バロックとオスマンの折衷が見事！イスタンブール「ヌスレティエ・モスク」

更新日：2019/08/05 17:03

オスマン帝国時代に帝都として栄えた、トルコ最大の都市イスタンブールには、帝国時代に建設された様々なモスクが残っています。
1800年代に新市街に建てられたヌスレティエ・モスクは、バロック様式とオスマン様式の見事なコラボレーションが美しいモスクとして知られています。

ボスポラス海峡沿いのトプハーネ地区にある

写真：山口琴美

地図を見る

イスタンブールはトルコ最大の都市というだけあり、少し場所が変わるだけで街の雰囲気や流れる空気、歴史も異なります。

ヌスレティエ・モスクは、ボスポラス海峡に面するトプハーネ地区にあります。この地区は、ビザンツ帝国時代には多くのアポロン神殿があり、オスマン帝国時代には工業地区として栄えました。

現在は穏やかな空気が流れ、道路沿いの高い木々や芝生が美しく、ボスポラス海峡の海風を感じることができるエリアになっています。

トプハーネ地区を象徴するヌスレティエ・モスク

写真：山口琴美

地図を見る

そんなトプハーネ地区にあるモスクが、ヌスレティエ・モスクです。

地元の人たちからはトプハーネ・モスクと呼び親しまれているほどで、その存在感の大きさが窺えます。

オスマン帝国時代に建てられたモスクは、ヨーロッパ側の旧市街に数多く残っていますが、ヌスレティエ・モスクは、旧市街以外に建てられたモスクの中でも規模の大きなオスマン帝国時代のモスクのひとつとして有名です。

バロックとオスマンの折衷、その訳とは？

写真：山口琴美

地図を見る

ヌスレティエ・モスクは西洋風の外観がイスラム寺院に施された、バロック様式とオスマン建築の融合が見事な建築として知られています。

スルタン(皇帝)に設計を任せられたのは、アジア側にある西洋風のベイレルベイ宮殿など、いまなおイスタンブールに残る著名な建造物の設計を数多く手がけた建築家クリコル・バルヤンによるもので、彼はアルメニア人でした。

このモスクが建設された19世紀のオスマン帝国は、ヨーロッパ諸国からの多大な融資により、国家機構の西洋化を推し進めていた時代でした。いわゆる西洋化、近代化の時代を迎えていたのです。そのため、建築の分野においてもヨーロッパの宮殿の建築様式を積極的に取り入れられ、宮殿やモスク、邸宅などの設計は、当時の宮廷建築家であったバルヤン一家に任せられていたのです。

19世紀のオスマン建築にバロック様式が取り入れられ、ヌスレティエ・モスクもその例外ではないのは、このような時代背景があったからなのです。

ヌスレティエの意味とは？

写真：山口琴美

地図を見る

ヌスレティエはトルコ語で勝利を意味します。

では、一体誰が何に勝利したのでしょうか。
1823年に、このトプハーネ地区では「フィルズアーの火災」がありました。メフメト2世の時代に造られた帝国の大砲鋳造所などが被害にあう大規模な火災で、この地区の再建を試みたときのスルタン・マフムト2世により、モスクの建設が計画されました。

当時、帝国の西洋化を試みていたマフムト2世にとって一番厄介な存在だったのが、反西洋化改革勢力であったイエニチェリ(オスマン帝国常備軍歩兵)です。マフムト2世は、イエニチェリを廃止し、新しい軍組織を定めることに成功しました。この出来事に因んで、モスクにはヌスレティエ(勝利)という名がつけられたのです。

西洋の宮殿のようなモスクをじっくり見学しよう

写真：山口琴美

地図を見る

ヌスレティエ・モスクは、旧市街の歴史地区にあるオスマン帝国時代の前半に建てられたモスクには見られないような西洋風の装飾が美しいモスクです。それはまるで、ヨーロッパの宮殿を思わせるような当時としては近代的なデザインであったことがわかります。

イスタンブールに残る、他のモスクと比較しながらじっくりと見学してみてくださいね！