迷宮都市ヴェネツィアで「時」に迷う贅沢〜ひと気のない脇道と裏道を歩く〜

迷宮都市ヴェネツィアで「時」に迷う贅沢〜ひと気のない脇道と裏道を歩く〜

更新日:2018/07/27 11:34

サン・マルコの金のモザイク、教会に掲げられたルネッサンス絵画、貴族の館のシャンデリア…、ヴェネツィアではいたるところで時を経た華やかな空間に出会えます。それらを堪能した後は少し時間を取って、ヴェネツィア特有の小道に足を踏み入れてみませんか。迷路のように入り組んだ狭い路地をさまよい歩けば、世界にたった一つの海の都の「時」空間を、まるごと体感する贅沢を味わうことができます。

メインストリート(大運河)とカッレ(calle:小道)

メインストリート(大運河)とカッレ(calle:小道)
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ご存じのように、ヴェネツィアの主要な道は運河です。公共バスもタクシーも、パトカー(パトボート)も消防車(消防船)も、みな水の上を走ります。メインストリートとなるカナル・グランデ沿いには華やかな宮殿が軒を連ね、歴史を語ってくれます。でも、このルートで辿れるのは表の顔、ヴェネツィアの魅力の一面に過ぎません。

ヴェネツィアの「時」空間を存分に味わうには、車といったら手押し車と乳母車しか通れない、小道や狭い路地に足を踏み入れる必要があります。せっかくヴェネツィアにやってきたのです。暗いソットポルティゴ(建物と建物をつないだトンネル状の通路)を潜り抜け、ひと気のないカッレ(ヴェネツィア方言で路地や小道の意味)を歩いてみましょう。

ヴェネツィアに行かれた方は、「ヴェネツィアにひと気のないところなんてあるのか」と、疑問に思われるかもしれません。確かにサン・マルコやリアルト橋界隈は、一年じゅう、そこらじゅう、観光客ばかりです。ですが、ヴェネツィアが不思議なのは、そういった有名どころを少し外れると、どんなに観光客の多いシーズンでも、ふっと誰もいない路地に入り込んでしまう瞬間があることです。

とはいえ、旅のプランニングや歩き方に少しばかりのコツはあります。

旅行時期を吟味する

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旅行時期の選択は重要です。春から秋の観光客が増える時期を避けるのも一案。晩秋〜冬のオフシーズンをあえて狙うとか。あるいは、ヴェネツィアが一番静けさを取り戻す、カーニバルが終わった直後から早春にかけて。3月4月はまだ寒いけれど、教会の尖塔の先が霧の空に消えていたりして、静けさのなかに幻想的な味わいがあり、個人的にはお勧めです。

といっても、ゴールデンウィークや夏休みしか長期休暇が取れない方も、諦める必要はありません。ヴェネツィアは迷宮都市、迷い込めばよいのです。

脇道と裏道を行く

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ヴェネツィアの足が、まずはヴァポレット(水上バス)であるのはその通りです。カ・ドーロ、リアルト橋、サン・マルコ寺院、デュカーレ宮殿、アカデミア美術館、と、カナル・グランデを行く1番線だけでアクセスできるのですから。けれども実は、リアルト橋からサン・マルコ広場までは、徒歩のほうが近いのです。標識もあり、人通りも多く、流れに乗って歩けば迷うこともありません。最初にヴェネツィアの小道がどういうものかを知りたい、という方には最適なルートです。

小道はすぐに建物に突き当たり、かぎ型に折れ曲がったかと思うと運河が遮り、太鼓橋を渡った先に、建物の壁と壁との間のただの狭いスリットのようなものが、続いています。思い切って人の流れから外れて脇道にそれ、裏道にも入ってみましょう。心細くなったら地元の人に訊ねるか、訊ねる人に出会えなかったら、元のルートに戻ることにして。

夜歩く

夜歩く
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ヴェネツィアで最も濃密な「時」を感じられるのが、夜のカッレです。街灯はレンガの壁のオレンジ色を際立たせ、光の及ばない暗闇を深いものにしています。壁が切れるとふっとなめらかな水面が現れ、小さな桟橋を照らす灯が、水に浮かんでいます。この陰影そのものが、まるごとヴェネツィアの「時」なのです。写真でも映像でも、この「時」を味わうことは出来ません。街を包む光と影のなかを歩き、揺れる水を渡り、ひそやかな夜の匂いを体に浸み込ませた人だけが、感じ取れるのです。

おすすめはリアルト橋西側のサン・ポーロ地区。この界隈にホテルを取れば、夜の散策はさらに楽しいものなるでしょう。昼のうちに魚市場を冷やかしたり、ルネッサンス絵画がお好きな方は、スクオラ・ディ・サンロッコでティントレットを、サンタ・マリア・グロリオーサ・デイ・フラーリ教会でティツィアーノを堪能し、ついでに一帯を探索しておきましょう。夜はヴェネツィアっ子御用達の居酒屋、ヴァ―カロをハシゴし(このあたりに多いのです)、酔い覚ましに運河の風に吹かれる、なんてことが可能です。

迷子にならないかって?

はっきり言って、なります。ですがそれほど心配することはありません。主要なカッレや広場の名前、水上バス乗り場への矢印など、プレートがあちこちに掲げられています。カッレはたいてい、カンポと呼ばれる広場に出ます。ベンチに座って地図を確かめたり、行き交う人を眺めたりしながらひと休み、というのもいいものです。

というより何より、ヴェネツィアで迷わないなんてもったいない。時の迷路をさまよいあるく贅沢な時間を、ゆめゆめ、サン・マルコ広場のカフェで浪費などなさらぬように(これもまた別の贅沢なヴェネツィアではあるのですが)。

掲載内容は執筆時点のものです。 2001/05/05−2016/05/31 訪問

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