写真:塚本 隆司
地図を見る私設の博物館といえば、自宅の1室を改造して趣味のコレクションを展示しているように思いますよね。ここ「日本玩具博物館」は、そんなレベルではありません。文部科学省から博物館相当施設に認定された社会教育施設で、私設では数少ない例になります。
とはいえ、始まりは館長の井上重義さんが、雑木林を切り開き新築した自宅の1室。1974年のことです。当時は、全国的に見ても郷土玩具を展示する施設は数館しかない時代。貴重な文化が失われていくなか、小さくとも郷土玩具の素晴らしさを伝えたいと開館されました。
鉄道会社に勤務の傍ら、土日に無料開放をする規模でしたが、私設は珍しく新聞などでも話題になりました。
写真:塚本 隆司
地図を見る写真は入館口。収集のきっかけとなった凧が飾られています。
開館の10年ほど前、24歳の時から収集を始め、今や敷地内に6棟もの展示棟を有し、所蔵品数は世界160カ国約9万点。常時展示数は約5千点。展示ケースの総延長は約180メートルにもなります。入館者は多い時で8万人弱(1991年)。2016年には、ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで二つ星を獲得するなど、多くの場で功績が認められています。
収集家には、憧れのサクセスストーリーのように思えますが、入館料だけでは運営費はまかなえません。公的な支援もほとんど受けられない中、独立採算運営を50年近く続けているのは全国的にも珍しく、「奇跡の博物館」と高く評価されているくらいです。
収集ブームが去った現在、入館者は減少傾向が続き、存続が危ぶまれる状況にあります。
写真:塚本 隆司
地図を見る館内は展示だけではなく、実際に触れて遊べるコーナーもあります。子ども連れで訪れ、楽しんで帰る家族の光景は日常的に。珍しい玩具を館長自ら実演、遊び方の指導をしてくれることもあります。
写真は、仕掛けコマのひとつ「三段ゴマ」。コマを積み重ねて回して遊ぶもの。他にけん玉やカラクリものなど、手に取って遊べます。
売店では、コマやけん玉のほか、珍しいダルマやこけし、神戸人形などを販売。近年、郷土玩具や民芸品の製造会社の倒産や製造中止が相次いでいるなか、伝統を守り続けています。
写真:塚本 隆司
地図を見る白壁土蔵造りの展示棟6棟のうち1号館と6号館は企画展や特別展で利用。2〜4号館は常設展示。古民家風の5号館は、休憩室兼ひな祭りなどでの展示施設になっています。
まずは、日本の郷土玩具が並ぶ4号館1階から紹介しましょう。展示ケースには、地域ごとに分けられた郷土玩具がズラリとびっしり並んでいます。
好きな地域を集中して見たり、地域性を感じたりと鑑賞の仕方は自由です。
写真:塚本 隆司
地図を見る例えば、だるま。どの地域にもありますが、地域性が明確に現れています。名古屋以西のものは、頭に鉢巻きをしていたり、眉毛も地方によって異なります。細かな部分までじっくり観察することで、見えてくるものがあるのです。
写真は、仙台の松川だるま。胴体部分に宝船が描かれています。下に福助のだるまもいます。
写真:塚本 隆司
地図を見るこの写真は、甲州だるまの「白だるま」。養蚕が盛んだったこともあり、繭を連想する白色です。子どもを抱えた「子持ちだるま」もいます。
他に地域性が色濃く出ているものに、手作りで温かみのある人形やコマ、祭事関連(神輿や山車など)があるので、テーマを絞って観察すると楽しいでしょう。
写真:塚本 隆司
地図を見る日本の玩具だけではありません。4号館の2階は、世界のおもちゃのフロア。約160カ国3万点の所蔵品の中から、アジアやオセアニア、アフリカ、北アメリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパの6つの地域に分け、常時2000点が展示されています。
お国柄が感じられるものはもちろんですが、国が違っても同じ仕組みのおもちゃがあるなど興味深い展示になっています。
写真は、ベネズエラの人形。ほのぼのとした感じがいいですね。
写真:塚本 隆司
地図を見るこちらの写真は、ドイツの「煙りだし人形」。いかにもドイツって感じですよね。胴体に「香」を入れると、口から香の煙がモクモクと出てきます。
