奈良県立美術館で見る「富本憲吉入門」巨匠の足跡が一目瞭然!

奈良県立美術館で見る「富本憲吉入門」巨匠の足跡が一目瞭然!

更新日:2019/07/25 11:42

菊池 模糊のプロフィール写真 菊池 模糊 旅ライター、旅ブロガー、写真家
古都奈良は人気の大観光地です。大仏殿や奈良公園を楽しんだ後は、視点を変えて、芸術の世界に親しんでみませんか? 近鉄奈良駅近くにある奈良県立美術館は、短時間で味わえる奈良県の芸術の殿堂。現在「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」という企画展が開催されており、夏の奈良をさらに深く楽しめます。近代陶芸を牽引した巨匠:富本憲吉の足跡が分かりやすく展示されていますので、ぜひ行ってみましょう!

奈良県立美術館の概要

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写真:菊池 模糊

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奈良県立美術館は、奈良県庁に隣接し、延床面積5,451m平米を誇ります。1973年、吉川観方から寄贈された近世美術品を基礎に開館し、由良哲次・富本憲吉・大橋嘉一らのコレクションを加え、所蔵品は4,100点を超えます。また、奈良国立博物館・入江泰吉記念奈良市写真美術館とともに奈良トライアングルミュージアムズを構成しています。

奈良県立美術館の概要

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2019年6月29日から9月1日には「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」という企画展を実施中です。奈良県立美術館の大きな魅力である富本憲吉の作品を系統だって見ることのできる絶好の機会ですので、陶芸マニアだけでなく多くの方々におすすめします。

富本憲吉(1886−1963)は、奈良県が生んだ偉大な陶芸家で、日本近代陶芸の歴史に大きな足跡を残しています。東京美術学校(現・東京芸術大学)で学び、ロンドンに留学後、バーナード・リーチらと交流。各地の陶磁器を研究し、作陶に創意工夫を重ねました。昭和になると評価を高め、やがて初の重要無形文化財保持者(人間国宝)となり、文化勲章も受章しました。

奈良県立美術館の概要

写真:菊池 模糊

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今回の企画展には、奈良県立美術館を中心に京都国立近代美術館、石川県立美術館などの所蔵品、さらに個人蔵の作品を加え、計約160件が出展され、富本芸術が一望できる充実した内容となっています。

展示は「富本憲吉の生い立ち」「大和時代」「東京時代」「京都時代」「くらしを彩る」の五部構成。すなわち、足跡を順番にたどることで、富本憲吉の世界が分かりやすく理解できます。まさに入門展示としてふさわしいものです。

写真は、東京時代に制作された代表作「色絵四弁花更紗模様 六角飾筥」で、憲吉が到達した円熟期の傑作。まさに、ここに至る道を展示で学んでいきましょう。

富本憲吉の世界(前期)

富本憲吉の世界(前期)

写真:菊池 模糊

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第1展示室は「富本憲吉の生い立ち」がテーマ。巨匠を生んだ「うぶすな」としての安堵(現・奈良県生駒郡安堵町)での生活から東京美術学校、イギリス留学、帰国後の模索時期の展示があります。

奈良盆地の大和川水系安堵の風景は憲吉の原点で、「大和川急雨模様」というのは晩年まで彼が持ち続けたモチーフ。自宅周辺の竹林は「竹林月夜」という作品に結晶します。

富本憲吉の世界(前期)

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第2展示室は憲吉がスタンスを確立した大和時代がテーマ。親友バーナード・リーチの影響を受け、安堵で楽焼の制作をはじめ、各種の陶磁器の研究を進めていきます。そして、ついに「模様から模様をつくるべからず」という創作理念にたどり着くのです。これは、人の模倣をせず自然観察から模様を創造するという決意を表したものです。

富本憲吉の世界(前期)

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第3展示室では「形―陶器は立体の美術」というテーマに、フォルムが重視される白磁の作品が集中的に展示されています。写真は「白磁 八角壺」で極めて美しい造形の作品。八角に面取りされており、やわらかさと気品が漂う白磁釉とあいまって、独特の雰囲気があります。

富本憲吉の世界(後期)

富本憲吉の世界(後期)

写真:菊池 模糊

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第4展示室は東京時代の活躍がテーマ。安堵から東京に転居し窯を築いた憲吉は、精力的な活動を開始します。昭和初期の特別展で高い評価を得て、陶芸が単なる産業から美術の一分野へと変革される時代を牽引する代表作家として活躍します。そして、帝国芸術院会員、東京美術学校教授に任命されます。

