修験道の開祖、役行者が金峯山の山上ヶ岳で蔵王権現を感得しその姿を桜の木に刻み込んで以来、この地では桜の木は神木として守られてきました。昔は「一枝を伐るものは一指を切る」という掟があったとか。そんなことも古来から今に至るまで吉野山が桜の名所である所以なのかも知れません。
また歴史に翻弄されその波に淘汰された人々の悲哀がこの地に残されています。
そんな吉野山は桜の時期には観光ツアーが多数組まれ、大勢の観光客が訪れます。土日は吉野山周辺では大渋滞が発生するため、可能であれば平日、できれば電車で訪れることをおすすめします。
もし車で来られる場合は桜の期間中、山内への車の乗り入れは禁止になるので車は麓や郊外の駐車場に停めるようになります。観光協会のHPなどで確認してから行くと良いでしょう。
アクセス
電車 近鉄吉野線:吉野駅下車
ロープウェイ:千本口駅〜吉野山駅下車
車 大阪方面から:西名阪自動車道 郡山IC〜R24号〜R169号
名古屋方面から:名阪国道 針IC〜R369号〜R370号
また桜は山全体にあり、神社仏閣も多く基本は徒歩移動です。たくさん歩くことになりますので、必ず履きなれた歩きやすい靴で行くようにしましょう。
見頃:4月上旬〜下旬(下千本・中千本・上千本・奥千本ごとに見頃は異なります。)
下千本エリアには明治時代に後醍醐天皇を御祭神に建てられた吉野神宮がありますが、どちらかというと桜を見て愉しむエリアになります。夜間にはライトアップがされ、また中千本にある如意輪寺付近から下りてくる「ささやきの小径」道沿いには大きな枝垂桜が何本もあります。
ロープウェイの吉野山口を降りて黒門(金峯山寺の総門)をくぐり、吉野山観光のメイン通りともいうべき道を歩くと、下千本から上千本にかけてたくさんのお土産屋さんや食事処、寺院が立ち並びます。せっかくなので甘いものが好きな方は休憩がてら吉野名物の吉野葛で作った「くずきり」を食べてみてはいかがでしょうか。
麓の吉野観光駐車場から黒門へと向かう間には「一目千本(下千本)」と呼ばれる、絶景ポイントがあります。ロープウェイを使用した場合は少し下る形になりますが、吉野山の桜を見に来たのならぜひ見ておきたい景色です。
また黒門を過ぎた辺りに銅(かね)の鳥居があります。この門はここで修行の道に入ることを決心することから発心門とも呼ばれています。
金峯山寺の本堂である蔵王堂はその名の通り3体の蔵王権現が本尊として祀られています。現在の蔵王堂は安土桃山時代の建物で高さは34m、重層入母屋造り・桧皮葺で東大寺大仏殿につぐ大きさの木造建築物となっています。本尊の金剛蔵王権現はそれぞれ釈迦如来・千手観世音菩薩・弥勒菩薩の化身で過去・現在・未来を表しているそうです。その中でも7.3mもある釈迦如来は見る者を圧倒します。
修理のための勧進として、秘仏の本尊・金剛蔵王権現が特別開帳する時がありますので、その時はぜひ拝観を。
金峯山寺蔵王堂 7時〜16:30(受付16:00まで)
拝観料500円(特別開帳の期間は1000円)
(平成26年の特別開帳は3月29日〜6月8日、11月1日〜11月30日)
吉水神社は明治時代の初め頃まで修験の僧坊で吉水院と呼ばれていました。
鎌倉時代に源義経が源頼朝に追われ、静御前や弁慶達と少しの間この吉水院に潜伏していました。その後静御前をこの地に残し義経は奥州へと落ち延びることになります。
室町時代には、足利尊氏と争った結果京都を逃れることになった後醍醐天皇がここを御所と定めました(南朝の始まり)。後醍醐天皇の「玉座」と伝わる部屋や、遺品などがあり当時に思いを偲ばせることができます。
更に文禄3年(1594年、安土桃山時代)、豊臣秀吉が吉野山で盛大な花見を催した際、この吉水院に本陣を置いています。
