初夏の「横浜自然観察の森」で、清流の宝石 カワトンボに会おう!

初夏の「横浜自然観察の森」で、清流の宝石 カワトンボに会おう!

更新日:2014/05/20 13:59

鷹野 圭のプロフィール写真 鷹野 圭 首都圏自然ライター
GWが過ぎて初夏に入ると、待ってましたとばかりに様々な昆虫が野山に姿を現します。その中でもひときわ目を惹くのが、林間の小川に現れるカワトンボの仲間。メタリックに輝く美しい姿は昆虫ファンでなくても惹かれることでしょう。近年では減少しつつありますが、実は首都圏でも毎年繁殖している場所があります。そんなスポットの中から、今日は横浜市内でも特に豊かな緑を湛える自然公園「横浜自然観察の森」をご紹介します。

……そもそもカワトンボはどこにいる?

……そもそもカワトンボはどこにいる?

写真:鷹野 圭

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自然の豊かなところを探せばカワトンボに会えるかというと、必ずしもイエスとは言い切れません。鬱蒼とした山林や、一般的なトンボが好む広々とした草原や湿地などを闇雲に探しても、きっと思ったような成果は出ないことでしょう。無駄に歩き回らず効率的に観察したいのであれば、カワトンボの好む環境をピンポイントで狙うことが大切です。

カワトンボはその名の通り、主に川の流れる場所に暮らす昆虫。それも広々とした一級河川(多摩川など)の流域ではなく、林の間を流れる細い小川や湧水などを好みます。多く発生する条件は「日陰の多い」「林間部を流れる」「きれいな水辺」であり、まさに横浜自然観察の森にはこの3条件を満たすエリアがあるのです。写真の場所は両サイドを森林に囲まれ、木道の傍らには澄んだ小川が流れています。ここなら、恐らく10メートル歩く内に1匹は遭遇するはず。決して大袈裟な表現ではありませんよ!

ほうら、すぐ横の葉っぱの上にも……。

林間を舞う、繊細な美しさに思わず見とれます

林間を舞う、繊細な美しさに思わず見とれます

写真:鷹野 圭

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さっそく現れました。これがカワトンボです。
写真のように、薄い緑色を帯びた白銀色の個体と、鮮やかなエメラルドグリーン一色の個体(後述)の2タイプに分かれます。どちらも金属光沢が美しく、カワセミではありませんが清流の宝石として大人気。5月も中旬頃になると、多くの昆虫好きのカメラマンがここを訪れます。

オニヤンマなどのよく知られたトンボは激しく翅を動かして力強く速く飛びますが、このカワトンボはひらひらと音もなくゆっくりと飛び、どこか儚げな印象を与えることでしょう。見た目もか細く、翅を閉じて止まるためか一層スリムに見えます。でも、その繊細さとメタリックな輝きが融合することで、まるで飴細工のような美しさを醸し出すのです。初めて生きた姿を見た時には、こんなに綺麗なトンボが日本にいたのかと驚かされることでしょう。

翅の先端部がオレンジ色を帯びていますが、これはオスの特徴。メスの翅は全体的に無色透明なのですぐに見分けられます。毎年オス・メス両方ともバランスよく多数確認できていることからも、ここが確かに恵まれた繁殖地であると言えそうです。

直接カワトンボに触れてみよう

直接カワトンボに触れてみよう

写真:鷹野 圭

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ゆっくり飛ぶカワトンボは、その気になれば素手で捕まえるのも簡単です。後ろからそ〜っと手をのばして翅をつまみましょう(写真はメス)。見た目通り繊細ですので、力を入れるのは厳禁です。

こうしてまじまじと見てみると、大きな眼といい、確かにトンボらしい顔つきですね。細身ながらもちゃんと肉食性なので、口には鋭い歯のようなものが見られます。とはいっても基本的におとなしく、変に顔の前に手を出したりしなければ噛まれることもありませんのでご安心を。身体の大きさはそれなりで、アキアカネ(よく飛んでいる赤トンボ)よりはやや長めといったところ。ゆえに森林の中でも結構目立ちますので、あまり見逃すこともないでしょう。

