写真:鷹野 圭
地図を見る離着陸するジャンボジェット機が干潟の上を飛び、巨大な東京都中央卸売市場(大田市場)に隣接。周囲を囲う道路では大型トラックが日々何百台も行き来する……そんな平和島の湾岸エリアの一角に、地図上でいうならポツンと島のように存在する緑地があります。それが、東京港野鳥公園。開発・整備の進んだ都会の臨海エリアの中にありながら、緑豊かな森林とヨシ原、そして現在開発や海面上昇の影響で日本各地で数の減りつつある干潟。様々な環境がバランスよく整えられた都市公園です。
写真をご覧ください。ここは潮の満ち引きで水面が上下する「潮入の池」。見ての通り大干潟が広がっています。その干潟と森のすぐ向こうには、武骨な工場やビルなどが立ち並んでいるのです。園内からは、大田市場の巨大な倉庫が間近に見えるほど。本来なら到底野鳥など飛んできそうにない環境ですよね。実際、元々ここは1960年代まではただの埋め立て地でした。しかしやがて雨水が溜まって草地や池となり、そこに鳥が飛来するようになり……いつしか都心でも指折りのバードウォッチングのメッカへと進化したのです。
現在は「日本野鳥の会」が指定管理者となり、日々良好な公園環境を保つために活動されています。そうした努力の甲斐もあり、渡り鳥であるシギやチドリ、カモ類が毎年飛来する湿地となり、2000年には「シギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」に参加。貴重な飛来地として世界的にも高く評価されるようになりました。
開発された首都圏の湾岸エリアにおいて、ここは鳥たちにとってまさにオアシスといえるスポットなのです。
写真:鷹野 圭
地図を見る干潮時間には干潟が広がり、シギ・チドリやサギ類などがエサを探してあちこち歩き回ります。時折、泥の中からカニやゴカイなどを引っ張り出して食べるシーンが見られるので必見です。しかし、上の写真は満潮時間。干潟の大半は水に浸かってしまいます。こうなると食事が難しくなるため、水鳥達はご覧のように島に移動して一休みするのです。
写真を見る限りだと、恐らく黒い大きな鳥が一番目立つことでしょう。これはカワウという鳥で、この公園では1年365日いつ来ても、群れで「潮入の池」近くに暮らしています(見れないということは恐らくありません)。島はもちろん、特に水面から突き出した杭の上を独占しているのが目立ちますね。しかし、拡大するとお分かりいただけるかと思いますが、島にはカワウ以外にも何種類もの鳥が羽を休めています。カワウよりも大柄なアオサギに、脚の極端に長いセイタカシギ、クチバシが少し上に反り返ったソリハシシギやおなじみのカルガモなどなど、夏から秋にかけては特に多種多様な鳥が集まります。
園内の観察小屋や、管理事務所を兼ねているネイチャーセンターなどから望遠鏡で様子を伺うことができます。ぜひ、色々な角度から観察してみてくださいね。
写真:鷹野 圭
地図を見るこれはあくまで一部分に過ぎません。
小さな島のどこを見ても、ご覧のように鳥だらけ……。
やっぱりここでもカワウが目立ちますが、他にもカルガモ、アオサギ、セイタカシギなんかも見られますね。特に写真左上辺りにいる赤い長脚が特徴のセイタカシギは、かつては滅多に首都圏では見られなかったほどの珍鳥です。最近は干潟の保全や水質の改善が多少進んだためか、こうした東京湾の公園でも見かけるようになりましたが、それでもまだまだ数は少なめ。夏〜秋にかけて毎年のように飛来することから、ここが健全な自然の保たれた公園であることがよくわかります。
この島は観察小屋からそれほど離れていませんので、ごく普通に市販されている双眼鏡やデジタルカメラがあれば存分に観察・撮影が可能! もちろん、小屋に付属されている望遠鏡でもOKです。夏休みのバードウォッチングにはピッタリでしょう。