このように吉水神社(吉水院)は歴史の折々にその足跡を垣間見ることができます。
そしてこの吉水神社から見る景色は「一目千本」と言われ、中千本・上千本の桜を同時に見ることができる、絶対に見ておきたい絶景です。
吉水神社 9時〜17時
境内立入り無料、本殿拝観 400円
中千本の辺りは見どころがとても多いですが、その中でももう一つお勧めしておきたい場所が如意輪寺です。
後醍醐天皇の勅願所であった如意輪寺の裏山に京都に戻ることが叶わずにこの地で病を得て崩御された後醍醐天皇の陵があります。
また運慶の高弟であった源慶が彫った桜の一木造の金剛蔵王権現像は思わず足を止めて見入ってしまう程の素晴らしさです。
如意輪寺 桜の時期:7時〜17時、その他の時期:9時〜16時
拝観料 400円
聖徳太子の創建と伝わるこの竹林院は見事な庭園があり、宿坊もあるので宿泊することができます。庭園は「群芳園」といい豊臣秀吉の花見の際に千利休が作庭し、大和三名園のひとつとされています。池と桜が絶妙に配置された庭園は、庭園に詳しくなくてもその美しさに魅了されます。また蔵王堂を見ることができるその眺望も借景と言われています。
竹林院群芳園 8時〜17時
拝観料 300円
世界遺産である吉野水分神社は水を司る天之水分大神(アメノミクマリオオカミ)が主なご祭神で「みくまり」が訛って「御子守(みこもり)」となり子宝や子守の神様として信仰されています。豊臣秀吉がここで祈願をして秀頼を授かったという話も…。
現在の建物は慶長9年(1604年、江戸時代)豊臣秀頼により再建され本殿・拝殿・幣殿・楼門・回廊からなる桃山時代の優美な建物で、その本殿は三殿が一棟に連なる珍しい形です。
桜の時期には境内の桜がその素朴な美しさにまさしく花を添えています。
吉野水分神社 境内自由
奥千本へは竹林院を少し上ったところに「奥千本行」のバス停がありますので、歩くとかなりの距離があるのでバスで行くと良いでしょう。帰りはハイキングがてら下りてくると高城山展望休憩所を通り、上千本の吉野水分神社へと出ることができます。
世界遺産で吉野山の総地主神である金山彦命(カナヤマヒコノミコト)が祀られている金峯神社、源義経がその身を隠したという義経かくれ塔、西行が3年ほど住んだ西行庵があります。奥千本は観光地として開けている上千本までと違い、「山歩き」のような感じがします。もしかしたら昔は吉野山全体がこのような雰囲気だったのかもしれません。
桜の開花は他よりも遅く、筆者が訪れた時は下千本・散り始め、中千本・満開、上千本・七分咲きであったのに奥千本はまだそのつぼみも固いように見えました。
西行法師が吉野山の桜を愛し
「願わくば 花の下にて 春死なむ その如月の 望月の頃」
(できれば春のそれも如月(旧暦の2月)の満月の頃に桜の下で死にたいものだ)
と詠んだ歌は一度くらい聞いたことがあるのではないでしょうか。
金峯神社 7時〜16時30分
拝観料 無料(義経かくれ塔:200円)
ご紹介してきましたように、吉野山は見どころが多く山全体がハイキングコースのようになっていますので、じっくりと見ようと思ったら最低でも丸1日、できれば1泊したいものです。
もちろん秋は紅葉、冬は雪景色と一年中違った趣がありますが、やはり一度は桜の満開の季節に訪れておきたい場所です。
そして一度訪れたらまた行きたくなります。
そんな吉野山の他にはない美しさの理由は、桜の花の美しさは言うまでもなく、桜の儚さと歴史に刻まれた悲哀が重なり、更には観光地であるのにその荘厳さを失わない、修験の御山独特の心が落ち着く雰囲気にあるのではないでしょうか。
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