ちなみに横浜自然観察の森で初夏に観察できるカワトンボは、厳密に言うとニホンカワトンボとアサヒナカワトンボの2種類の内のどちらかです。では具体的にどっち?と問われると、見た目の差はほとんどないに等しく、専門家でも頭を悩ませるそうです。いずれにしても美しさに差はありませんので、難しいことは考えず、素直にそのヴィジュアルに見とれるのが一番かもしれません(汗)

……最後に、これだけは言わせてください。
カワトンボは清流の流れる限られたスポットでしか暮らすことのできない生きものです。捕まえてもその場で観察するだけに留めて、すぐに逃がしてあげるようにしましょう。

深い森の中に、湿地・野原・水辺など様々な環境が整う名スポット

深い森の中に、湿地・野原・水辺など様々な環境が整う名スポット

写真:鷹野 圭

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カワトンボの舞う小川のほかにも、ここ横浜自然観察の森にはジャンルの異なる様々な自然環境があり、それぞれに適応した生きものが暮らしています。

特に必ずチェックしておきたいのが、写真の『ヘイケボタルの湿地』。その名の通り夏場の夜にはホタルが発生するそうですが、昼間も数々のトンボが舞い、キリギリスやトカゲなどがひょいと木道に姿を見せる面白いスポットです。目を凝らして水中を見てみると、たくさんのオタマジャクシはもちろん、最近ではめっきり数の減ってしまった水生昆虫(マツモムシなど)の姿を見かけることもあります。水生植物の根元、水面すれすれの辺りをよ〜く観察すれば、運が良ければギンヤンマなどの大きなトンボの羽化が見られるかもしれません。とりわけ夏場は四六時中生きものであふれているため、休日に親子連れがたくさん訪れることはもちろん、自然観察会の場としても多く利用されています。

この他にも、広々としてピクニックもできる草原『ノギクの広場』や、カワセミがよく訪れる『いたち川の源流』など、自然環境の多様性に恵まれています。環境ごとに暮らしている生きものの種類がガラリと変わりますので、その差を比較してみるのも面白いかもしれません。とりわけお子さんには、自然を学び、何より興味を持ってもらう場としてうってつけでしょう。

充実した園内施設を活用しよう!

充実した園内施設を活用しよう!

写真:鷹野 圭

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バス停「横浜霊園前」よりすぐの入口から階段を昇り、少し左に進めば自然観察センターが見えてきます。パンフレットや地図などを置いているのはもちろん、スタッフさんが何名か常駐しています。森の中で撮影した生きものの名前や季節ごとの見所など、わからないことがあったら色々質問するといいでしょう。過去に撮影された鳥や獣の写真に、数々のはく製や標本、図鑑などの資料も豊富。まずはここで情報収集してから散策に出ることをお勧めします。

また、園内にある『上郷・森の家』はカフェレストランで食事できることはもちろん、大浴場や、水着を着て入る健康浴バーデ、研修や会議などに使えるホール、運動施設にバーベキュー場など、様々な機能を兼ねそろえた施設。宿泊もできますので、遠方から来られた方にも便利です。

横浜自然観察の森、如何だったでしょうか?

もちろん地方の国立公園などに足を運べば、こうした緑の濃い環境くらいは結構ありふれていることでしょう。しかし、こと首都圏においては稀なスポット。特に東京や横浜などの市街地に暮らす方には、意外なほど身近に、意外なほど美しい昆虫が暮らしているということを知っていただければと期待しています。

とりわけカワトンボは、ポイントさえ押さえておけば結構普通に出会える昆虫です。土日や祝日を活かして、ぜひ気軽に会いに行ってみてくださいね!


【アクセス】
最寄/神奈川中央交通バス「横浜霊園前」下車
京浜急行電鉄「金沢八景駅」よりバスで約15分
またはJR「大船駅」よりバスで約25分

掲載内容は執筆時点のものです。 2014/05/10 訪問

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