こんな美しい古墳、見たことあります?奈良「文殊院西古墳」

こんな美しい古墳、見たことあります?奈良「文殊院西古墳」

更新日:2024/11/01 13:21

乾口 達司のプロフィール写真 乾口 達司 著述業/日本近代文学会・昭和文学会・日本文学協会会員
古代以来、多くの人が暮らす日本列島には、全国津々浦々、無数の古墳が点在しています。そのなかには全国屈指の「美しさ」をたたえられている古墳があること、ご存知ですか?奈良県桜井市の「文殊院西古墳(もんじゅいんにしこふん)」です。とりわけ、整然と積み重ねられた石室の造型は見事であり、それを目当てに多くの古墳ファンが訪れるスポットです。今回は美しい古墳として名高い「文殊院西古墳」を徹底解剖しましょう。

安倍文殊院の境内に残る「文殊院西古墳」

安倍文殊院の境内に残る「文殊院西古墳」

写真:乾口 達司

地図を見る

国の特別史跡となっている「文殊院西古墳(もんじゅいんにしこふん)」は、奈良県桜井市にある古墳。その名は、「日本三文殊」の一つに数えられる「安倍文殊院(あべのもんじゅいん)」の境内にあることに由来します。

安倍文殊院の境内に残る「文殊院西古墳」

写真:乾口 達司

地図を見る

直径は約25メートルから30メートル、高さ約6メートル程度の円墳。内部には両袖式横穴式石室が設けられており、現在は南を向いて開口しています。

文殊院西古墳の築造時期は7世紀後半と推定されており、被葬者として、大化の改新後に左大臣となった阿倍内麻呂(安倍倉梯麻呂)の名が挙げられています。当地が古代の豪族・阿倍氏の勢力圏にあったこと、阿倍氏の氏寺として創建された安倍文殊院の境内に位置していることからも、阿倍内麻呂を被葬者とする説は確かに有力です。

「美しい古墳」とたたえられる理由がわかる!石室内の様子

「美しい古墳」とたたえられる理由がわかる!石室内の様子

写真:乾口 達司

地図を見る

文殊院西古墳が「美しい古墳」であるとたたえられる理由は、被葬者を埋葬した石室の内部にあります。石室の全長は12.5メートル。被葬者を安置した玄室の長さは5.1メートルで、高さは2.8メートルの規模を有しています。

写真はその玄室部分を撮影したものですが、ここにかつて置かれていたと思われる棺はすでに失われており、代わりに弘法大師・空海が彫ったと伝わる石造りの不動明王像(願掛け不動)が安置されています。

「美しい古墳」とたたえられる理由がわかる!石室内の様子

写真:乾口 達司

地図を見る

注目していただきたいのは、石室を構成する石材の組み方!石材の花崗岩が長方形に綺麗に切りそろえられた上、規則正しく横積みに組み合わされています。

文殊院西古墳が現存する全国の古墳のなかでも屈指の美しさを誇るとされているのは、こういった整然とした石組みにあります。

「美しい古墳」とたたえられる理由がわかる!石室内の様子

写真:乾口 達司

地図を見る

注目していただきたいのは、左右の側壁部分。画面の一番右側の目地をよくご覧ください。積み重ねた石と石とのあいだに生じている実際の目地と異なり、縦に線刻がなされているのが、おわかりいただけるはず。そうなのです。こちらは他の目地にあわせてあえて偽の目地を刻み、あたかも2つの石を連結させているかのように見せかけたものなのです。

文殊院西古墳がいかに意匠を凝らした古墳であるか、この線刻部分からもうかがえますね。

玄室の上の巨大な天井石

玄室の上の巨大な天井石

写真:乾口 達司

地図を見る

玄室では天井も見上げましょう。天井部分は巨大な1枚の石材で覆われています。しかも、写真をよくご覧になると、側壁が内側へ少し歪曲しているのがおわかりいただけるでしょう。つまり、文殊院西古墳の玄室はドーム状に構造化されているのです。これは巨大な天井石を支えるためであるとともに、石室内に浸透して来る水が棺の上に直接落ちてこないようにするための工夫とされています。

その点もぜひお見逃しなく。

玄室の上の巨大な天井石

写真:乾口 達司

地図を見る

巨大な天井石は、圧巻そのもの。天井石がどのように支えられているか、ご自身の目でお確かめください。

何かがはめ込まれていた?開口部の謎の切り込み

何かがはめ込まれていた?開口部の謎の切り込み

写真:乾口 達司

地図を見る

こちらは開口部と玄室とをつなぐ羨道の側壁。こちらも四角く切り分けられた巨大な石材を組み合わせて構築されています。

何かがはめ込まれていた?開口部の謎の切り込み

写真:乾口 達司

地図を見る

しかも、天井の高さは微妙に変えられています。天井の高さを変えるために、小石があいだにはめ込まれているのがおわかりいただけるでしょう。

また、石材同士の接着部分をよく見ると、隙間に白い付着物が見られる箇所があります。文殊院西古墳と同じく美しい石室を持つ奈良県明日香村の「岩屋山古墳(いわややまこふん)」では、石材同士のあいだを接着させるために漆喰状のものが塗り込められていました。文殊院西古墳に見られる白い付着物も、石材同士の隙間を埋めていた漆喰であると考えられます。

こういった細部の意匠にも注目してください。

何かがはめ込まれていた?開口部の謎の切り込み

写真:乾口 達司

地図を見る

開口部には、ご覧のように、人為的にしつらえられた直線の切り込みが見られます。切り込みは左右の石材をつなぐようにしつらえられていますが、この切り込みはいったい何でしょうか。ひょっとすると、開口部を閉じる目的で扉などがはめ込まれていた痕跡かも知れませんね。

あわせてお参りしよう!文殊院東古墳や本堂

あわせてお参りしよう!文殊院東古墳や本堂

写真:乾口 達司

地図を見る

文殊院西古墳を見学した後は、西古墳と対になるようにして境内に残る「文殊院東古墳(もんじゅいんひがしこふん)」にも足を運びましょう。

ご覧のように、文殊院東古墳の石室は自然石を単純に組み合わせたものであり、文殊院西古墳のような整然とした加工は認められません。それだけに東古墳の築造年代は西古墳よりも古いことがわかります。

あわせてお参りしよう!文殊院東古墳や本堂

写真:乾口 達司

地図を見る

安倍文殊院の境内ですから、本堂にもお参りしましょう。堂内には、鎌倉時代の名仏師・快慶の作である巨大な本尊・騎獅文殊菩薩像をはじめとする5体の渡海文殊が安置されています。仏像好きの方はぜひ拝観しましょう。

受験シーズンともなると、安倍文殊院にはたくさんの受験生が訪れ、合格祈願の絵馬を奉納します。身内に受験生のいる方、あるいはご自身が受験生であれば、絵馬の奉納もあわせてお勧めします。

文殊院西古墳がいかに美しく、意匠を凝らした古墳であるか、おわかりいただけたでしょうか。誰でも気軽に玄室内まで足を踏み入れることができるため、ご自身の目で美しい文殊院西古墳の世界に魅せられてください。

文殊院西古墳の基本情報

住所:奈良県桜井市安倍山(安倍文殊院)
電話番号:0744-43-0002
アクセス:近鉄・JR桜井駅徒歩約10分

2024年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

この記事の関連MEMO

掲載内容は執筆時点のものです。 2023/12/17 訪問

条件を指定して検索

- PR -

新幹線特集
この記事に関するお問い合わせ

- 広告 -