写真:松縄 正彦
地図を見る埼玉県入間地方は「色は静岡、香りは宇治よ、味は狭山でとどめさす」とも謳われている狭山茶の産地で、狭山丘陵には茶畑が広がっています。この地はお茶の生産地としては北限にあたり、写真のように茶畑に防霜用のファンが林立しています。
埼玉県を含む武蔵の地でお茶が作られた歴史は古く、南北朝時代や室町時代から、ここは東国の有名な茶産地(河越茶や慈光茶)とされていました。
写真:松縄 正彦
地図を見る入間市にある入間市博物館ALITは日本で珍しい「お茶の博物館」です。日本や世界、また狭山茶の歴史やお茶の楽しみ方など、お茶に関する事ほとんどをここで知る事ができます。また、ショップやレストランが併設されており、お茶関連の展示や商品など、一日中お茶三昧で楽しむ事ができるのです。
写真:松縄 正彦
地図を見る博物館の敷地には茶樹も植えられています。日本の茶樹の7割強は「やぶきた」ですが、この地では耐寒性に優れた品種改良がなされ、「さやまかおり」などの品種が導入されています。
寒いために、狭山茶は年間1〜2回しか葉を摘採できない(従って生産量が少ない)というハンディがありますが、逆に葉肉の厚い茶葉が収穫でき、強い蒸しと火入れ加工によって甘く濃厚な味に仕上がるという特徴があるのです。さてそれでは次に主な展示内容をご紹介しましょう。
写真:松縄 正彦
地図を見る普段、急須になにげなく湯を入れて緑茶を飲んでいると思います。しかし展示パネルを読み進んでゆくと、実はお茶の入れ方、味わい方にも歴史があった事が分かります。
日本にお茶が伝わったのは遅くとも8世紀といわれます。伝来当初は固形の団茶を砕いて粉末にし、釜に入れて煮出すやり方「煎茶法」で飲んでいました。室町時代になると茶の粉に湯を点じて立てる「点茶法」へと変わります。但し、使用される茶の粉(抹茶、てん茶)の生産は宇治の限られた茶師の特権で一般には許可されていませんでした。抹茶は富裕層が使用するお茶で、庶民は乾燥させた茶葉を煮出した「煎じ茶」という「赤黒い」色のお茶を飲んでいたのです。
一方、中国から来日した僧、「隠元」により、急須などに葉茶を入れ、湯を注いで成分を出す「淹茶(えんちゃ)法」という飲み方が17世紀に伝えられます。この方法は、茶葉を鉄の釜で炒り筵の上などで揉んで作る釜炒り茶といわれる茶葉です。
この釜炒り茶は現在でも中国茶の製法の主流ですが、1738年に現代の製茶法の基本となる「蒸し製煎茶」が考案されました。発明者は「永谷宗円」という方です。宗円はこの製法を独占せずに公開したことでこの製法は全国の茶産地に広がってゆきました。ちなみに、宗円の子孫が創業したのが「永谷園」で、このお茶の販売をしたのが「山本山」です。
現在まで続く有名企業が関係していた事に吃驚しますが、赤黒い茶葉ではなく、現在のように「緑」の茶葉を庶民が飲む事ができるようになったのは江戸時代だったのです。
写真:松縄 正彦
地図を見る展示コースの途中に写真のような小屋が再現されています。何だと思いますか?実は茶屋です。
平安時代までは、お茶は主に宮廷で、あるいは僧が飲んでいました。室町時代になって漸く庶民にも喫茶の習慣が広がり、16世紀(桃山時代)には寺の門前で茶をふるまう写真のような茶屋ができたのです。
丸太の柱に板葺きの簡単な作りの小屋ですが、竈で湯を沸かし、「茶筅で点てた茶」を売り、客はあぶり餅を食べながら茶を飲んでいたとの事。
茶屋は普段の赤黒い煎じ茶ではなく、ちょっと高級な点茶を楽しむ事ができる特別な場所で、現在でいえば、さしずめ高級Cafeに相当する施設だった事が分かります。
写真:松縄 正彦
地図を見るところで、館内では日本の茶器の他にティーカップもたくさん展示されています。英国のティー(紅茶)文化は有名ですが、緑茶とどう関係するのでしょう?実は、英国のティー文化発達のきっかけは日本の緑茶だったのです。
オランダ人が最初に日本の緑茶をヨーロッパに運んだのですが、お茶文化が定着したのはイギリスでした。英国では17世紀から上流階級にティー・テーブルを中心とする東洋趣味が普及し、当初は緑茶が使われたのです。これが18世紀中頃に紅茶に変わり、現在のティー文化へと繋がるのです。また緑茶・紅茶を問わず、茶にミルクと砂糖を入れて飲む独自の方法も英国で開発されました。団茶にミルクを入れて飲む方式は蒙古では普通ですが、「茶にミルクと砂糖を入れるのが英国式」で、これに欠かせないのがこれらティーカップなのです。
見ていると面白いティーカップがあります。「ひげカップ」です。垂れ下がったひげがカップに入るのを防ぐために口の部分にひげを受ける部分が付けられた特殊なカップです。捜してみて下さい。
写真:松縄 正彦
地図を見る他にも見どころはたくさんありますが、次に博物館に併設されている「宇茶戯(ウサギ)」というしゃれた名前のショップをご紹介しましょう。写真のように店舗も少しオシャレで、茶器や狭山茶などお茶に関する商品がここで販売されています。また隣接して休憩場があり、ここでは土日祝日に狭山茶が振る舞われています。お茶の入れ方にもこだわり、旨みが引き出されている美味しいお茶です。来館するなら休日が狙い目です。
写真:松縄 正彦
地図を見るまた、博物館に隣接してレストラン「お茶っこサロン一煎」が併設されています。ここのお勧めが、お茶を取り入れて作られた食事メニュー「彩り9鉢」(写真)と「彩り6鉢」です。なんと、ほとんどすべての料理にお茶が使われ、小鉢には「お茶の佃煮」も入っています。
さらにJAF会員であれば食後に“狭山茶で作られた紅茶”が1杯サービスされる、うれしいオマケまであります。またレストランでは、前記のお茶の佃煮や紅茶、また地元農家で作られた野菜(格安)なども販売され、こちらも目移りする事まちがいありません。
※「お茶っこサロン一煎」は閉店、2022年に「茶処 一煎」がオープンしました。
写真:松縄 正彦
地図を見るお腹が一杯になったら散策をしてみましょう。博物館の前には広場がありますが、レストランの横から道を下ってゆきますと茶室「青丘庵」があり、茶室前面に池が広がっています。ここでは季節にあわせて茶会が催されています。また池の先にある南門から東門の間は「茶花の小径」という当博物館自慢の散歩道になっています。さらに博物館の建物2階にはバルコニーがあり、晴れていればここから富士山や、奥多摩、丹沢などの山々を楽しむ事も可能です。食後のひとときをこれらで楽しんで下さい。
住所:埼玉県入間市大字二本木100番地
電話:04−2934−7711
アクセス:車でお越しの場合、圏央道入間ICから約5分、電車の場合は西武池袋線入間市駅から西武バスで20分です。
2018年1月時点の情報です。博物館では他にも入間の自然や歴史などの展示もあります。最新情報はホームページでご確認下さい。
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(2024/3/29更新)
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