この時代を代表する作品の一つが写真の「色絵円に花模様 飾箱」。円にダリアとカーネーション模様を散らした白布を掛けたイメージが表現された独創的な作品です。

富本憲吉の世界(後期)

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第5展示室は京都時代の円熟期がテーマ。終戦後、憲吉は一時安堵に帰った後、京都へと移り、本格的に創作の幅を広げ技術を深化させていきます。金銀彩の技法を完成させ、羊歯の連続模様を制作し、鉄描銅彩や「かきおこし」という方法も考案しました。

写真は、憲吉の代表作の「赤地金銀彩羊歯模様 蓋付飾壺」。金と銀を同時に焼き付けるという難題を、銀泥に金泥を加え白金を少量混ぜることで解決し、羊歯連続模様を表現した記念碑的作品です。華やかでありながら派手に堕せず気品を漂わせる落ち着きがあります。

富本憲吉の世界(後期)

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第6展示室は「くらしを彩る」がテーマ。一般人の生活をどう彩るかを問い続けた憲吉は、食器類の制作のみならず、帯留めやブローチといった装身具も手がけました。民衆生活に安価で美しい陶器を提供したいという思いから、陶磁器の量産にも取り組み、京都時代になると「平安窯」「富泉」といった銘の日用品の頒布にも力を貸したのです。

初公開となる新収蔵品

初公開となる新収蔵品

写真:菊池 模糊

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今回の企画展では、憲吉と親交があった柴田寛一さんと河邉篤さんの旧蔵品で、遺族から寄贈された21点の新収蔵品が初公開されています。貴重なものなので、忘れずに見学しましょう。以下、新収蔵品から3点を紹介します。

まず、写真の「白磁 壺」。東京時代に制作された銘品で、しっとり豊かな量感と「形」の良さで実に存在感があります

初公開となる新収蔵品

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「柿柚染付魚模様 陶箱」は東京時代のもので、憲吉としては数少ない魚の模様。上面に描かれた魚が面白く、シンプルですが印象的で興味深い作品です。

初公開となる新収蔵品

写真:菊池 模糊

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「色絵四弁花模様 飾壺」は赤地に白花弁の配色で東京時代の逸品。外側全面に四弁花模様が連なっており、見事な造形とあいまって、いかにも憲吉らしい作品といえるでしょう。

連携展示と県庁屋上

連携展示と県庁屋上

写真:菊池 模糊

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1階出口近くに、連携展示とミュージアムショップがあります。「富本憲吉と信楽焼」や「富本憲吉と九谷焼」、「富本憲吉と安堵町」というパネルなどの展示があり、憲吉に関連した場所について学ぶことができます。

なお、安堵町の憲吉の屋敷跡は、富本憲吉記念館を経て、現在はリノベーションされ「うぶすなの郷 TOMIMOTO」という完全予約制の高級旅館になっています。憲吉が愛用した書斎や、親友バーナード・リーチと鑑賞した美しい竹林も残されていますので、余裕のある方は宿泊され、憲吉の原点の世界を満喫してください。

連携展示と県庁屋上

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奈良県立美術館は、奈良県庁のすぐ隣にあります。そこで、美術館に来たらせっかくですので、奈良観光の穴場として人気の奈良県庁屋上広場に行ってみましょう。ここは、無料で楽しめる展望広場で、芝生が広がりベンチもあります。なにより、奈良市内では随一の360度のパノラマが楽しめ、四方を山に囲まれた奈良盆地を一望できます。

写真は南側の展望で、左の塔が興福寺の五重塔、右の大きな建物が2018年に再建なった興福寺中金堂です。

連携展示と県庁屋上

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奈良県庁屋上広場からさらに階段で上がると展望室があり、より雄大な景色をご覧いただけます。写真は、北側直下を俯瞰したもので、大きな四角形の建物二棟を渡り廊下で繋いだように見えるのが、今回紹介した奈良県立美術館です。

奈良県立美術館の基本情報

住所:奈良県奈良市登大路町10-6
電話番号:0742-23-3968
アクセス:
近鉄「奈良」駅下車、1番出口から徒歩5分
JR「奈良」駅東口バス乗り場から奈良交通バス「県庁前」下車

・企画展「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」
開催期間:2019年6月29日〜9月1日
開館時間:午前9時〜午後5時00分(入館は午後4時30分まで)
※月曜休館。ただし、7/15(祝)・8/12(祝)は開館、7/16(火)・8/13(火)は休館
観覧料:一般400円、大学・高校生250円、小・中学生150円

※本企画展の写真撮影は禁止です。詳しくは奈良県立美術館へお問い合わせください。

2019年7月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2019/07/09 訪問

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