吉野山をめぐる旅は、奥千本エリアとされる金峯神社を起点にすると、ケーブル駅までひたすら下るだけ。体力に自信のない人でもあせることなくじっくりと楽しめます。
近鉄吉野駅からミニ・ケーブルに乗って5分ほどで、吉野山バス停留所に着きます。花の季節にはバスも出ていますが、オフ・シーズンは運行していません。このバス停でタクシーを呼んで乗り合わせて行きましょう。送迎料金なしで午前5時から24時まで営業している大淀タクシー(TEL:074-752-2049)が便利です。
写真は、下り始めて1時間ほどのところにある花矢倉展望台から、蔵王堂のある中千本・下千本方面を眺めたものです。
西行庵は、金峯神社裏の義経隠れ塔から20分ほど谷筋へ下った、台地状に開けたところにあります。ここは吉野山のメインルートからも隔絶した別天地の趣きのあるところ。
桜の花を愛した西行は、ここで3年余りの歳月を過ごしました。復元された庵の中には西行の座像が安置され、近くの岩場には苔清水も滴り落ちています。
「とくとくと落つる岩間の苔清水汲みほすまでもなき住居かな」と、しばし西行法師の気分になって憩ってみてはいかがでしょう。
写真は、ウラベニガサというきのこ越しにみる西行庵。
花どきの喧騒とは無縁の吉野では、野性植物やきのこが方々で出迎えてくれます。また人を知らない蝶やセミも汗に誘われて衣服や帽子、メガネや腕になついてとまってくれます。
この緑の季節の吉野は、身も心も真青に染まり、歩くほどに徐々に人間臭ささえ薄らいで行き、まわりの自然に溶け込んでいく自分と出会うような不思議な感覚で満たされます。
上千本から、かつては吉野青根ケ峰にあった社殿をこの地へ移したといわれる吉野山分水嶺の神様・水分(みくまり)神社を過ぎて、谷ひとつ隔てた山の中腹へ下ると、後醍醐天皇・勅願寺の如意輪寺が見えてきます。
草創は金峯山で修行中、山中の洞窟で息絶え13日後に蘇ったとされる日蔵道賢上人。その冥途の旅を記した『道賢上人冥途記』や『日蔵夢記』では、途中で後醍醐帝や道真公に出会ったと言い、後の御霊信仰や天神伝説の成立に深く関わっていきます。
本尊は如意輪観音で、ここには楠正成(まさしげ)の長男・正行(まさつら)が四条畷の決戦に赴く日、この寺で亡き後醍醐帝に最後の祈りを捧げたと言われ、出陣にまつわる伝承が残されています。
裏山には、京洛へ復帰することを夢みながら果たせずに吉野で崩御した後醍醐天皇の御陵もあります。
如意輪寺から中千本へと下り、蔵王堂の手前にある門前町には、三本足のヒキガエルの商標で有名な藤井利三郎薬房があります。この店をのぞくと、まさにそのものズバリの桜の木の一木彫のヒキガエルがおさまりかえっています。八咫烏(やたがらす)のパロディめいたヤタガエルですが、なんともリアルで微笑みを誘います。
こちらでは、古来よりキハダのエキスを主成分とし、修験者の常備の胃薬とされた陀羅尼助丸が、丸薬と板状の2種売られています。
中千本エリアの下端にある蔵王堂は、正面5間・側面6間・高さ34mもあり、東大寺大仏殿に次ぐ巨大木造建築物です。
本尊は山岳修験が生み出した我が国固有の蔵王権現で、こちらも像高は7mと巨大です。こんな幽遠の地に、訪れる人たちすべてが圧倒される木造建築物や神仏像を造立した人間の意志の力には驚かされます。
桜の季節には、近鉄吉野駅周辺の下千本からここまで来るのがやっとの人ごみでうんざりしますが、オフ・シーズンには嘘のような静けさに包まれています。南朝の大塔宮の陣地となった境内も当時のままに残されています。
古代よりのパワースポット・吉野山は、のちの大峰修験道の礎を築いた地で、多くの修行僧が足しげく訪れたところ。そもそもはわが国・原始仏教の中核を成した弥勒信仰の地でした。
桜・紅葉を愛でる風雅な旅も楽しいものですが、この山本来の魅力を知る喜びはオフシーズンに訪ねるのが一番。ぜひ静かな吉野へ足をお運びください。
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(2024/10/15更新)
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