写真:花月 文乃
地図を見る猿沢池のほとりで、手をパンパンとたたけば、旅館の女中はお客が自分を呼んでいると思い、大きな声で返事をし、鳥は鉄砲の音かと思い驚いて飛び立ち、鯉は餌がもらえると思い岸辺へよってきます。
これは、仏教の唯識の一水四見の思想を表しています。対象は同じでも、それを見る人により、その認識は変化します。
水ひとつとっても、人間にとってはただの水でも、魚にとってみれば住処であり、天人には、透き通るガラスのように見え、餓鬼にとっては炎の燃え盛る血の膿に見えるといいます。
猿沢池からは、興福寺と五重塔が見えます。興福寺は、この唯識思想を奈良時代から現代まで学び伝えてきた、法相宗の学問寺として知られています。
写真:花月 文乃
地図を見る猿沢池の回りには、ベンチがあり、奈良町の散策に疲れた人や地元の人達がすわって休んでいます。
写真:花月 文乃
地図を見るこのベンチのあたりには、たくさんの鳩がいます。なぜだか、いつも昼間には、ベンチのあたりに群がっています。ベンチは、ちょうど興福寺を向く方向にあるので、五重塔と猿沢池の絶景をみながら、ゆっくりと心おきなく安らぐことができます。時をたつのも忘れそう…でもご心配なく。ちょうど、ベンチから見えるところに時計があるので、時間を確かめることができます。
写真:花月 文乃
地図を見る猿沢池の近くのお茶屋さんでは、鯉と亀の餌を売っています。猿沢池をのぞいてみると、わかりますが、たくさんの亀が泳いでいるのがわかります。時々、水からあがってひなたぼっこしているところをみることもあります。せわしなく動いている鳩に比べて、亀を見ているとなごみます。
写真:花月 文乃
地図を見る猿沢池は、興福寺が毎年4月に行っている「放生会」で金魚と鯉を放流するために奈良時代(749年)につくられた人工池です。「放生会」は、万物の生命をいつくしみ、捕らえられた生き物を野に解き放つ宗教儀式です。池をのぞいてみると、魚より亀が多い印象です。
2014年に、奈良県が猿沢池の水をぬいて池の調査を行ったところ、驚きの結果が分かりました。
在来種のクサガメなどは激滅しており、かわりにペットで飼育されるミドリガメがほとんどをしめており、みつかった亀の原産地は北米や中国、東南アジア、中近東など世界中に及ぶことが判明しました。ミドリガメは、ペットで飼われていたのが、なんらかの事情で猿沢池に投げ込まれた可能性があります。ミドリガメは、生態系を乱すということで神戸市立須磨海浜水族園にひきとられ、駆除されました。
写真:花月 文乃
地図を見るなごやかな印象とは別に、悲しい言い伝えが猿沢池には伝わっています。天皇に仕える釆女が天皇に恋をし結ばれたが、天皇は心変わりし、悲しんで猿沢池に入水自殺したという釆女伝説です。猿沢池の近くには、身を投げた釆女の霊を鎮めるため、釆女神社が建てられています。
写真:花月 文乃
地図を見るまた、九重塔が建てられ、その前には釆女地蔵が祀られています。このあたりに、釆女が入水するときに着ていた衣をかけたという柳があったと伝わりますが、現在は見当たりません。
猿沢池でゆったりと泳ぐ亀をみていると、この池が釆女の悲しい伝説を伝える場所に思えないでしょう。一水四見の思想を表した猿沢池の歌のように、人それぞれ猿沢池にたいしての感じ方は違います。歌にあるように、ここには、人も、鳥も、鯉も、そして、亀も、たくさんの生きとし生けるものたちが、思い思いに交差する場所です。
あなたは、猿沢池にどんな印象を持ちますか?
猿沢池から見える興福寺が奈良時代から現代まで、伝える唯識思想について思索しながら、ぜひ、あなたなりの答えを見つけてください。
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(2024/4/20更新)
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