写真:小野 雅子
地図を見るイギリスで発足した景観保護団体ナショナルトラストの正式名称は、「歴史的名所や自然景勝地のための国民基金」。ピーターラビットの絵本シリーズで有名なビアトリクス・ポターもその意義に共感し、美しい湖水地方の土地を買い取って寄贈したことでも知られています。
今回ご案内するハム・ハウスも、ナショナルトラストが所有する館のひとつ。ジェームズ1世の近衛隊長だったトーマス・ヴァヴァソーがリッチモンド、ロンドン、ウィンザーにそれぞれある3つの王室居城へテムズ川水路でアクセスしやすいこの地を授けられ、館を築いたのは1610年のことでした。
写真:小野 雅子
地図を見るところでハムというと、加工された食肉のハムが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか?綴りもHAMで同じなのですが、このハム・ハウスがある地名が元からハム。12世紀にハマという地名で記されたのが現存する最古の文献とされ、「水辺の牧草地」を意味するイギリス古語です。
東ロンドンにあるウェスト・ハムは、同名のサッカーチームや地下鉄駅があるのでご存知の方も多いでしょう。そちらのハムも語源を同じくします。
写真:小野 雅子
地図を見るさて初代の所有者ヴァヴァソーの没後は、国王の命により何代かの貴族が館を継ぎました。その中で最もこの屋敷を発展させたのは初代ダイサート伯爵ウィリアム・マレーと妻キャサリン、そしてその娘エリザベスと夫ローダーデイル公爵ジョン・メイトランドでした。
彼ら親子が2代にわたって大々的に改築した内装や庭園のアレンジ、またヨーロッパ絵画やタペストリーはもちろんのこと東方からの陶器や美術工芸品の多くが今もハム・ハウスを彩っています。その後の当主たちは大きな改造を加えなかったのが幸いし、17世紀当時の姿がよく保存された状態で1948年にナショナルトラストへ寄贈されたのです。
写真:小野 雅子
地図を見るマレーの娘エリザベスは当時ヨーロッパ大陸でのファッションや生活様式を積極的に取り入れたお洒落な女性で、そのひとつが紅茶を嗜むこと。ちょっと意外なことにお茶を楽しむという習慣はイギリスよりも先にポルトガルやオランダで始まり、その優雅な嗜好をいち早くイギリスで広めていった1人でした。
館内には彼女が愛用した中国製ティーポットも展示されていますので、約400年前にここで繰り広げられたティータイムに思いを馳せてみてはいかがでしょう。
写真:小野 雅子
地図を見る歴代当主たちの肖像画やイタリア人画家による天井画など、絵画コレクションも大充実。貴重なアンティーク家具・調度品とともにずらりと並ぶギャラリーは壮観です。
またバロック期のフランドル画家アンソニー・ヴァン・ダイクが描いた、チャールズ1世の肖像画もお見逃しなく。これは最初に描かれた作品をチャールズ1世本人がとても気に入ったためもう1枚同じものをヴァン・ダイクに描かせ、少年時代の学友であり長じてなお親交を保ったウィリアム・マレーにプレゼントしたものです。
写真:小野 雅子
地図を見る絵巻物のようなタペストリーはもちろん、3メートル四方ほどもある大きなダマスク織りの壁掛けも見事。ちょっと珍しいものではダイニングルームで重宝された、皮革製の壁カバー。17世紀〜18世紀の壁紙は布製が主流だったのですが布だと食べ物の匂いが沁みつきやすいため、一部の富裕層では鮮やかな絵柄を施した皮革製カバーを使用することが流行っていました。
写真:小野 雅子
地図を見る階段や踊り場、天井などの細部にも凝った彫刻や絵画がいっぱい。クラシックな美しさに満ちたハム・ハウスは、映画やTVドラマのロケ地として従来よりたびたび利用されてきました。
比較的最近の作品ではカズオ・イシグロの小説を原作とした映画「わたしを離さないで」や、ロシアの文豪トルストイの小説を映画化した「アンナ・カレーニナ」など。両方とも偶然ながら、日本でも人気のある女優キーラ・ナイトレイが主演しているのでご覧になった方も多いことでしょう。
写真:小野 雅子
地図を見る陶器や家具も逸品ぞろいで、中国をはじめとする東方からの美術工芸品も数多くあります。日本製の漆塗り・象嵌細工を施したキャビネットもそのひとつで、1670年代ごろ製造と鑑定されるもの。「ナガサキ・キャビネット」と名付けられていますが、長崎が製造元だったのか出荷元だったのかまでは定かではありません。
いずれにしても17世紀に王室と深い関わりのあった貴族の館で、日本の貴重なアンティークに出会うとは。ちょっと感慨をおぼえますね。
写真:小野 雅子
地図を見るこちらはセントラル・ヒーティングの温水パネル。それほど古くないヴィクトリア時代のものですが、金属管に美しい模様が施されています。最後の当主ライオネル・トマシェ准男爵がこの館をナショナルトラストに寄贈したのは1948年。近代までは現役のお屋敷だったことの証しが、こういう小さな所に見え隠れしています。
写真:小野 雅子
地図を見る地下にはワインセラーや食品貯蔵室、カマドのある古風な台所などがあり、贅沢で華やかな貴族生活の裏方として仕えた使用人たちがどんな風に働いていたかを垣間見ることが出来ます。
なお各部屋にはナショナル・トラストのボランティアさん達が常駐していて、ちょっとした質問にも丁寧に答えてくれます。例えばカマドの火を400年前はどんな方法でおこしていたか等を訊けば、分かりやすく解説してくれますよ!
写真:小野 雅子
地図を見るウィリアム・マレーと娘エリザベスの時代から殆ど変わっていないのは館の中だけではなく、広々とした庭園も然り。
果樹を育てたチェリー・ガーデン、野菜やハーブのためのキッチンガーデン、手入れに人件費がかかる大きな芝地を保持する事によって財力を示したプラッツなど幾つかテーマごとに分かれていて、どれも17世紀の頃となるべく同じ状態に保たれています。またイギリス国内で最古のひとつというオランジェリー(オレンジなどを育てるための温室)や、冷蔵庫のような役割を果たしたアイスハウスも残っています。
写真:小野 雅子
地図を見るキッチン・ガーデンの一角にあるオランジェリーは、現在カフェとして使われています。カウンターで飲み物や軽食、ケーキなどを買ってからお好きなテーブルを見つけるセルフサービス形式。店内にも席が沢山ありますが、天気の良い日ならば外のテーブルがお勧め。
イギリスの素朴なお菓子スコーンにクロテッド・クリームやジャムを添えて、キッチン・ガーデンのハーブ畑を眺めながら・・・。かつては貴族しか味わえなかった優雅なティータイムを、気軽に楽しんでくださいね!
住所:Ham House & Gardens, Ham Street, Richmond-upon-Thames TW10 7RS
電話番号:+44-20-8940-1950
アクセス:リッチモンド駅から路線バス371番キングストン行きに乗りハム・ストリート停留所で下車、そこから徒歩約10分
2019年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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(2024/3/19更新)
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