写真:沢木 慎太郎
地図を見る京都、嵐山から北へ。大覚寺よりも、さらに北に進んだ奥嵯峨野。人里離れた山のふもとに、静かな竹林にひっそり囲まれた小さな寺があります。京都・嵯峨野の「直指庵(じきしあん)」。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る市バス・京都バス「大覚寺」のバス停(詳細は後術)から、大覚寺西側の筋を北へ約1キロメートル(約15分)。華やかな嵐山界隈と違って、のどかな田園風景が広がり、民家もまばらに。小径をまっすぐ進むと、竹林に囲まれた直指庵の石碑が見えてきます。嵯峨野の最も北にある「直指庵」。これより先はありません。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る庵とは、出家した人や世俗を離れた風流人が、人との交わりを絶って暮らすための小さく質素な小屋のことです。松尾芭蕉の「芭蕉庵」、良寛の「五合庵」、西行の「西行庵」といった庵がありますが、京都の「直指庵」も、静寂と愁いを秘めた小さな寺です。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る季節はずれの早朝や夕方は訪れる人も少なく、境内はひっそり。かやぶき屋根の小さな本堂の前にあるのが「愛逢い地蔵」さま。ふたり仲良く寄り添いあい、優しく微笑ましい顔立ちに、ふと心がなごみます。縁結びや良縁の恋愛パワースポット。恋愛成就のお地蔵さまです。
写真:沢木 慎太郎
地図を見るまわりに人がいても静か。本堂の縁側に座り、竹の葉ずれの音や鳥の鳴き声に耳を澄まし、季節の移ろいを感じるのも良いでしょう。
小さいながらも苔が美しい庭には、山桜や桃、石南花(しゃくなげ)、紫陽花、菊など季節の花がたくさん植えられ、四季折々に深い趣のある風情を楽しむことができます。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る竹林の庭に落ちた椿や、苔庭を埋め尽くす山桜の花びらも詩情豊か。本堂を包み込むカエデは秋が深まるにつれて、明るい黄色からオレンジ、朱色と変わり、やがて燃えるような真紅へと移ろい、風に舞う紅葉も愁いの表情があります。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る静寂に包まれ、時が止まったような本堂。机には、ごく普通のA4ノートが置かれているだけ。「想い出草ノート」と名づけられた白いページが、旅人に薄く微笑みかけます。
「そっと その意地を 私に 捨てて ください。苦しむ あなたを 見ているのが つらいのです」
写真:沢木 慎太郎
地図を見る「想い出草ノート」を前に、春夏秋冬、移ろいゆく季節のなか、旅人が自分自身と向き合います。恋愛の悩みや生きることの苦しみ。旅人たちの抒情詩は50年以上続き、ノートの数は5000冊を超えています。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る可愛いイラストが添えられた恋ヘタな想い。余命1年と宣告されたお年寄り。仕事を辞めたいが、辞められない。人に言えない恋愛をしている女性。両親の介護で苦しむ姿。愛する人を失った哀しみ。恋愛や結婚。パートナーとの不調和。冷え切った愛情や無関心。憎しみ、恨み、嫉妬。いじめ、貧困、病気、自殺。
変えることができない現実に向き合い、自分自身に出会い、ほかに戻るべき場所のない日常へと帰っていきます。自分を救ってくれる人は誰もいない。自分が誰も救えないのと同じように。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る「直指庵」という名前。すっと、まっ直ぐに、素直で正直でありたいとする心の在り方が感じられるのではないでしょうか? これは、禅の言葉にちなむもの。「直(ただ)ちに、あなたの心を指してごらんなさい」という意味です。難しい言葉で、「直指人心(じきしにんしん) 見性成仏(けんしょうじょうぶつ)」というものです。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る「直指人心」にある“心”とは、感情にゆらぐ心のことではなく、もっと自分の心の奥にある本心。禅の教えでは、「そこに仏さまになる種(性)があるのですよ」という意味ですが、自分の意思とは関係なく、「生きよう」とする心の力。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る変えることができない難しい現実。直指庵を訪れても現状は何も変わりません。悠久の時の流れからすれば、淡雪よりも、はかない自分の命。生きていることは苦しみ。はかない時間の中で、喜びよりも、より大きく、より深く、哀しみや苦しみ、淋しさをたっぷり味わされて生きていかなければなりません。
それでも、胸に抱えた苦しみや哀しみ、後悔を旅のノートにつづり、そっと自分の重荷を下ろし、誰とも話さず、誰にも会わなくても、文字だけで見知らぬ人、素直な自分と出会うのが「想い出草ノート」。
生きていることは淋しいから、音楽を聴き、詩をつづり、誰も自分をわかってくれる人がいないから、どこか遠くに旅に行きたいと思うのでしょう。何かに出会いたくて、遠い旅先で、自分以外の、誰かの素直な声を聴くことができたなら、どれほど寂しさは、やわらぐことでしょう。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る直指庵は、隠れた秋の紅葉の名所としても知られています。かやぶき屋根の本堂や道場。開山堂や水子地蔵尊、愛逢い地蔵尊。四季折々の美しさを楽しむことができますが、秋の美しさは格別です。
写真:沢木 慎太郎
地図を見る直指庵の奥には、ノートを広げた観音さまの姿があります。想い出草観音像。優しげに微笑する観音さまは、旅人の心に静かに耳を澄ませ、その後の成長も見守り続けています。
空気や光、水も、命あるもののように現れたり、消えたりします。ほんの短い時間を生きています。自分も、自分が憎んでいる人も、愛する人も、顔も知らない一生会うことのない人たちも。空気や光、水も、ほんの一瞬の音楽。自分の奏でる音楽が、どんなにヘタなメロディーでも、たった一度しか奏でる機会はありません。
本堂の縁側に座り、竹林や紅葉を見上げてください。優しい自然に癒されることでしょう。写経ができる部屋もあり、竹林や紅葉、雪景色を眺めていると、時が経つのも忘れ、心が休まります。
直指庵は、「尼寺」「(女性の)駆け込み寺」「想い出草は女性の想いをつづったもの」と紹介されていることもありますが、こうした事実はありません。老若男女問わず、一人旅の男性や、幸せそうなカップルの方も多く参拝しています。ただ、本堂内や想い出草ノートを撮影することはできません。
直指庵は、嵐山から3キロほど離れた遠い場所にあるので、電動付きレンタサイクルを利用するか、バスに乗って大覚寺の停留所で降りて行かれると良いでしょう(直指庵には駐車場はありません)。京都でおすすめの観光スポットについては別途、記事にまとめていますので、ご興味のある方は関連MEMOに貼り付けたリンクからのぞいてみて下さい。
<基本情報>
住所:京都府京都市右京区北嵯峨北ノ段町3
電話番号:075-871-1880
アクセス:市バス・京都バス「大覚寺」
京都駅から「京都バス」C6乗り場74、84系統大覚寺・清滝行き約56分、京都駅から「市バス」28号系統 嵐山・大覚寺行き約54分、四条河原町駅から「京都バス」河原町通南行き乗り場64系統嵐山・清滝行き約45分、阪急嵐山駅前から「京都バス」駅前ターミナル乗り場64・94系統清滝行き約10分
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(2024/10/6更新)
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