写真:沢木 慎太郎
地図を見る靖国神社(やすくにじんじゃ)は、東京都千代田区にある神社。地下鉄の「九段下駅」で降りると、九段下交差点から皇居北端の田安門にかけて、“九段坂”と呼ばれる緩やかな坂道が延びています。
坂道を登りきったところに見えてくるのが、写真の靖国神社。大きな鳥居があり、桜並木が奥まで続いています。
靖国神社は、戦争で亡くなった日本の軍人らをお祀りしているところ。その中には、戦争を指導した責任者を祀っているということで、国内外から批判の対象にされることもあります。
しかし、この神社は、皇居のお堀端である千鳥ヶ淵(ちどりがふち)と並んで桜が美しく咲く場所。春には戦争とは関係なく、多くの花見客で賑わいます。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る石畳の参道の両脇には桜並木が延々と続いています。参道をまっすぐ進むと、やがて拝殿に。訪れた時間が夕暮れだったので、夕日が神社の正面に当たり、神々しい輝きを放っています。
拝殿から右へと曲がった場所にあるのが、実物のゼロ戦が展示されている遊就館。ガラス張りとなっているので、拝観料を支払わなくても外からゼロ戦を見ることができます。
遊就館は、戦没者や軍事関係の資料を展示している資料館で、1882年(明治15年)に開館した日本で最初の軍事博物館。
硫黄島の戦いで使われた大砲や、特攻兵器の人間魚雷「回天(かいてん)」などが展示され、映画で観た惨劇が思い出されます。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る写真が、遊就館の玄関ホールに展示されているゼロ戦(52型)。戦場で残骸となって発見された数機の機体を集めて復元したもので、レプリカではなく本物です。それだけに痛々しいものがあります。
ゼロ戦という名前は略称で、正式には零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)。
ゼロ戦が正式に採用された1940年(昭和15年)は、初代天皇の神武天皇が即位してから2600年(皇紀2600年)にあたり、当時の日本の軍用機は皇紀の下2ケタを名前につけることになっていたので、2600年の下2ケタ「00」を取って、“ゼロ”と名づけられました。
アメリカとの戦争が避けられなくなった日本は、世界最強の戦闘機を造ることで戦争を優位に進めようと考え、ゼロ戦を開発。
日本軍によるハワイの真珠湾攻撃(1941年12月8日)によって太平洋戦争が始まりますが、2200キロメートルにも及ぶ長い航続距離、20ミリ機関砲という重武装、機体の軽量化に伴う優れた運動性能と、どれをとっても開戦当時にこれだけの性能を持つ戦闘機は世界でゼロ戦以外になく、アメリカやイギリス軍の戦闘機に圧勝。ゼロ戦は、“ゼロファイター”と呼ばれ、米英のパイロットから恐れられました。
写真:沢木 慎太郎
地図を見るしかし、そのゼロ戦も戦争が始まると、やがて劣勢に追い込まれてゆきます。当時の日本の技術では1000馬力のエンジンを造る能力しかなく、ゼロ戦は機体を軽くして運動性能を高めたため、操縦席にはパイロットの命を守る厚い鉄板はありません。
これに対してアメリカは、ゼロ戦の2倍もの2000馬力を持つエンジンを開発。パイロットを厚い鉄板で守った新型戦闘機を大量に送りこんできます。
パイロットの安全や命を守ろうとするアメリカの考え方。身を削り、命をうんと軽くして闘うことだけを優先に考えて造られた日本のゼロ戦。人の命に対する日米の考え方の差が、浮き彫りになります。
次第に暴かれたゼロ戦の機体のもろさ。これが致命傷となり、防弾装置のないゼロ戦は次々と打ち落とされ、やがて飛行機を操縦するベテランのパイロットがいなくなります。
追いつめられた日本軍は、爆弾を積んだ飛行機もろとも敵の軍艦に体当たりしてゆく特攻攻撃を命じます。生還を期さない特別の攻撃部隊。特攻機として最初に選ばれたのはゼロ戦でした。
「靖国神社で会おう」
そう言い残し、多くの若者がゼロ戦とともに散ってゆきました。
映画『風立ちぬ』は、飛行機が好きな少年が、“戦闘機”ゼロ戦を設計しなければならなくなった物語。その彼が恋に落ち、死の影におびえる彼女と過ごし、残された時間の中で“生”を見つめ続ける話です。
自由に生きようとして空に憧れ、大空を駆けたいと願っても、不自由な世の中。それは今も変わることはないのでしょう。
宮崎監督が全精力を傾け、自分の映画を見て、初めて涙を流したという『風立ちぬ』。
映画の中だけでなく、靖国神社で実物のゼロ戦に触れ、宮崎監督の涙の意味を感じてみてはいかがでしょうか?
■遊就館
■開館時間:午前9時〜午後4時30分(季節によって変動あり)
■休館日:なし(6月末および12月末に臨時休館あり)
■拝観料:大人800円/大学生500円/中高生300円
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(2024/10/16更新)
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