写真:小野 浩幸
地図を見る熊野摩崖仏のある熊野神社は、その名が示すように12世紀の初めに紀州熊野から権現様を勧請して創建され、天台宗寺院である胎蔵寺と共に繁栄しましたが、磨崖仏そのものは誰がどのようにして造ったのか分かっていません。
麓の料金所から、ゆるやかな坂道を300mほど登ると「鬼が一夜にして築いた」と云われる乱積みの石段が現れます。不揃いに積まれた石段は登るにつれて大きくなり勾配もきつくなりますので、転倒しないよう手すりをしっかり掴んで歩きましょう。八分目ほど登ると、左手の岩壁に刻まれた巨大な磨崖仏が目に飛び込んできます。右側に6.8mの大日如来像、左側に穏やかな顔つきをした8mほどの不動明王像。木彫りの不動明王に見れるような怒りの形相でなく、うっすらと微笑んでいるようにも見えますね。修験道や天台密教の厳しさをついつい忘れさせてくれるようなユルさです。
写真:小野 浩幸
地図を見る大日如来像は、対照的に螺髪ひとつひとつまで細かに表現され、半眼の表情など大変秀逸な石仏です。そして、その頭上には三面の種子曼荼羅が見えます。種子曼荼羅とは仏や菩薩を図像でなく、梵字で表現した曼荼羅のことで、小さな丸の中に主尊である大日如来を中心にいくつもの梵字が刻まれています。こうした事から大日如来だとされているのですが宝冠をかぶっていないことから、別の仏様ではないかという説もあります。曼荼羅が左右反対である理由も解明されておらず、未だ多くの謎に包まれています。
国東半島には古くから「峯入り」と呼ばれる修行が伝わっており、白い装束に身を包んだ天台宗寺院の僧侶が四日間をかけて160qもの険しき行の道を歩き、各霊場で読経や行法を行うもので今も10年に一度行われています。次回は2030年春の開催予定です。熊野摩崖仏は、峯入りの出発地点であり、道中の安全や満願、多くの人々の祈願を込めて盛大に護摩が焚かれます。
<熊野摩崖仏の基本情報>
住所:大分県豊後高田市田染平野
電話番号:0978-26-2070
拝観料:300円
アクセス:JR宇佐駅から車で約25分、中山香駅から約10分
写真:小野 浩幸
地図を見るスケールの大きな熊野摩崖仏を堪能したあとは趣向を変えて、いろいろな磨崖仏をじっくり味わってみましょう。県道655線を車で5分ほど北上すると大門坊磨崖仏の入り口に差しかかります。案内板の横を左折して進むと地域の集会所な場所へ。建物の両脇にいろんな磨崖仏が彫られています。屋根もないのでけっこう風化していますが、主な仏様はなんとか識別できます。中央の大日如来と薬師如来が目立ちますが、イチバンのお薦めは右側の多聞天に踏まれている邪鬼。分かりますか?顔が苔にまみれながらも圧倒的な存在感、ラブリーな名脇役です。
<大門坊磨崖仏の基本情報>
住所:大分県豊後高田市田染真中674
拝観料:無料(賽銭箱あり)
アクセス:JR中山香駅から車で約12分、熊野摩崖仏から約6分
写真:小野 浩幸
地図を見る元宮磨崖仏は不動明王像を中心に5つの像が彫られる国指定史跡。文化財指定を受けたことから磨崖仏を覆う立派な堂で保護されています。真新しい仏具や献花に囲まれ、先ほど見たばかりの大門坊磨崖仏との格差を感じずにはいられません。足元の小さな狛犬もなかなかのキュートっぷりです。お時間が許せば、お隣の田染元宮八幡社にも寄られてみてください。イイ感じの仁王様が笑わせてくれるでしょう。
<元宮磨崖仏の基本情報>
住所:大分県豊後高田市田染真中
拝観料:無料(賽銭箱あり)
アクセス:JR中山香駅から車で約13分、大門坊磨崖仏から約1分
写真:小野 浩幸
地図を見る次に県道34号線を杵築・大分空港方面へ向かうと鍋山磨崖仏に辿り着きます。案内板近くの道路脇に駐車して、左手にある階段を登っていきます。途中から急な勾配の石段に変わりますので注意が必要です。
80段ほど登り終えると二童子を従えた2.3mの不動明王立像を守るお堂が見えてきます。かなり風化が激しく、右側の矜羯羅童子は原型が分かりづらくなっていますが、地域の方々によって手厚く守られています。ちなみに、ここも国指定史跡です。
<鍋山磨崖仏の基本情報>
住所:大分県豊後高田市田染上野
拝観料:無料(賽銭箱あり)
アクセス:JR中山香駅から車で約13分、元宮磨崖仏から約3分
写真:小野 浩幸
地図を見る最後にご紹介するのは、天念寺前の長岩屋川水上にそびえ立つ川中不動三尊像です。川を覗き込むと大きな鯉が優雅に泳ぎ、桜や紅葉にも恵まれた風光明媚な山里ですが、かつては山岳修行の地として栄え、僧侶しか住めない特殊な地域でした。
また、この長岩屋は昔から暴れ川として知られ、幾度となく洪水や氾濫を繰り返したため、水害防除を願って彫られたと云われていますが、一体どのようにして造ったのでしょうか?川底は想像以上に深く、足場を囲むのも難しそうですし、上からロープでぶらさがるにもくくりつけるものもありません。不動明王像は3.2mとかなり大型ですが、ふてくされた子どものような表情をしていて、国東半島の中でもひときわ印象的な磨崖仏です。
<川中不動の基本情報>
住所:大分県豊後高田市長岩屋
拝観料:無料
アクセス:JR宇佐駅から車で約20分
国東半島の磨崖仏巡礼はいかがでしたでしょうか?今回は来訪しやすい主だったスポットのみを紹介しましたが、中には一度の訪問では見つけられない場所にあるものや個人の私有地を通っていくようなものもありますので、事前に情報を集めて行政機関や関係団体に相談して出かけることをお薦めします。また、季節ごとの楽しみもありますが、磨崖仏巡りは紅葉が落ちてからの冬がお薦め。史跡や道が茂る樹々に遮られずに見通しが良く、蛇や虫とも遭遇しません。
2020年1月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
この記事の関連MEMO
この記事を書いたナビゲーター
小野 浩幸
地元の大分県を中心に九州のあちこちに出かけています。心を奪われるような風景、磨崖仏や隠れキリシタン史跡などのミステリアスなスポット、神社や寺院にある不思議な造形の彫刻などを巡っております。
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