるもの。とても高価な絵具をふんだんに使った豪華な壁画に当時の栄華が偲ばれますね。

神々を描いた深紅の宮殿壁画

神々を描いた深紅の宮殿壁画
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こちらはウズベキスタンのオアシス都市ブハラの宮殿趾から出土した壁画。 ブハラは古くから中央アジアの文化、政治の中心として栄えた街で世界遺産にも指定されています。壁画は8世紀頃のもの。美しい赤色の背景から、この壁画が見つかった広間は「赤の広間」と名付けられました。

描かれているのは象に乗って猛獣と戦う神アドバク。アドバクに襲いかかる猛獣は悪の象徴です。よく見ると、象の上の神は、後ろから襲いかかるヒョウを振り向きざまに倒そうとしています。そして、象の鞍や神の衣装には真珠を連ねたような丸い文様が見えます。これは連珠円文といって、振り向きざまに動物を倒す狩りの姿勢などとともに西アジアからシルクロードを通じて東西へ広まったデザイン。日本の法隆寺の「獅子狩文錦」や正倉院の錦にも、これによく似た文様があるんですよ。

戦火をくぐり抜けた砂漠の仏教壁画

戦火をくぐり抜けた砂漠の仏教壁画
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19世紀末から20世紀初めにかけて、列強による中央アジア探検が一大ブームとなりました。スウェーデンのヘディンやイギリスのスタイン、日本の大谷探検隊などご存じの方も多いと思います。
こちらはドイツの探検隊が中国のキジル石窟から持ち帰った壁画です。
キジル石窟は中国の新疆ウイグル自治区クチャにある、中央アジア最大の仏教石窟寺院。5〜6世紀の壁画が多く残ることで知られています。ドイツ隊が収集した壁画は、かつてはドイツのベルリン民族学博物館に収蔵されていました。しかし、第二次世界大戦末期の爆撃で多くの壁画が失われてしまいます。この壁画は激しい戦火をくぐりぬけた貴重な断片の一つ。描かれているのは、次のような釈迦の前世の物語です。

前世、ウサギであった釈迦は、森へやってきた一人の修行者に食べ物を差し上げたいと思います。しかし、ウサギは鳥や魚を獲ったり、木に登って果物を集めたりすることができません。そこで焚き火をおこしてもらい、自らその火の中に飛び込んで自分の肉を修行者に与えました。修行者は実は帝釈天の化身で、ウサギの行いを喜び、月に住まわせました。

日本でも仏教説話としてよく知られている月のウサギのお話。仏教がインドから中国、そして日本へと伝わる道筋で、こんな絵が描かれていたんですね。

ベゼクリク石窟を代表する華麗な仏教絵画

ベゼクリク石窟を代表する華麗な仏教絵画
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中央アジアへは ロシアからもオルデンブルグをはじめとするいくつもの探検隊が派遣されました。
こちらはオルデンブルグが新彊ウイグル自治区トルファンにあるベゼクリク石窟から持ち帰った10世紀頃の仏教壁画。縦125cm、幅215cmという大きなもので、色彩もあざやかに残っています。釈迦が前世で仏に出会い、将来必ず覚りを開くと約束された場面を描いています。

ベゼクリクはトルコ語で「飾り」という意味。かつて、石窟の内部はたくさんの金箔で飾られ、光輝いていたのでこの名前がついたといいます。シルクロードの重要な仏教遺跡の一つとして知られていますが、仏教が衰退して以降は、異教徒による破壊や外国の探検隊による採集のために石窟は傷つき、本来の姿は失われてしまいました。この壁画は、ベゼクリク石窟が仏教寺院として崇められていた当時の、まさに輝くように豪華な石窟の様子を私たちに伝えてくれます。

正倉院宝物にもつながるペルシャ風の水差し

正倉院宝物にもつながるペルシャ風の水差し
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エルミタージュ美術館には西アジアの工芸品も数多く収蔵されています。
こちらは7世紀のソグドの銀製の水差し。ソグド美術の傑作として知られる逸品です。

水差しはところどころに金メッキを施して文様を浮き立たせています。胴の中央に見えるのはラクダと鳥を合成した想像上の動物。当時、ササン朝ペルシアやソグド人の間で信仰されていたゾロアスター教の勝利の神・ウルスラグナの化身をあらわしているのだそう。
そして首が長く、丸い胴に鳥の嘴のような注ぎ口がついた水差しの形は、ササン朝ペルシアの影響を受けています。ペルシア風のデザインは当時の中国で大流行し、これとほぼ同じ形の水差しが日本にも伝えられました。正倉院宝物の中でも名品として知られる「漆胡瓶(しっこへい)」です。日本史の教科書でも紹介されているので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。
古代日本とササン朝ペルシアを結ぶソグドの銀器。シルクロードを通じた古代の壮大な文化交流が感じられる逸品です。

おわりに

いかがでしたでしょうか。意外と知られていないエルミタージュ美術館のシルクロードの名宝。
中央アジアの壁画や考古遺物は1階に、東アジアの仏教美術は3階に主に展示されています。2階の西洋絵画の展示室と違って訪れる人も少ないので、ゆっくりと鑑賞することができますよ。
この他にも遊牧騎馬民族スキタイの古代のお墓から発掘された金製品や馬飾りなど面白い資料がたくさんあるので、考古学や古代史、仏教美術に興味のある方はぜひ訪れてみて下さいね。

掲載内容は執筆時点のものです。 2015/08/01 訪問

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