写真:けいたろう
地図を見る260年の長きに渡って平和が維持され戦乱に翻弄されることのなかった江戸時代。日本各地でさまざまな町人文化が花開きました。笑いの町であった大阪では、絵画の世界から鳥羽絵と呼ばれる様式の戯画が流行しました。
鳥羽絵という戯画のジャンル名は、京都の高山寺の鳥羽僧正(とばそうじょう)の名前に由来。ウサギやカエルなどが擬人化され、相撲を取っているのが有名であらゆる戯画の大本となった、鳥獣人物戯画の作者であるとされている人物です。
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地図を見る京都の鳥羽僧正の鳥獣人物戯画の影響を受け、大阪を中心に制作された鳥羽絵も多数集まる今回の江戸の戯画展。もっともインパクトのあるのが、大阪を代表する鳥羽絵師の耳鳥斎(にちょうさい)の作品群。
登場する人物は低い鼻に小さな目、大きな口、極端に細長い手足が特徴の鳥羽絵。耳鳥斎が描く人物は、まさに鳥羽絵そのものといったデフォルメのきいたキャラクター。
現代でも十分に通用するほどのゆるキャラっぷりです。上の写真は当時、庶民の間に流行していた忠臣蔵を戯画化。シリアスな演技をしているはずの役者たちも、耳鳥斎の手にかかればユーモラスそのもの。「カワイイ」と言わずにはいられません。
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地図を見るまた耳鳥斎の代表作といえる地獄図巻シリーズは必見。役者や料理人、仲居など、さまざまな職業の人が地獄に落とされ、職業にちなんだ責め苦を鬼から受けている場面が描かれています。
文字で説明すると、おどろおどろしい絵のように思えますが、登場キャラのユルさに思わず「こんな地獄なら遊びに行きたい!」と思ってしまうほど。
美術的な価値は1度忘れてゲラゲラ笑って鑑賞しましょう。下手な演技のまま死んだ大根役者が、鬼に大根を食べさせられる様子を見れば、誰だって面白いと思うはず。
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地図を見るさきほど紹介した耳鳥斎は大阪の鳥羽絵師でしたが、江戸の戯画展では有名な浮世絵師の葛飾北斎が描いた大量の戯画も展示。
森羅万象を描き、力強い題材を好んで描いた印象のある葛飾北斎。富士山のさまざまな顔を描いた富嶽三十六景などが有名ですが、もっと庶民的で日常生活のなかにあるユーモアを描いた戯画も多く手掛けています。
北斎の確かな画力によって描かれた戯画に登場する人物は、躍動感と軽妙さにあふれ富嶽三十六景と同じ作者の手による物とは思えないほど。
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地図を見るまた葛飾北斎といえば絵手本である北斎漫画も有名。なかでも12巻はほぼ全編を通して戯画が描かれ、今回の江戸の戯画展では12巻が重点的に展示されています。
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地図を見る葛飾北斎が手掛けた戯画の中には、謎かけを絵画化したシリーズも存在。上の写真は「謎かけ戯画集 鰻」という作品。叶わぬ恋と身を焼かれる鰻とを掛けた内容となっています。
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地図を見る江戸時代の戯画を語る上で欠かせない画家が歌川国芳。流派は違えど、葛飾北斎からも影響を受けた国芳。武者絵や妖怪絵など力強い絵を得意とする一方で、多くの戯画も残しています。
国芳の戯画の特徴といえば動物の擬人化。さまざまな動物が擬人化されユーモラスに描かれています。江戸の戯画展で、もっとも注目となる作品が江戸時代のペットの代表だった金魚が、国芳によって擬人化され歌い踊る作品群「金魚づくし」。
現在9点の存在が確認されている「金魚づくし」。『江戸の戯画展』では、そのすべてを一挙公開。これは世界初の快挙であり、特に人気の展示となっています。
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地図を見る動物の擬人化で有名な国芳が特に愛した動物が猫。猫を題材とした戯画が多く展示されています。
東海道五十三次の宿場名にちなんだ地口(語呂合わせ)を猫に表現させた「其のまま地口猫飼好五十三疋(みょうかいこうごじゅうさんびき)」や、猫に関連することわざを猫使ってで表現した「たとえ尽の内(たとえづくしのうち)」。複数の猫が集まって文字になっている「猫の当て字」などが展示されています。
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地図を見るまた国芳は反骨精神の持ち主であり、幕府が当時禁止していた役者の似顔絵を土蔵の壁に落書き風に描いた「荷宝蔵壁のむだ書」という作品も残しています。
ここでも国芳は猫好きを発揮。写真中央、手ぬぐいを被って踊る猫は見逃し厳禁!しっぽが二股になっていて歌舞伎に登場する化け猫が描かれていると言われています。
そのあまりのユルさは、注意深く観察して見つけた人がその場からうごけなくなるほど。役者の絵に目が行きますが、ぜひお見逃しなく!