ちなみに、ここまで人口密度(?)が高くなることはこの島でも稀なことです。月ひいては年によっては期待するほど鳥が集まらないこともありますので、あらかじめ遊びにいく前にWebサイトから最新の園内情報を入手しておくといいでしょう。特に「レンジャーが確認した野鳥」の項目は要チェックです。
別の角度から島を写したものですが、ここではセイタカシギの下側、岸辺に集まっている鳥に注目してみましょう。写真中央付近に固まっている小さい鳥がソリハシシギ。その名の通り、クチバシが微妙に上側に反っているのが特徴です。とりあえず「食事が大変そう」という印象を受けますが(笑)実際には器用に土からゴカイなどを掘り出して食べるシーンが見られます。シャベルと同じで、掘り起こすには反ったクチバシの方が都合がいい……のかな? 干潮時にはよく干潟で食事シーンが見られますので、ぜひチェックしてみてください。
次に、セイタカシギの真下にいる少し大きめの鳥がキアシシギ。これもまた渡りをするシギの仲間で、干潟でなくてもそれなりに見かける機会は多いです。シギ・チドリは慣れない内は見分けるのが難しいので(セイタカシギは例外)、ぜひポケットタイプの図鑑などを持って遊びに来てください。あるいは、ネイチャーセンターのレンジャーの方に質問してみるのもいいでしょう。日本野鳥の会のスタッフさんですので、色々な知識をお持ちです。
ネイチャーセンターでは東京湾に集まるシギ・チドリの情報のほか、園内の四季や観察できる生きものについての展示などが行われています(一部不定期)。初めて公園を訪れた際には、まずここを訪ねるといいでしょう。
写真:鷹野 圭
地図を見るこんな都会の真っ只中にある干潟に毎年渡り鳥が集まるのは、彼らの食糧になる小さな生き物がたくさん暮らしているから。写真は干潟の一部をクローズアップしたものですが、おわかりいただけますでしょうか? あちらこちらに小さなカニがいますね。チゴガニというとても小さなカニで、はさみを振り上げたり下ろしたりといった仕草を繰り返すユニークな動きが特徴です。その数はとても数え切れるものではなく、干潟のあちこちで小さな影が動く姿は、人によってはちょっと気持ち悪いかも(汗)。
ネイチャーセンターの地下には、デッキの上を歩いて干潟に出ることのできる「がたがたウォーク」があります。ここならチゴガニはもちろん、少し大きめでシオマネキのように目の飛び出たヤマトオサガニや、泥の上を這いまわる風変わりな魚・トビハゼなど、干潟の生きものを間近で見ることができます。でも彼らは非常に用心深いので、脅かさないように気を付けましょう。できる限り足音を立てないように歩くのがポイントです。
こうした小動物が繁殖できる環境があるからこそ、渡り鳥達は毎年ここを旅の中継地として訪れるのです。そして、小鳥たちをエサとするオオタカなども頻繁に訪れます。在りし日の自然な干潟の食う・食われるの関係がしっかりと成立しているからこそ、東京港野鳥公園は鳥の楽園なのです。
如何だったでしょうか?
渡りのシギ・チドリたちは海を超える長旅の中、中継地としてこの干潟に立ち寄ります。かつては東京湾の至る所でこうした光景が見られましたが、そうした自然あふれるエサの豊富な干潟は今では数えるほどになってしまいました。
東京港野鳥公園は、人が開発した海岸線に、人の手によって残され守られている水鳥の楽園です。人は自然を壊してしまう一方、これほどまでに豊かな自然を残せるのか……これほどたくさんの野鳥を呼ぶことができるのか……限られたこの空間から得られる感動は計り知れないものがあるはずです。
ぜひ一度足を運び、その魅力を実感してください。
この記事の関連MEMO
- PR -
このスポットに行きたい!と思ったらトラベルjpでまとめて検索!
条件を指定して検索
(2024/9/17更新)
- 広告 -