橫須賀市浦賀は東京湾の入り口に位置し、奥まった入江がある地形に恵まれた良港です。戦国時代には軍港、幕末にはペリー来航の地として、近代では造船を担ったことで知られています。
西叶神社の創建は、平安時代の終わり頃、1181年に神護寺の文覚上人が源氏の勝利を祈願して京都の石清水八幡を勧請し、平家滅亡によって願いがかなえられ、「叶明神」の称号が与えられたと伝えられています。
西叶神社は京急浦賀駅からバスで5分、浦賀港を見ながら歩いても15～20分ほどのところにあります。「一の鳥居」は浦賀港に臨み、バス停「紺屋町」のすぐそばに真東を向いて建っています。1933年の檜製の鳥居が老朽化したため、2015年にガラス繊維コンクリート造りの新しい鳥居になりました。この写真では、鳥居の手前側が参道になっていて社殿に向かいます。
「二の鳥居」から社殿に向かう階段が見えます。階段の手前、銅製の大きな灯籠は江戸時代に浦賀の遊廓が寄進したもの。水屋の石の漱盤も遊廓の主人で僧侶に転身した江戸屋半五郎が寄進しました。それぞれ寄進者の名前が刻まれています。
江戸時代には関西に綿花の肥料にする干鰯（ほしか）を送る集積地となり、奉行所が設置され「船番所」で東京湾に出入りする船の調査を担当する回船問屋が約100軒もできました。浦賀全体が商業地として栄えたことが境内の寄進や社殿の飾りに現れ、近くの社寺にも見事な彫刻が多く見られます。
二の鳥居から社殿が望めます。江戸時代には、奉行に任ぜられた武士が代々叶神社を崇敬し、自ら参詣し幣物を捧げました。現在も西叶神社は地域の人たちの信仰の場です。
社殿は江戸時代の1837年に焼失し、2年後に三千両の経費をかけて以前にも勝る建物が再建されました。それから179年を経た2018年に大規模な改修が行われました。屋根は薄い銅の板を並べて葺替え、銅板の赤銅色が光りを受けて輝いて見えます。
毎年9月中旬に開かれる例祭では、神輿、山車が巡行し、交通規制が行われます。2019年は9月14日（土）、15日（日)にあたり、3年に一度の宮神輿の巡行でもあり多くの人で賑わいます。
お参りをすませて、横から社殿を見ると三角の屋根が三つ並んで、左から拝殿、幣殿、本殿とつながる権現造りという形式であることがわかります。屋根のとがった下には三枚の花びらのような形の「懸魚（けぎょ）」がついています。懸魚は火災予防のまじないのために水に住む魚形の飾りをつけたものです。
奥の本殿には大きな懸魚が6つあります。屋根の下には鳥、花、龍など多くの精巧な彫刻で飾られています。棟柱を担ぐ力士像は珍しいものです。
本殿の下の方には獅子が口を開けて飛び出してくるような勢いです。このように多くの彫刻が力強く社殿を守っているのです。
お参りをする場所・向殿では注連縄の上から龍が口を開けてにらみをきかせ、龍の左には迫力ある獅子の彫刻が並んでいます。龍の右下には、梅に鶯、松に鷹が刻まれています。天井を見上げると均等に仕切った格天井（ごうてんじょう）には28の仕切りのひとつひとつに龍の彫刻があります。
拝殿の格天井には、花と鳥の彫刻が74組あります。写真の中央の段は、左から、柳と燕、荻と鶉、花菖蒲と鷭。厚い板を彫り込み、彫りが深くて立体的です。
このように社殿のまわりには総数230を超える彫刻があり、橫須賀市市民文化資産に指定されています。作者の後藤利兵衛義光は1815年安房国（現千葉県）に生まれ江戸で彫刻を学びました。義光は当時28歳、その後、江戸、京都、千葉などで神社社殿の彫刻や山車、みこしを多く手掛けています。
拝殿の大きな絵馬は、馬に乗った武将・八幡太郎源義家を描いたもの。義家が勿来の関（現福島県）で散る山桜を惜しんで詠んだ和歌「吹くかぜをなこそのせきとおもへどもみちもせにちる山桜かな」（千載集103）にちなんだ場面です。義家は源頼朝の祖先です。ペリー来航時に交渉にあたった奉行所の香山栄左衛門が家運隆昌を願って奉納しました。
拝殿に続く幣殿の天井一面には香雪斉円州が描いた墨絵の龍、本殿は黒漆の扉の奥に神様を祀っています。
なお、拝殿、幣殿、本殿は祈祷など特別の場合のみ拝観できます。
新年には干支絵馬、「叶」の文字がある叶絵馬が授けられ、願いや抱負を込めて奉納することができます。
社殿の前では階段を挟んで、2頭の狛犬が向かい合っています。階段の柵につかまっている小さな狛犬もそれぞれ左右にいます。探してみてください。
社務所玄関の壁面の鏝絵（こてえ）があります。これは左官職人が漆喰（しっくい）を鏝（こて）でつくりあげて土蔵などの壁を飾るものです。
この鏝絵は中国の宋時代の司馬温公の有名な故事「破甕救児」（甕を破りて児を救う）を表わしています。司馬温公が子どもの頃、子どものひとり甕に落ち、温公が石で甕を割って子どもを助けました。高価な甕よりも、もっと大切な人命を救った逸話を大切な教訓として形に残してきたのです。
作者は全国でも著名な漆喰細工の名人・石川善吉の1930（昭和５）年の作と伝えられています。近くの寺社、常福地、八雲神社にも善吉の作があり、善吉親子・兄弟の作も東福寺、川間町会館で見ることができます。
西叶神社はパワースポットとしても人気があります。方位除守、病気平癒、交通安全、学業成就などのほか、古い大鳥居の御用材を包んだ御守もあります。
縁結びには西叶神社の勾玉を、浦賀港の対岸にある東叶神社のお守り袋に納めて身につけてください。そうすると、恋愛をはじめ人生を豊かにすごす人との出会いを結ぶことができます。勾玉は3色、お守り袋も3色あります。
西叶神社から歩いて５分ほどの船付場から渡船に乗って３分、対岸の東叶神社をめざしましょう。乗り場に船がいない時には、待合所のブザーを押すとすぐに来てくれます。渡船は奉行所が置かれた5年後の1725年から地元の足として長く親しまれています。
住所：神奈川県横須賀市浦賀1-1-13
電話番号：046-841-0179
アクセス：京急浦賀駅から徒歩15分、あるいは京急バス「久里浜駅行」約5分「紺屋町」バス停下車、徒歩1分
2019年5月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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(2024/4/20更新)
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