海外旅行好きなら、このフロアはきっと気に入るはずです。まるで世界旅行で民芸品店を巡っているような楽しさに、つい時間を忘れてしまうことでしょう。
写真:塚本 隆司
地図を見る来館者の中には、1日中鑑賞していく人もいるようで、休憩室が用意してあります。
休憩コーナーには来訪帳があり、さまざまな感想が書き込まれています。海外から訪れた人の書き込みもあり、皆一同にコレクションの多さに驚いていることがわかりますよ。
写真は、休憩にも使える5号館。縁側のある古民家風の建物です。日本玩具博物館の建物は、井上館長が設計したものですが、どこからか移築したような懐かしさがあります。
写真:塚本 隆司
地図を見る2号館は、幕末・明治〜昭和までの時代ごとに分けられた展示棟です。それぞれの時代の子どもたちの生活が見えてきます。ここでも、展示ケースの中いっぱいに玩具が展示されています。
明治の頃は主に木や紙で作られた、現代の知育玩具のようなものが多くありました。写真にある建物の玩具には「教育玩具御座敷遊」の文字が。どんな教育だったか気になるところです。
反面、戦時中の展示からは、子どもたちの発想力の全てを戦争へと向けようとする時代の怖さが感じられます。
写真:塚本 隆司
地図を見る写真の人形は、新聞を手にベルを鳴らすゼンマイ仕掛けの少年。アメリカっぽいですが、日本製のブリキのおもちゃです。
戦後、日本国内でのおもちゃ需要が高まるまでの間、木やセルロイド、ブリキのおもちゃは、海外への輸出用として作られていました。日本製は、質が良く多くのおもちゃが欧米へと輸出されています。
写真:塚本 隆司
地図を見る近代になると、今の大人世代が懐かしがるものが多く並んでいます。グリコのおまけのコーナーなどもあり、子どもより親のテンションが上がります。数が多いので、思い出の品に必ず再会できるでしょう。
写真:塚本 隆司
地図を見る日本玩具博物館を知る上で欠かせない物に「ちりめん細工」があります。今や手芸の1分野として知られていますが、発祥はここ日本玩具博物館です。
元は、江戸時代後半頃から明治・大正にかけ裕福な家庭の女性らが、着物の残り布などで作っていた「お細工物」がルーツ。端切れまで大切にしながら、季節や暮らしに関わる行事を大事にしてきた日本の文化です。
着物文化の衰退や戦争などで、作り方すらも忘れられていましたが、古い文献や残された作品を元に館長らが復興し「ちりめん細工」と名付けました。
写真:塚本 隆司
地図を見る伝承活動の一環として、ここで作り方を学んだ講師らによる「ちりめん細工教室」は全国に広がりました。
材料となる「縮緬(ちりめん)」は、昭和初期に作られていた伸縮性があり「ちりめん細工」に適した二越縮緬(ちりめん)の再現に成功。伝統手芸の継承に力を入れるなど、活動の幅を広げています。
作り方を紹介した書籍も多く出版し、私設博物館の運営を担う大切な収入源になっています。
写真:塚本 隆司
地図を見る収集品の中には、ちりめん細工同様に作り方すら忘れ去られた貴重なものがあります。
写真は、瓶細工。日本版のボトルシップといったところですが、どのようにして作ったのか想像がつかないものがあります。誰かが守らなければ、存在すら忘れ去られてしまう文化が、まだまだあるのです。
ここ日本玩具博物館は、そんな貴重な歴史のひとつひとつを、ひたむきに残してくれています。
住所:兵庫県姫路市香寺町中仁野671-3
開館時間:10時〜17時
休館日:水曜日(祝日の場合は開館)、年末年始(12月28日〜1月2日)
入館料:一般600円、高校大学生400円、子ども200円
電話番号:079-232-4388
アクセス(電車): JR播但線・香呂駅から徒歩15分(駅からの各所に案内板あり)
アクセス(車):播但連絡道路「船津」ランプから西へ約5分、中国自動車道「福崎」ICから南へ約15分 駐車場約30台無料
2020年9月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。
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