写真:織笠 なゆき
地図を見る「達谷窟毘沙門堂(たっこくのいわやびしゃもんどう)」の建つ窟は、かつてこの地で乱暴なふるまいをくり返していた悪路王・赤頭・高丸などの蝦夷が砦を構えていた場所と言われています。
延暦20年(801年)、桓武天皇の命を受けた坂上田村麿公は、征夷大将軍としてこの地に赴き、激戦の末に蝦夷を打ち破りました。坂上田村麿公は京都の清水寺を建立した人物。蝦夷討伐には「鞍馬寺の毘沙門天より剣を授かった」「諏訪大社で戦勝祈願をしたところ馳せ参じた武者が、窟での戦いで神がかり的な活躍をした」など、各地でさまざまな伝説が残されています。
“戦勝は毘沙門天のおかげ”と感じた坂上田村麿公は、そのお礼にこの窟に清水の舞台を模した九間四面の精舎を建て、108体の毘沙門天をお祀りし、国を鎮める祈願所としました。
写真:織笠 なゆき
地図を見る毘沙門天は寅年の守り本尊であり、財宝・官位・知恵・寿命・縁結び・子宝・学業成就、そして勝負事の必勝祈願など、さまざまな願いをかなえてくださると言われています。
「達谷窟毘沙門堂」の現在の御堂は創建以来5代目で、内陣の奥に、慈覚大師が坂上田村麿公を模して刻まれたと伝えられる秘仏が納められています(33年に一度の御開帳、次は2042年)。また、御堂の床下は、“祖先の霊魂があの世から帰りて集う”などの聖なる場所とされ、現在では人の立ち入りが許されない禁足地になっています。
境内は御神域として、飲食や動植物の採取、殺生、犬や猫を伴っての参詣などは固く禁じられており、周辺ののどかな風景とは一線を画す、厳かな空間となっています。
写真:織笠 なゆき
地図を見る「達谷窟毘沙門堂」の左隣には、岩壁に刻まれた大磨崖仏があります。高さ約16.5メートル、肩幅約9.9メートルの大きな像で、その名も「岩面大佛」。前九年の役と後三年の役で亡くなった敵味方の霊を供養するために、源義家が彫りつけたと伝えられています。「北限の磨崖仏」としても名高いこの像ですが、明治29年の地震で胸から下が崩落してしまい、現在も摩滅が進んでいるのだとか。後世に伝えるため、早急な保護が叫ばれています。
写真:織笠 なゆき
地図を見る「達谷窟毘沙門堂」が創建された翌年の延暦21年(802年)、別當寺として「達谷西光寺」は創建されました。「達谷窟毘沙門堂」を根本道場とし、神事などを守り伝えてきた「達谷西光寺」。「達谷西光寺」自体は天台宗のお寺ですが、「達谷窟」はこれらの諸堂や鎮守社から成る神仏混淆の社寺のため、境内に鳥居があるのです。
写真:織笠 なゆき
地図を見るまた、「達谷西光寺」には、檀家が一軒もありません。これは、弔事に出仕した当日は鳥居をくぐることができず、神事を執り行えなくなるから。一年を通じて数多くの神事がありますが、特に正月の「修正會」は、慈覚大師の高弟である恵海大和尚から伝わった、千年以上続く伝統神事です。
写真:織笠 なゆき
地図を見る「牛玉寳印(ごおうほういん)」とは、寺社が発行する護符の一種。「達谷窟」では、「達谷窟毘沙門堂」の中で授かることができます。元は信者の方に向けてのみ用意されていたものだったのですが、「福は広くお分けしよう」という声を受け、一般への頒布が始まりました。評判が高まるにつれ年々用意される枚数が増えていき、現在では4,000〜5,000枚用意しても、9月頃にはなくなってしまうこともあるそうです。
写真:織笠 なゆき
地図を見る「達谷窟毘沙門堂」の「牛玉寳印」は、元日から1月8日まで行われる「修正會」において、21カ座の加持祈祷を経てできあがります。とがったほうを上にして神棚や玄関などに貼れば、「悪鬼邪神を払い福を招く」などのご利益が得られると伝えられています。(1部1,000円)
「達谷窟」では毎年12月2日に「毘沙門様御年越祭」を執り行い(神事非公開)、日本一早いお正月を迎えます。それに先立ち11月23日から結界行事を執り行うため、11月23日以降はその年の「牛玉寳印」が残っていたとしても、授かることはできません。新たに頒布が始まるのは、「修正會」が終わる1月8日の午後2時ごろから。「牛玉寳印」を授かりたい方は参拝の日取りにご注意ください。
「達谷窟毘沙門堂」は、坂上田村麿公がその名を馳せ、のちの時代に“征夷大将軍”という称号が“武士の棟梁”と同じ意味になるほどの華々しい活躍を遂げた場所。歴史的にも、パワースポットという面からも、近年ますます注目をあびています。そんな場所の伝統神事で作られた護符と聞けば、“最強の御札”と称されるのも納得がいくというもの。
「達谷窟」は世界遺産「平泉−仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群」への追加登録を目指し、ユネスコの暫定リストに記載されています。今のうちにゆったりと往時を偲ぶ旅はいかがでしょう。世界遺産の中尊寺や毛越寺と名勝・厳美渓との間に立地していますので、あわせて巡るのがおすすめです。
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(2024/11/3更新)
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