大和の青垣山のほとんどは花崗岩から成り立っていますが、この山容だけは、角閃斑れい岩と呼ばれる非常に堅い岩質の深成岩(火成岩の1種)より成っています。しかも山頂から北東部へと延びる鍋倉渓では、大小の黒々としたこの岩石が浸食に耐え谷を埋め、珍しい景観が600m余りも続き、圧巻です。その奇勝から、古代より修験の行場として栄えてきました。
まずは、堆積した岩が煤けた鍋底を思わせるところから名づけられたという鍋倉渓の取っ付きにある駐車場に車を置いて、谷沿いの木場道を登り、太古からのストーンパワーをもらいましょう。 「なべくらの下を流れる水を見たら百万長者になれる」との言い伝えがあるこの谷筋、確かに水音は聞こえていますが流れを目にする人は稀なようです。
鍋倉渓の登り切ったところには天狗岩があり、そこからしばらく山道をたどるとぼうぼうたる頂上部に出ます。NHK山添村テレビ中継放送所と古代の墳丘とみられる王塚があり、その王塚につづく自然林はタブの木、マテバシイなどの亜熱帯系、温帯系、暖帯系のさまざまな珍しい樹木が繁茂し、植物の宝庫となっています。
また一等三角点の脇の展望台に登ると360度のパノラマ風景が広がり、王塚をのぞく山頂一帯は方々に磐座が点在し、それらの間をつつじの群落が埋めています。
王塚から山頂近くまで栽培されている茶畑の脇の道を少しくだると神野寺に出ます。飛鳥時代の金銅如意輪観音半跏像を伝えており、天平12(740)年行基の創立。薬師如来をまつって法性寺正院と称しましたが、嵯峨天皇のときに神野寺と改められたといいます。山岳修験の道場として、また神の住む山として崇められたことが偲ばれます。
奈良から伊賀へと抜ける街道筋にある神野山と笠置から室生方面へと通じる布目ダム(平成4年に完成)。周辺には古よりの繁栄をしめす見事な磨崖仏や野仏がいたるところに顔をのぞかせています。
助命(ぜみょう)集落の馬鳴観音(めみょうかんのん)、地蔵・阿弥陀2尊磨崖仏、鍋倉渓にほど近い塩瀬の磨崖地蔵。北野集落のほうらく地蔵(写真)、布目ダム沿岸には水没したためにダム底から移設された地蔵・阿弥陀像など、車でないと回りきれないほどの石仏が点在します。
その中でも牛ケ峰大日如来磨崖仏と、空海がその線刻如来を刻んだのちにのみと槌を納めたと伝えられる枡形岩は、急な坂道をかなり登らねば到達できませんが、大きな岩屋に刻まれた座高212cmの大日如来像はこの界隈でも強烈なオーラを発散し続けています。
「大和茶」は山添村の特産というだけあって、神野山周辺はいたるところ茶畑でしめられています。その大和茶と地元野菜にこだわったご当地グルメを楽しませてくれるのが、鍋倉渓をやや南にくだったところにあるお食事処・映山紅(えいざんこう)です。
ここの「里山ランチ」はおすすめです。季節により多少の異動はあるものの(写真上左より)ナスの素あげ、カボチャ・紫シシトウ、豆の天ぷら、そうめんカボチャのサラダ、ズイキの甘酢、香のもの、新ゴボウの炊き込みご飯、満願寺トウガラシの和え物、ミョウガの味噌汁。食後のデザートは手づくりなべくらチーズケーキと和紅茶。これだけで1200円ぽっきり。
このほか「茶まぶし」「茶がゆ」「茶そうめん」などのメニューがならび、併設の売店では、大和茶はもちろん、茶葉を利用した食品から化粧品、茶オイルなどリーズナブルで、素敵なグッズがならんでいます。
大和高原でもこのあたりは交通の便が悪く、マイカーあるいはレンタカー利用がおすすめ。神野山にはここで述べた奇岩スポットのほか、100名を収容できる研修室を備えた森の学校・森林科学館、ウッドクラフトが体験できる木工館、めえめえ牧場とその羊の毛を使って羊毛加工と織物が楽しめる羊毛館などがあります。
奈良時代を通して伊賀・伊勢・宇陀へ通じる主要街道としてにぎわった奈良盆地に匹敵する広さをもつ山里には京・奈良の都市部では得られない充実した時間が流れています。ぜひ一度トライしてほしいところです。
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