写真:Naoyuki 金井
地図を見る最初にご紹介するのは百体観音堂のある児玉町小平地区で、ここは単に観音堂のある地域というだけでなく、2008年に埼玉県の景観賞を受賞した風光明媚な場所です。
小平地区は、古くから養蚕の盛んな地方で、養蚕農家の屋根には「高窓」といわれる換気用の越屋根が設置されていて、現在でもこの地域にはその民家がまとまって残っていることから「高窓の里」と呼ばれています。
そして「高窓」の民家が魅せる光景は、山里の原風景ともいえる、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる郷愁を呼ぶ風景で、私たち旅人を故郷に帰ったように迎え入れてくれるのです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るその高窓の里にあって百体観音堂を持つ寺院が「成身院」で、児玉三十三観音の第一寺となっています。
一説には奈良時代である8世紀後半の創建とも考えられているようですが、確かな由緒では1342〜45年(室町時代康永年間)に鎌倉公方の足利持氏によって開基された古刹です。
その創建時代を偲ぶものが仁王門で、建立は江戸時代ながら仁王像は創建時代の面影を残しています。
江戸時代は檀家を持たない寺院で、僧侶を育てる談林(学問所)として高名な僧侶を輩出し、現在の児玉三十三観音の内の10寺を初めとして100ヶ寺の末寺をもつ繁栄を誇っていた寺院です。
桜の名所でもありますので、シーズン中は広大な境内の桜を愛でながら、往時の栄華を偲んで見るのもよいでしょう。
写真:Naoyuki 金井
地図を見るその成身院の境内の小高い丘の上にあるのが「百体観音堂」です。
百体観音堂は、天明3(1783)年の浅間山大噴火で亡くなった多くの方の冥福を祈り、供養するために建立されたもので、江戸時代後期の東北から関東地方にみられた特異な建築様式の仏搭です。
外観からは二階建てにしか見えませんが、内部は三層になっており、三層二階建てという極めて珍しい構造を持つ建造物です。
そう云われるとすぐにでも拝観したくなるのが人情ですが、ここははやる気持ちを抑えて観音堂の手前にある「大日如来坐像」や堂宇の中央にある大きな「鰐口」などの文化財を見ておきましょう。
観音堂の歴史や文化などが垣間見られるはずです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る実際に拝観するとその構造に驚かされます。
堂内は右周り(時計廻り)で参拝する構造で、参拝しているうちに三層に到着し、下りはまた別な順路で降りてくるという、まさに一方通行の順路です。
写真の左側の階段が1階から2階への上り階段で、2階を1周して正面木壁の手前右手の階段を上がると3階となります。
これは右繞三匝(うにょうさんぞう)という仏教の礼法に基づいたもので、右回りに三回巡ることが死者に対する最上の礼をつくすという意味から考え出されたものなのです。
このような仏塔をこの三匝礼法に由来して「三匝堂(さんそうどう)」というのですが、一般的にはその外観や螺旋構造などから「サザエ堂」と呼ばれ親しまれています。
こうしたサザエ堂は全国にいくつかありますが、外観から三層の螺旋構造が見てとれる重要文化財の「会津のサザエ堂」を初めとして、「太田のサザエ堂」(群馬県太田市)と共に日本三大サザエ堂として「児玉のサザエ堂」と呼ばれているのが、この百体観音堂です。
日本でも珍しい不思議な空間体験を存分に味わっていただきたいです。
写真:Naoyuki 金井
地図を見る3層になっている堂内は階層ごとに霊場が異なっています。
1階は秩父三十四観音霊場で、2階は坂東三十三観音霊場、そして3階は西国三十三観音霊場となっており、各寺院の本尊が「移り本尊」として祀られ、全部で百の本尊が安置されていることから百体観音と呼ばれています。
この移り本尊にも歴史があり、寛政4(1792)年に建立された観音堂は大きくて荘厳な堂宇だったのですが、観音堂ができるまでは先の観音堂前の大日如来座像がその代わりだったのでした。
しかし、明治21(1888)年、火災により観音堂を焼失し、観音像もすべて溶けてしまったのです。その時奇跡的に残ったのが、先に見た堂宇の中央にあった鰐口です。
その後、地域の方の努力により明治43(1910)年に再び落慶した際に観音像は60体しかなく、更に戦後の荒廃した時代に約半数が盗まれてしまいました。
それ以来、多くの方の善意と努力により一体一体寄進され、観音像を失ってから100年の時を経て、再び100体すべてが安置されました。
その歴史に思いを馳せながら拝観すると、人々の優しい気持ちに心動かされるものを感じてくるのです。
仏心は別として、仏像芸術、建造物としても見るべき価値の多くある寺院です。
現在は最初にスタッフから簡単な説明をいただき、その後拝観は各々時間をかけて参拝できますので、百体観音堂の奥深さが味わえるはずです。
過日の大雪でこの観音堂の屋根も一部ゆがんでしまいその修理がおこなわれていましたが、その一方で雪景色もまた格別だったそうで、桜の春、蝉時雨の夏、紅葉の秋とともに四季折々の風情が楽しめる高窓の里です。
他に「間瀬湖」「岩谷堂」「あじさいの小路」などの名所もあるので、あなたなりの高窓の里の魅力を探してみてください。
■高窓の里「百体観音堂」
【拝観受付】午前10時から午後4時
【休館日】木曜日
【拝観料】300円
【問合せ】本庄市観光農業センター(Tel:0495-72-6742)
【アクセス】電車:JR八高線児玉駅からタクシーで10分 車:本庄児玉ICから南西へ約9km
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(2024/12/14更新)
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