ドイツ「ベルリン・ユダヤ博物館」 ホロコースト、戦争の運命の軸を体験

ドイツ「ベルリン・ユダヤ博物館」 ホロコースト、戦争の運命の軸を体験

更新日:2018/07/30 11:29

20世紀最大の悲劇の一つである、第二次世界大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人の迫害。その舞台となったドイツの首都ベルリンに、2001年にユダヤ博物館がオープンしました。こちらは建築そのものが独特なものとして、開館前から注目を集めました。今回は、ホロコースト(大量虐殺)そしてユダヤ人の悲劇を語るような、建築をご紹介します。

ホロコーストの生存者の子供、ダニエル・リベスキンドによる設計

ホロコーストの生存者の子供、ダニエル・リベスキンドによる設計
地図を見る

まずは写真をご覧ください。左にあるのは、ヨーロッパの伝統的な建物。一方右の建物は非常に現代的です。この両方が「ベルリン・ユダヤ博物館」。古い方は「コレギエンハウス」と呼ばれる、かつて高等裁判所として使われていた建物です。一方、右の建物が2001年に作られた「リベスキンド・ビルディング」です。博物館の入口は、左の古い建物の方。厳重なセキュリティ・ゲートを通って入るとすぐに地下に下り、隣のリベスキンド・ビルディングへと渡ります。

まるで鋭い傷が表面に付けられているような外観が気になる「リベスキンド・ビルディング」は、ホロコーストの生存者の両親から生まれた、ポーランド出身のユダヤ系アメリカ人建築家ダニエル・リベスキンドによる設計です。この建築は、1989年に行われたコンペで、斬新なデザインによって選ばれました。上から見ると、不規則なジグザグな形をしています。展示室の中には博物館の模型もあるので、確かめて見て下さい。

※ダニエル・リベスキンドは、ニューヨークのワールドトレードセンター跡地に建てられた「フリーダム・タワー」の設計でも知られます。

ユダヤ人の運命、3つの「軸」

ユダヤ人の運命、3つの「軸」
地図を見る

こちらの写真は歪んでいるように見えますが、写真の加工によるものではありません。これは建物そのものの設計。地面は傾き、壁の角も鋭角で方向を見失い易く、歩いているだけで不安を感じさせるような造りになっているのです。ここは博物館の建物の地下。見学はここからスタートします。ルートは大きく分けて3つ。「亡命の軸」「ホロコーストの軸」そして「継続の軸」です。これは、第二次大戦中のユダヤ人の3つの運命を表しています。

「亡命の軸」の壁には、ロンドン、ブリュッセルなどユダヤ人たちが亡命した町の名前。その先の重い扉を開けると「亡命の庭」と呼ばれる外に出ます。しかし、ここでも地面は傾き、そしてコンクリートの柱が林立して視界を遮るという不安定な場所。ユダヤ人たちは亡命しても心休まらなかったのでしょう。未知の土地での不安と苦労がしのばれます。

暗闇に包まれる「ホロコースト・タワー」

暗闇に包まれる「ホロコースト・タワー」
地図を見る

もう一つの「ホロコーストの軸」と呼ばれる通路を歩くと、壁にはアウシュビッツ、ビルケナウといった、強制収容所の名前が並びます。壁の中は展示スペースにもなっていて、そこには亡くなったユダヤ人たちの遺留品。訪問者はここで、失われた個人の記憶と向き合うことになるのです。

「ホロコーストへの軸」の突当りには、「ホロコースト・タワー」と呼ばれる小さな部屋があり、扉の前では係員が入る人数を常に制限しています。中に入ると殆ど真っ暗。冷たいコンクリートに囲まれた狭い部屋の、高い天井の僅かな隙間から外の光が差し込んでいます。この光が表すのは、かすかな希望でしょうか。それとも決して手が届かない光は、絶望を表しているのでしょうか。この沈黙の空間は、ホロコーストに遭ったユダヤ人たちの悲劇を感じ、彼らを悼むための部屋となっています。

「継続の軸」長い長い道のりと、空虚な空間「ヴォイド」

「継続の軸」長い長い道のりと、空虚な空間「ヴォイド」
地図を見る

最後のルートは「継続の軸」です。ホロコーストを越え、現在までも生き残って未来へと繋がっていく長い長い道のりです。地下から地上3階までの階段を上りきると、ようやく博物館の展示室に辿り着きます。

こちらの写真は階段の途中で撮ったものですが、博物館の中にはこのような「ヴォイド」と呼ばれる、切り裂かれたような何もない空間があちこちにあります。これはホロコーストによって断ち切られてしまったユダヤ人の記憶、埋めることのできない断絶を表しているのです。

イスラエルの彫刻家メナシェ・カディシュマンによるインスタレーション

イスラエルの彫刻家メナシェ・カディシュマンによるインスタレーション
地図を見る

こちらはイスラエルの彫刻家メナシェ・カディシュマンによるアート・インスタレーション。「記憶のヴォイド」と呼ばれる場所にあります。金属が粗く削り抜かれ、まるで人々が苦しみ、叫んでいる顔のよう。建築の切れ目のような「ヴォイド」は天井が吹き抜けで、コンクリート打ちっぱなしのため、音が空間によく響きます。そのため、この作品の上に足を載せると甲高い金属音が響き渡ります。まるで人の顔を踏んで、踏まれた人が悲鳴を上げているようにも感じるこの場所。貴方はそれに耐えて、先に進むことが出来るでしょうか・・・?

「ベルリン・ユダヤ博物館」ユダヤ人の運命を感じる建築・・・

以上、「ベルリン・ユダヤ博物館」の建物のご紹介でした。建物そのものが歴史を語る珍しい博物館なので、ぜひ実際に訪れて感じて欲しいと思います。

さて、「継続の軸」の長い階段を上りきると、ようやく博物館の展示室に辿り着きます。ここからは、2000年に渡るドイツのユダヤ人たちの歴史を見ることが出来ます。20世紀の悲劇を感じた後に、その長い歴史を改めて辿って見ていきましょう。

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2011/07/23 訪問

- PR -

条件を指定して検索

- PR -

この記事に関するお問い合わせ

- 広告 -