幻の画家の心に染み入る絵と言葉!没後40年『不染鉄展』奈良県立美術館

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幻の画家の心に染み入る絵と言葉!没後40年『不染鉄展』奈良県立美術館

幻の画家の心に染み入る絵と言葉!没後40年『不染鉄展』奈良県立美術館

更新日:2017/10/23 10:21

いずみ ゆかのプロフィール写真 いずみ ゆか ライター

”幻の画家”「不染鉄」をご存じでしょうか?大正から昭和にかけて活動し、帝展で9回も入賞するなど将来を嘱望された日本画家です。戦後に画壇を離れ、後半生を奈良で活動し、薬師寺東塔など奈良の風景作品も数多く残しました。しかし、その生涯や画業には謎が多いのです。回顧展は過去に2回のみ。本展は、新たに発見された作品を含む180点と今までにない規模です。ゆかりの深い奈良で、その魅力に触れてみませんか?

初公開作品も!幻の画家「不染鉄」の魅力があふれる特別展

初公開作品も!幻の画家「不染鉄」の魅力があふれる特別展

写真:いずみ ゆか

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幻の画家と呼ばれた不染鉄(ふせんてつ)。奈良県立美術館では、没後40年を記念して、実に21年ぶりとなる『没後40年 幻の画家 不染鉄展』が平成29年11月5日(日)まで開催中。平成29年夏に東京ステーションギャラリーでも開催され話題になりました。その時よりも、約50点以上展示作品を増やし、更に長らく所在不明だったものの、つい最近、奈良県内の個人宅で発見された、不染鉄の帝展入選作『仙人掌(せんにんしょう)』が初公開されたことで注目を集めている展覧会です。

帝展に9回入選している不染鉄ですが、発見されている帝展入選作品は3点のみ。この『仙人掌』は、貴重な3点目の発見だったのです。

『仙人掌』(個人蔵)
仙人掌とはサボテン科の多肉植物の総称

初公開作品も!幻の画家「不染鉄」の魅力があふれる特別展

写真:いずみ ゆか

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展示はその謎に満ちた生涯と画業を追いながら、5つのテーマで分けられ、不染鉄の幻想的な作品を余すことなく味わえる充実の内容。時に、作品内には不染鉄の心の内を呟いたかのような言葉が書き込まれ、その人柄と共に独特の世界観に引き込まれます。

<展示室>
1「郷愁の家」朦朧体の描法を取り入れた初期の頃の民家や村落風景
2「憧憬の山水」山水画などの中国絵画を学び、水墨画の風景作品を描いた戦中期
3「聖なる塔・富士」水墨や彩色で薬師寺東塔や富士山を描いた戦前・戦後期
4「孤高の海」長年連れ添った妻を亡くし、孤独な心境で「海」を画いた一連作品
5「回想の風景」84歳でこの世を去るまで描いた「過去の思い出」が主題の作品

※写真の展示室は1「郷愁の家」

不染鉄の生涯と奈良

不染鉄の生涯と奈良

写真:いずみ ゆか

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明治24(1891)年、東京小石川の光円寺というお寺で生まれた不染鉄。僧侶にはならず、町絵師に入門後、中学卒業後に日本美術院研究会員となり絵画を学びました。その後、ふらっと写生旅行に訪れた伊豆大島を気に入り、新婚の妻と一緒に漁師のような生活をして暮らすという3年間を経て、京都市立絵画専門学校日本画科に入学。帝国美術院展覧会(帝展)に9回も入選を果たし、その実力を十二分に発揮します。

不染鉄の生涯と奈良

写真:いずみ ゆか

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しかし、40代を過ぎた頃、画壇を離れ、奈良の西ノ京に移住。奈良の正強中学校の理事長、のちに正強高等学校(現・奈良大学付属高等学校)校長に就任し、その後も独自の制作活動を続けました。奈良の地には、亡くなるまで住み続け、多くのゆかりの作品を残しています。

戦後、奈良に拠点を移してから、特に盛んに描いたのが薬師寺東塔をはじめとする奈良の寺院建築。終生のテーマとして描き続けた富士山もこの頃に多く描いています。「「悪夢のような戦争が終わって本当に良かった」と書き残した不染鉄の平和への祈りが込められたような静謐な作品が多いのがこの頃の特徴です」と担当学芸員の松川さん。

不染鉄の生涯と奈良

写真:いずみ ゆか

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また奈良の地で、不染鉄は、美人画の大家・上村松園の息子で同じく日本画家の上村松篁と交友を深めました。松篁はその著書で不染鉄のことを「親友」と記したほど。
写真の作品は、上村松篁との共作『寒林白鷺』(個人蔵)。白鷺を松篁が描いています。

不染鉄の作品の特徴

不染鉄の作品の特徴

写真:いずみ ゆか

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不染鉄作品の特徴は、上空から眺めたような視点(俯瞰構図)で描かれているものの、細部を見ると人々の生活や海の魚などが細密描写で描かれ、ミクロな視点が混在している不思議なバランスがあるところ。第6回帝展に入賞した代表作『山海図会(伊豆の追憶)』からも良く分かります。写生をもとに不染鉄の想像で描かれた独創的な作風。

『山海図会(伊豆の追憶)』(木下美術館蔵)

不染鉄の作品の特徴

写真:いずみ ゆか

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もう一つの特徴としては、作品の中に「心の内を呟いたかのような言葉」が書き込まれる点。写真の『旅人と灯』(個人蔵)には、

