信越本線の横川(群馬県安中市)〜軽井沢(長野県軽井沢町)区間は1997年に長野新幹線(現在の北陸新幹線)の開通により廃線になりました(1997年9月30日:最終運行)。
かつて高崎駅からの信越本線は碓氷峠を越えて長野県へと延びていましたが、現在は横川が終着地となっています。
そんな信越本線が廃止されてから既に22年が経過していますが、普段は立入禁止の横川・軽井沢間の県境を越えながら鉄道遺産群を歩くイベントが「廃線ウォーク」です。
横川〜軽井沢間が開通したのは1893年のこと。碓氷峠を越える11.2kmの区間、最大の勾配区間は水平距離1000mに対して66.7mの高低差が生まれる非常に急な坂だった為、運転士にも恐れられる非常に険しいルートでした。
急勾配を緩和する為のループ線やスイッチバックもこの地形には適さなかったので、ドイツのハルツ鉄道での事例を参考にして日本で初めてアプト式鉄道を取り入れることになりました。
アプト式鉄道とは、2本の線路の内側に歯車付きのレール(ラックレール)を敷き、機関車の歯車とレールがよりしっかりと噛み合わせて走行できるようにした鉄道のことです。
ギザギザが特徴のラックレールと歯車は横川駅前で見ることができます。ラックレールはどこに隠れているかぜひ探してみて下さい。実は、雨水が流れる側溝部分にはめられているのがラックレールなんですよ。
廃線ウォークは軽井沢出発、横川出発の2種類があります。上り線(軽井沢→横川)踏破コースは下り坂。下り線(横川→軽井沢)踏破コースは上り坂です。
途中の旧熊ノ平駅周辺の上り線内は複線の部分もあるので、トンネルの幅が広くなっています。一方、下り線は単線なので非常に細いトンネルが続きます。
トンネルを通る時にぜひ確認したいのが壁に刻まれている数字です。
所々に「30 / 50 / 70」と言った数字が書かれていますが、これはトンネルの壁の厚さを表しています。トンネルの入口付近の方が内側よりも強度が必要な為、分厚い構造になっています。
「廃線ウォーク」では下り線18、上り線11の合計29のトンネルを踏破することができます。
信越本線新線(下り線)のトンネルの長さは34メートルから1,213メートルまで様々ですが、長いトンネルでは出入口の光が届かない距離になると、辺り一面真っ暗です。
懐中電灯の灯りを頼りに歩いていると、いきなりトンネル内がライトアップされ目の前に幻想的な光景が広がるかもしれません。そんなサプライズな企画もぜひ楽しみにしていて下さいね。
真っ暗なトンネル内はついつい下ばかり見て歩いてしまいますが、随所に当時のまま残された設備などが残っています。
これは緊急時に使う電話です。電話機の他にもトンネル内で点検などを行っていた作業員の方々が待避が必要な時に入る穴も多数残っています。
長く暗いトンネル内では出口までの距離を把握しておくことも大事なことです。
トンネル内には修理・整備する作業員用のライトが至る所に設置されています。基本的にライトは横向きに設置されていますが、その中で縦に設置されたライトもあります。列車の最後尾に乗り、真っ暗なトンネルを後ろ向きで上がっていく車掌さんにとっては、あとどのくらいで出口に着くかが全く分からない状態。出口付近であることを示す為に、出口近くに縦のライトを設置し、車掌さんの目印になるようにしたんです。
信越本線新線(下り線)の第18トンネルには県境を表す文字が刻まれています。険しい勾配を乗り越えて県をまたぐ当時の様子をぜひ思い浮かべてみて下さいね。
信越本線新線の中腹辺りには、煉瓦造りの橋梁5基(第2橋梁から第6橋梁まで)が残っており、全て産業遺産として国の重要文化財に指定されています。
その中でも「めがね橋」として親しまれているのが日本最大級の煉瓦4連アーチ橋「碓氷第3橋梁」です。この「めがね橋」は、1892年4月に建設が始まり、その年の12月に完成しました。
1892年から1963年までは列車が往来していた「めがね橋」に使われた煉瓦は200万個以上。長さは91メートル、川底からの高さは31メートルもあります。
廃線跡を利用した遊歩道の「アプトの道」から「めがね橋」に上ることも可能ですが、「廃線ウォーク」に参加すると、この「めがね橋」を遠くから眺めることもできます。
信越本線新線(下り線)からは「めがね橋」がよく見えます。反対側には信越本線新線(上り線)も見られますよ。
秋は一面が紅葉して赤く染まるので一番人気のシーズン。春夏は新緑が美しく、「めがね橋」の煉瓦色が緑によく映えます。そして冬は霜が張ってうっすらと白くなった世界を楽しめます。
信越本線新線の上り線と下り線が交わるのは横川駅、軽井沢駅、そして旧熊ノ平駅の3か所のみです。
変電所跡も残る旧熊ノ平駅周辺も国の重要文化財に指定されています。
そんな旧熊ノ平駅ではお楽しみのランチが待っています。
なんとランチは横川名物の駅弁「峠の釜めし」を販売する「おぎのや」とのコラボ釜めしです。
この「廃線ウォーク」の参加者だけが手に入れられる限定かけ紙にはグルメ・鉄道紀行漫画「駅弁ひとり旅」の作画「はやせ淳」氏が特別にデザインした絵が描かれています。そして釜めしの器も通常の茶色ではなく赤色の限定色です。
1885年に横川駅の開業と同時に創業した「おぎのや」では、1958年から「峠の釜めし」の販売を始め、当時は駅のホームで釜めしを立ち売りしていました。益子焼きで作られた釜の中には 鶏肉や椎茸、杏やゴボウ、栗が入っています。甘めでとっても優しい味付けです。
現在は上信越道の横川サービスエリアや北陸新幹線の名物ですが、元々は横川駅の駅弁として親しまれていました。かつて険しい峠越えに挑む列車が横川駅で補助機関車の連結作業の為に停止する間、多くの旅行客がこの釜めしを買い求めていたのです。今はホームでの立ち売りは行っていませんが、駅前の「おぎのや本店」で購入できます。季節限定商品もあるので、ぜひチェックしてみて下さいね。
リピーター率40%の人気の高さを誇る「廃線ウォーク」は、上り線、下り線で異なる景色を楽しめます。また、横川駅前の「碓氷峠鉄道文化むら」から廃線ウォークの入口となる「峠の湯」間を運行しているトロッコ列車に乗ったり、イベント後は日帰り温泉施設「峠の湯」でゆっくりと疲れを癒したりすることもできます。
鉄道ファンだけでなく、重要文化財や山歩き好きの人にもおすすめの「廃線ウォーク」。普段は立ち入ることのできない廃線の上をウォーキングしながら鉄道遺産やその歴史を感じてみてはいかがですか?
2020年3月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
取材協力:群馬県観光物産国際協会
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