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地図を見る『江戸の戯画展』では滑稽名所と題して、幕末に出版された各地の名所を舞台にした戯画を展示。
大阪、江戸、京都の三都それぞれの風景が戯画で描かれていますが、特にインパクト絶大なのが今回の展示が行われる大阪の町々。大阪のドタバタが「滑稽浪速名所」に強烈に描かれています。
上の写真はざこばの魚市。魚市場で働く男が大蛸に逆襲にあって、ギュウギュウと体を絞められ、墨を吐きかけられています。
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地図を見る難波橋を描いた戯画では、花火の火の粉から大慌てで逃げる男たちが描かれています。浴衣や褌を翻して火の粉から逃げる、慌てっぷりに下駄の歯まで取れてしまっています。
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地図を見る大阪以外には江戸の様子が描かれた「江戸名所道戯尽」、京都が描かれた「滑稽都名所」を展示。江戸は圧倒的なディティールで描かれた繊細な背景に滑稽な男たちの姿が描かれ、粋な雰囲気。
京都では、鞍馬の山を天狗が飛んでいく姿や、清水の舞台から娘が飛び降りているシーンなどが描かれ、美しささえあり何だか上品。大阪という土地が、すでに笑いの都市として認識されていたことが確認できます。
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地図を見る『江戸の戯画展』で最後の紹介となるのが幕末から明治にかけて活躍した河鍋暁斎(かわなべぎょうさい)。長い江戸時代を経た、明治期に活躍した絵師だけあって画力は圧倒的。しかし描かれている戯画は、あくまで滑稽というギャップ。
上の写真は「不動明王開化」という作品。明治に入り、不動のはずの明王にも文明開化に感化された様子が描かれています。一見非常に迫力のある内容ですが、中央の不動明王は粋な浴衣を着て、世の中を勉強するために新聞雑誌を読んでいます。
お供の制吒迦童子は牛肉を調理して牛鍋をつくり、矜羯羅童子は不動明王が背負った炎で、熱燗を温めています。
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地図を見る明治期に活躍した暁斎。日本に初めてイソップ童話を紹介した「通俗伊蘇普物語」では挿絵を担当。小学校の当時の教科書にも、暁斎の戯画が採用されました。江戸の戯画展にも展示されている作品では、燕尾服姿にシルクハットをかぶり文明開化に順応した羊に対し、羽織袴姿で腰に刀を差し、新しい文化を受け入れられない狼が対象的に描かれています。
また暁斎は社会情勢にも敏感で、幕府による長州征伐を批判。登場する人を蛙に置き換えつつ圧倒的な迫力で描かれた、風流蛙大合戦之図などを風刺的に描きました。
庶民のリアルな暮らしや日本各地の様子。政治風刺的から地獄の様子まで、さまざまな風景が笑いの要素の上に成り立つ戯画展。笑いの街である大阪旅行にピッタリの美術展となっています。
住所:大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82 大阪市立美術館
電話番号:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
会期:2018年4月17日(火)〜6月10日(日)(前期:4月17日〜5月13日、後期:5月15日〜6月10日)
※会期中展示替えあり。
開館時間:午前9時30分〜午後5時(入場は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(4月30日は開館)
アクセス:JR・大阪市営地下鉄各線「天王寺」駅下車徒歩10分
2018年4月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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(2024/10/11更新)
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