「旅人と灯。日が沈み山々も林も畑も何も見えなくなる 家々に灯が明るく、囲炉裏に近いとおぼしい障子は殊に明るい。おふろにはいり、これから皆で楽しい夕食でせう。旅人は明るいうちに見えた山も木も畑ももう何も見えない。
人情がとても欲しくなる。かなしい事がないのに泣きそうになる。自分の家が遠いからでせう。少年の頃、始めて父母から離れてよそへとまる夕方に似ている。草も木も笑ひ声も今は全部他人のものである。
母に逢ひたい。好きな人に逢ひたい。友達でもいゝ 今すぐ逢ひたい」

と、人恋しくてたまらない孤独な心情が記されています。

不染鉄の作品の特徴

写真:いずみ ゆか

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不染鉄の人生は、奈良・大磯・横浜・東京と転居や放浪を繰り返し、両親を早くに亡くしたことが特徴としてあります。また、戦争を経験し、子供ができないまま妻に先立たれたことによる郷愁や孤独の心情がそのまま作品や作品内の言葉に表われているのが印象的です。

孤独の海

孤独の海

写真:いずみ ゆか

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昭和33年に長年連れ添った妻を亡くした不染鉄は、天涯孤独の身となり、新婚時代に過ごした思い出の伊豆大島の海を描くようになりました。「写実的では無く、自分の記憶を頼りに想像力をめぐらせて、自由に描いた心象風景のような特徴がこの頃の作品には顕著に表れています」と松川さん。

晩年の奈良で「この世のものとは思えないほど美しい絵を描きたい」

晩年の奈良で「この世のものとは思えないほど美しい絵を描きたい」

写真:いずみ ゆか

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晩年、奈良市登大路に小さなあばら屋を建てて暮らした不染鉄は、地元の展覧会に出展したり、伝統工芸作家とコラボレーションして土産物制作に携わったりしていました。この頃「この世のものとは思えないほど美しい絵を描きたい」と言って繰り返し描いたのが生まれたお寺・光円寺にある樹齢千年の銀杏の木とお地蔵様。言葉のとおり、この世とは思えない光に満ちた極楽浄土のような風景です。

『いちょう』(個人蔵)

晩年の奈良で「この世のものとは思えないほど美しい絵を描きたい」

写真:いずみ ゆか

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「最晩年は身よりのない自分の魂はどこへ行くのだろう?と感じていたのでは」と松川さん。下記は、『春風秋雨』(個人蔵)に記された言葉の最後の一文です。

「涙が出そうになってくる 悲しいのではない。なつかしさの身にしみる うれしい涙である。皆様のお墓まいりもちっともしないが、今思い出でむねが一パイになって この画をかいているよ 皆様は佛様だからそちらからよく見えてるだろう。たましいが通ふんだね。有名になれず こんな画をかくようになっちやった だけどいゝよねえ」

達観したかのような静かな静かな心のうちの呟き。是非、本展で絵と一緒にこの言葉の全文を読んで下さい。きっと、あなたの心に染み入るものがあるはずです。

晩年の奈良で「この世のものとは思えないほど美しい絵を描きたい」

写真:いずみ ゆか

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本展の最後に展示されている作品『落葉浄土』(奈良県立美術館蔵)。描かれているのは、母屋で語らう父子、生まれ故郷の銀杏の木、阿弥陀様や土塀に並ぶ六地蔵。僧侶の資格も持っていた不染鉄が自らの人生を回想するように描いた極楽浄土のイメージです。
不染鉄の魂は、果たして彼の極楽浄土に行くことができたのでしょうか?

ご紹介の通り、本展の展示作品は「個人蔵」が多いのが特徴です。今後、なかなか観ることができない可能性も高いので、これを機に是非、ゆかりの深い奈良でご覧ください。

『没後40年 幻の画家 不染鉄展』基本情報と関連行事案内

『没後40年 幻の画家 不染鉄展』
会期:平成29年9月9日(土)〜11月5日(日)
時間:午前9時から午後5時まで(入館は午後4時30分ま
料金:一般 800円、高・大学生600円、中・小生400円

【同時開催】安堵町 黒滝村 岐阜県高山市 市町村交流 連携展示(一階ギャラリー)
「世界に魅せる匠の技と心 奈良と飛騨高山の極人」※当館ギャラリーのみ観覧無料

<奈良県立美術館 基本情報>
住所:奈良県奈良市登大路町10-6
電話: 0742-23-3968
アクセス:近鉄奈良駅から徒歩約5分

<関連行事>
●学芸員によるギャラリー・トーク
10月21日(土)、11月4日(土)14時〜15時頃(要観覧券)
●ミュージアムコンサート
10月21日(土)、22日(日)、28日(土)、11月3日(金曜日・祝)、4日(土)、5日(日)
●鼎談「不染鉄を語る」
11月2日(木)14時〜15時30分(レクチャールームにて)
講師:星野桂三氏(星野画廊オーナー)、尾ア二郎氏(整形外科医)
定員80人(要観覧券 13時30分受付開始・先着順)
●実演
「吉野杉を使ったチェーンソーアート」(主催:黒滝村)
「絵付け教室「富本憲吉氏窯跡 安久波窯」(主催:安堵町)
10月29日(日)
●ワークショップ「絵葉書を描こう!」(1階無料休憩室にて随時)  
  
        

掲載内容は執筆時点のものです。 2017/09/09 訪問

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