盗難の旧国宝・香薬師像はどこへ?「右手」が奈良・新薬師寺で特別公開

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盗難の旧国宝・香薬師像はどこへ?「右手」が奈良・新薬師寺で特別公開

盗難の旧国宝・香薬師像はどこへ?「右手」が奈良・新薬師寺で特別公開

更新日:2018/11/02 14:59

いずみ ゆかのプロフィール写真 いずみ ゆか ライター

奈良・新薬師寺の香薬師像(旧国宝)は、光明皇后ゆかりの美仏として、多くの人々や文化人に篤く信仰されてきた白鳳時代の傑作。明治期に二度の盗難で両手足が切り離され、昭和18年の盗難で行方不明になりました。しかし、ノンフィクション作家の貴田正子さんと中田定観住職の尽力で、平成27年、奇跡的に「右手」が発見されニュースに。正倉院展期間(平成30年11月12日まで)にあわせ、新薬師寺で特別公開中です。

香薬師像がキーワード!“幻の大寺院”新薬師寺と前身の香山寺の魅力

香薬師像がキーワード!“幻の大寺院”新薬師寺と前身の香山寺の魅力

写真:いずみ ゆか

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新薬師寺は、特別公開以外でも、深い歴史や魅力的な仏像と奈良の旅には外せない古刹。では、「香薬師像」をキーワードに新薬師寺の魅力をご紹介しましょう。

天平十九(747)年、光明皇后が聖武天皇の病気平癒を祈願して建立した新薬師寺。創建当初は、現在とは異なり、七堂伽藍を配して、東大寺大仏殿に匹敵する大金堂とその堂内に丈六※の七躯の御本尊・薬師如来像「七仏薬師像」が並んでまつられていました。その事から、「幻の大寺院」と呼ばれています。

現在のご本堂(国宝)も創建当時の天平時代のもの。修法を行うお堂だったと伝わっています。御本尊は、平安時代作の薬師如来坐像(国宝)。光背の小仏は御本尊とあわせて七仏薬師を表わしています。そして天平時代作の国宝・十二神将立像(塑像)が御本尊を囲むように並び、その迫力に魅了されファンが多いことで有名です。

※立像の高さが1丈6尺(約4.8メートル)

香薬師像がキーワード!“幻の大寺院”新薬師寺と前身の香山寺の魅力

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新薬師寺の前身は、春日山中(高山)に光明皇后によって創建された「香山寺」。皇室の薬師信仰の寺として篤く信仰され、香山寺の御本尊は、光明皇后の念持仏だった「香薬師像」(旧国宝/国重要文化財・銅造薬師如来立像)でした。

寺伝によると、新薬師寺創建後、香薬師像は、大金堂内の「七仏薬師像」胎内仏として安置され、根本仏として信仰されました。そして創建から三十三年後、大雷の火事で「七仏薬師像」は焼失し、胎内から取り出され、金銅仏だったので焼失を免れたと言われています。

創建当初、大寺院であったことは、平成20年に旧新薬師寺境内地である奈良教育大学構内の発掘現場で巨大な建築物の跡が発見されたことから裏付けられました。調査した奈良教育大学教授の金原正明氏は、この遺構を新薬師寺の金堂跡と推定しています。

今回の香薬師像の「右手」特別公開にあわせ、新薬師寺の庫裏で「七佛薬師金堂跡出土品」の展示も開催中。

香薬師像がキーワード!“幻の大寺院”新薬師寺と前身の香山寺の魅力

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創建当初は、「香山薬師寺」「香薬寺」と呼ばれた新薬師寺ですが、寺名の“新”は新しいという意味では無く、“霊験新たかな”という意味。
前身の香山寺は、その後、新薬師寺の奥ノ院的な立ち位置になりましたが、平安初期からは当初の山岳修行の寺として独立し、本来の高山竜王信仰の地になりました。現在の新薬師寺境内に竜王社があるのは、その名残かもしれません。

新薬師寺で75年ぶり、初めての特別公開!香薬師像の「右手」とは?

新薬師寺で75年ぶり、初めての特別公開!香薬師像の「右手」とは?

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かつて、新薬師寺の創建縁起に由来する根本仏として、多くの人々に篤く信仰されてきた「香薬師像」は、「白鳳三仏」として、法隆寺の夢違観音像(国宝)、深大寺の釈迦如来倚像(重文)と並ぶ白鳳時代※の傑作として知られています。

金銅仏ですが、「黄金仏」と噂が立ち、明治期に一度目の盗難で右手が、二度目では両手足が切り離されて寺に戻り、両手足は補修・補作された過去があります。そして戦時中、三度目の盗難でとうとう行方不明に。

香薬師像に関して独自取材を続けてきた元新聞記者の貴田正子さんと新薬師寺の中田定観住職の調査により、三度目の盗難時、補作された右手が付いていたため、「本物の右手」だけは盗難を免れたと判明。しかし、その「本物の右手」も流失しており、長らく行方知れずのままでした。

※美術史の時代区分で645〜710年頃

新薬師寺で75年ぶり、初めての特別公開!香薬師像の「右手」とは?

