熊本県と鹿児島県の間を走るこの列車は、鹿児島の吉松駅行きは「いさぶろう」熊本駅行きまたは熊本県の人吉駅行きは「しんぺい」と上下線で名前が変わります。熊本駅発着は1日1往復のみ、人吉駅は熊本駅と吉松駅の中間に位置します。
明治時代に国の威厳をかけて険しい山岳地を走らせるための鉄道工事が行われました。標高差約430mの急こう配を走るため、半径300mのループ線(急こう配を緩和するためにらせん状に敷かれている線路)、ループ線の中にあるスイッチバック(急こう配を登るため鋭角に進行方向を変更できるよう敷かれている線路)など、当時における最高の鉄道技術を駆使しているのです。
その工事の責任者である逓信大臣の山縣伊三郎、鉄道院総裁の後藤新平、この2人の偉人の名を取って「いさぶろう・しんぺい」とネーミングされました。
人吉駅を出発し初めに停車するのが大畑(おこば)駅。前述したループ線の中にスイッチバックがある日本で唯一の駅です。
昔ながらの佇まいで山の中にポツンと建つ無人の大畑駅。駅舎に入ると名刺が所せましと貼られています。なんでも「待合室の壁に名刺を貼ると出世できる」という噂があるのだとか。ご利益はいかに?
駅舎の横には石で造られた円柱形の給水塔跡があります。かつて蒸気機関車が走っていた時代に、急こう配に備えて給水を行っていたのです。ホームの端には湧水の洗顔所跡があり、ここではトンネル続きで乗務員や乗客がすすだらけになった顔や手を洗っていました。どちらも明治からSLの運行を支えてきた縁の下の力持ち。歴史を感じます。
大畑駅を出発した列車は、スイッチバックをして急こう配を進みます。次に停車するのは肥薩線で標高が最も高い「矢岳駅」です。その標高は536.9m。緑に囲まれたすがすがしい景色、真夏でも空気が涼しく感じられる心地の良い場所です。
駅舎の横にはSL展示館があり、「デゴイチ」の名で親しまれたD51形蒸気機関車が展示されています。中に入るとその大きさに圧倒されます。保管状態が良く、いつでも復帰できそうなほどの美しさです。これには鉄道ファンならずともテンションが上がりますね。デゴイチに夢中になって乗り遅れのないように。
肥薩線で唯一宮崎県にある「真幸(まさき)駅」。その名前から縁起の良い駅として観光客に人気があります。
ホームに置かれた「幸せの鐘」は国鉄時代に乗務員が、列車やお客様の安全と幸福を祈って鳴らしていたものです。今ではこの駅の名物として、ちょっと幸せなら1回、もっと幸せなら2回、いっぱい幸せなら3回鳴らすと幸せになると言われています。
駅舎では絵馬が販売され、多くの旅人が真の幸せを願って絵馬を奉納しています。駅名が書かれた入場券も縁起が良いと人気で、現在は人吉駅と吉松駅で購入可能です。
列車は緑に囲まれ山を登り峠を下ります。通称矢岳越えとも言われます。この矢岳越えで見られる景色が、長野の篠ノ井線や根室本線旧線と並んで日本三大車窓に選ばれているのです。
肥薩線で最も標高が高い矢岳駅から真幸駅へ向かう途中、矢岳第一トンネルと矢岳第二トンネルの間に広がる絶景。えびの高原、その奥に霧島連山、美しさに言葉を失います。天気が良ければ、鹿児島のシンボル桜島も見えるんですよ。
ここでは絶景を楽しむため、停車して写真撮影の時間を取ってくれるのも観光列車ならでは。景色を見るだけでも列車に乗る価値がありますね。
この景色は吉松行きなら進行方向左側、熊本・人吉行きなら進行方向右側に座ると良く見えます。
出世祈願の大畑駅、デゴイチが見られる矢岳駅、真の幸せがある真幸駅。いさぶろう・しんぺいが停車するどの駅にも夢がありますね。開業当時から変わらぬ姿を残す木造の駅舎も、なんだかほっこりした気分にさせてくれます。
素晴らしい絶景と名物駅、どちらも楽しめる「いさぶろう・しんぺい」でのんびりと列車の旅をしてみてはいかがでしょうか。
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(2023/11/28更新)
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