写真:ゐさ よりこ
地図を見る『日本書紀』『古事記』にその名を見ると言われるほど長い歴史を持つ、日本最古級の温泉、道後温泉。有名な「道後温泉本館」周辺には、温泉街と、多くの温泉宿が建ち、絶えず賑わっています。
その中で、江戸時代に創業して以来390年余の歴史を持つ、道後温泉最古級の高級老舗旅館が「ふなや」。道後温泉本館からは、歩いてわずか数分の距離にあります。道後温泉駅からは、改札を出て橋を渡り、ゆるやかな坂を登れば、数分で到着。
リニューアルしてからはラグジュアリーホテルのような趣の建物になり、庭園の裏門など一部に創業時の面影をとどめています。
写真:ゐさ よりこ
地図を見る「ふなや」は漢字で書くと「鮒屋」。江戸寛永年間の創業当時は「鮒屋旅館」と名乗っていたことが名称の由来です。
この「ふなや」には、道後温泉にゆかりのある文人も度々宿泊しています。お札の肖像画でも有名な国民的作家・夏目漱石は、親友の正岡子規とともに、たびたび道後温泉を訪れ、この「ふなや」にも宿泊していました。
20代後半の数年間、松山市内の中学校に英語教師として赴任していた時期がありました。その最初の年の秋に宿泊した温泉宿が「ふなや」。
はじめての鮒屋泊りをしぐれけり
この句は、漱石が初めて「ふなや」に泊まったときに詠んだ句です。
旅館の入口脇にある石碑に刻まれている俳句が、この句です。正面入口の右手側にあります。探してみてください。また、漱石の親友である子規も同じく「ふなや」を句に詠んでいます。
亭ところどころ渓(たに)に橋ある紅葉哉
道後温泉とともに、文人墨客に愛された宿は、今も高級老舗旅館として知られ、多くの人に愛用されています。
写真:ゐさ よりこ
地図を見る正岡子規が詠んだ句に出てくる「亭」「渓(たに)」「橋」「紅葉」は、すべて「ふなや」にあるもののこと。「ふなや」の庭である、広大な日本庭園「詠風庭」の眺めに感嘆した句なのです。
老舗「ふなや」の自慢の庭「詠風庭」は、約1,500坪もの広大な純和風庭園。四季折々の光景が見られ、夏にはホタルが舞う純日本庭園は、宿泊した人はいつでも、宿泊者以外でも、裏門(かつては正門)から開門時間内で自由に入って、約200種もの草木が生育する庭園を観てまわれます。
園内のところどころに見る石碑は、「ふなや」を訪れたことのある文人の句碑。知っている俳句を探しながら庭園を巡るのも、面白いかもしれませんね。
本館と新館をつなぐ渡り廊下には、創業時の「ふなや」の様子を描いた絵や写真、訪れた文豪の肖像や写真、作品などが展示されています。20代の夏目漱石は、意外に(?)イケメン!
写真:ゐさ よりこ
地図を見る明治時代の文豪ばかりではありません。歴代の天皇・皇后両陛下をはじめとする皇族方も、この「ふなや」をいわば定宿にしていました。
ロビーには、昭和天皇がご宿泊なさった洋間の専用室を移設し、ステンドグラスなど調度品もそのままに、当時の姿を再現して展示しています。中に入ると、豪華な内装を設えた壁に、「ふなや」をご訪問なさった皇族方の写真がいっぱい。明治の文豪にも、歴代の天皇陛下にも愛された老舗旅館なのです。
写真:ゐさ よりこ
地図を見る老舗の高級旅館ですが、もちろん、天皇・皇后両陛下と文豪だけではなく、一般の人も気軽に宿泊できます。お部屋のタイプは大きく分けて4種類。最上級の「ロイヤルスイート」は、京都の職人が手掛けた約150平方メートルもの豪華なスイートルーム。道後温泉のお湯を引いた専用のお風呂が付いています。日本最古の温泉をひとりじめ!?
スタンダードなお部屋の和室でも、サンルームがあって広々としていて、くつろぎ感満載です。サンルームから眺める自慢の庭園「詠風庭」の美しいこと!
写真:ゐさ よりこ
地図を見る部屋付の専用風呂以外にも、道後温泉のお湯を引くかけ流し大浴場があります。大浴場は、サウナと露天風呂のある「檜湯」と「御影湯」の2種類。男女入れ替え制で、朝湯も入れます。もちろん、歩いて5分もかからないほど近くにある道後温泉本館に行くことも出来ます。館内で借りられるカラフルなレンタル浴衣で温泉街をお散歩するのも楽しそう。
お食事は朝・夕食とも、松山市ならではの食材をふんだんに使った和食または洋食のフルコース。和食の板前とフレンチの腕利きシェフが、食材そのものの美味しさを存分に活かしたコース料理に仕立てます。
夕食後はさらに「お夜食」が。お部屋まで運んできていただけるお夜食は、鯛めしのおこげで握ったおむすびと、道後名物「一六タルト」!明治の文豪も、道後温泉の老舗らしいこの心遣いに心惹かれたのかもしれません。
道後温泉駅にも道後温泉本館にも徒歩数分、温泉街もすぐ近くという絶好のロケーションで、300年以上の長きにわたって道後温泉とともに文豪たちを招き入れ、天皇・皇后両陛下のご用達旅館として、極上の「おもてなし」をし続けている老舗旅館「ふなや」。高級旅館に分類されますが、和室なら意外なほど抑えた料金で泊まれることもあります。
温泉の湯煙に加えて、「坊ちゃん」が醸し出す文学の香りと、皇族方が残す高貴な雰囲気に包まれる宿が、道後温泉の旅の思い出をいっそうあたたかいものにしてくれること間違いなしですよ。
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この記事を書いたナビゲーター
ゐさ よりこ
日本と世界を巡る舞台芸術ライター。「旅と舞台」が自らのテーマです。大学は古典芸能専攻。学生時代から洋楽を演奏する傍ら日本の伝統芸能を習っており、たまーに発表会にも出ています。長年、国内外の劇場で、歌舞…
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