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平成27年、すごい事実が判明。貴田さんとご主人で大峯山修験道正大先達の貴田晞照(きだきしょう)氏、中田住職の尽力により、失われた香薬師像の「右手」が鎌倉の寺で発見されたのです。美術史的にも価値ある大発見で、このニュースは、大々的に報道されました。

その後、返還された「右手」は、奈良国立博物館へ寄託。この度、75年ぶりに本来安置されていた新薬師寺に戻り、正倉院展期間(平成30年10月27日〜11月12日)だけ、ご本堂内一角のガラスケースにて特別公開されています。

聖武天皇、光明皇后が念持仏としたほど大事にした香薬師像なので、「香薬師様の右手は、正倉院御物と同じ価値あるものです」と中田住職。光明皇后創建の新薬師寺が、あえて正倉院展と同じ時期に「右手」を特別公開したことは、本当に意味がある事なのです。

「右手」は、高さ約8,6センチと小ぶりで、ふっくらとして可愛らしく、まるで子どもの手のよう。「恐れなくても良い」という意味の施無畏印(せむいいん)を結んで、私達の祈りを受け止めてくれます。

※撮影禁止

不思議なできごとが沢山起こったという「右手」発見

不思議なできごとが沢山起こったという「右手」発見

写真:いずみ ゆか

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香薬師像の「右手」が発見されるまでのミステリーの全貌は、発見者の1人である貴田正子さんによって『香薬師像の右手 失われたみほとけの行方』(講談社/2016年出版)にまとめられています。元新聞記者である貴田さんが膨大な資料から緻密に調査し、新薬師寺の全面バックアップを受け、取材を重ねて書かれた渾身のノンフィクション作品。一読されてからの来寺がお勧めです。

※写真は香薬師堂
※『香薬師像の右手 失われたみほとけの行方』貴田正子著(講談社/2016年出版)は、右手の特別公開にあわせ、新薬師寺ご本堂内でも販売されています

不思議なできごとが沢山起こったという「右手」発見

写真:いずみ ゆか

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「本にも記載がありますが、香薬師様の右手が発見されるまでに、不思議なことが沢山起こったんですよ」と話してくれた中田住職。その奇縁は今も続いているそう。

明治44年に起きた二度目の盗難後、二度と同じことが起こらない様にと、水島富三郎氏らが発起人となり、香薬師堂が建立されました。残念ながら、三度目の盗難が起きるのですが、その一年前(昭和17年)に、富三郎氏の息子で彫刻家の水島弘一氏と、奈良一刀彫の第一人者・竹林薫風氏が直接本物の香薬師像から石膏で型取り、複製品を制作していたのです。

不思議なできごとが沢山起こったという「右手」発見

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水島氏の複製香薬師像は、三躯あり、一つは新薬師寺に、もう一つは東大寺観音院の上司海雲師の元を経て奈良国立博物館に(※1)、そしてもう一つは文芸春秋社長・佐々木茂索氏の元から鎌倉の東慶寺に安置され、「右手」発見の鍵の一つになりました。そして、竹林氏作の複製品の一つは、著者の貴田さんを香薬師像取材へと導くきっかけになったのです。

(※1)平成27年の奈良国立博物館、開館120年記念特別展「白鳳―花ひらく仏教美術―」で展示された
※写真は、ご本堂内の香薬師像レプリカ(ご本堂内撮影禁止)

會津八一が歌を詠み、酷愛した香薬師像

會津八一が歌を詠み、酷愛した香薬師像

写真:いずみ ゆか

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光明皇后をはじめ、多くの人々の深い祈りを受けとめてきた香薬師像。中でも、奈良の仏教美術研究がライフワークだった教育者、歌人、書家、美術史研究家の會津八一は、香薬師像を酷愛したことで有名です。奈良の古寺を旅する方は、境内に八一の歌碑を見る事が多いと思いますが、その第一号は、なんと新薬師寺に。

歌碑の「ちかづきて あふぎみれども みほとけの みそなはすとも あらぬさびしさ」にある「みほとけ」は、香薬師像のこと。八一は、香薬師像へのあふれる想いを十数種詠んでいますが、盗難後の深い悲しみを詠った歌もあります。

本物の香薬師像を探す旅

本物の香薬師像を探す旅

写真:いずみ ゆか

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「私達の本物の香薬師像を探す旅はまだ続いています」と中田住職。関係者は、「右手」特別公開によって、まだ見つからぬ本体の有力情報が入ることを願っています。

貴田さんの本を読むと、例え模造であっても、「その先にある本物の香薬師像」を想いながら、どの人も深い祈りを捧げているのが分かります。私達も「本物の右手」から香薬師像を想い、発見につながる事を祈るばかりです。

今後も正倉院展期間での公開を予定しているとのことですが、75年ぶり公開の今こそ、新薬師寺を訪れて下さい。

香薬師像右手 特別公開の基本情報

住所:奈良県奈良市高畑町1352番地
電話番号:0742-22-3736
拝観時間:9:00〜17:00
拝観料:大人600円、中高生350円、小学生150円(通常拝観料金と同じ)
場所:新薬師寺ご本堂内一角 
アクセス:JR奈良駅、近鉄奈良駅から市内循環バス10分、「破石町」下車、徒歩約10分

2018年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

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掲載内容は執筆時点のものです。 2018/10/27 訪問

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