奈良の世界遺産候補「香具山」に登りミステリアスな古代世界を巡る!

奈良の世界遺産候補「香具山」に登りミステリアスな古代世界を巡る!

更新日:2020/11/05 13:45

菊池 模糊のプロフィール写真 菊池 模糊 旅ライター、旅ブロガー、写真家
奈良の藤原京跡の東側に優美な姿を見せているのが香具山です。大和三山の中でも特に聖地として崇められ、持統天皇や舒明天皇に愛され多くの歌に詠まれた山。周辺には謎に満ちた巨石や非常に古い神社が沢山あり、見どころがいっぱい。まさに壮大な古代ロマンの世界で、近年は世界遺産候補およびパワースポットとして注目を集めています。歴史や文学の好きな方には必見で、楽に登れるハイキングコースとしても強くお勧めします。

天香具山へ行こう!

天香具山へ行こう!

写真:菊池 模糊

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世界遺産登録をめざす「飛鳥・藤原の宮都とその関連遺産群」の構成資産候補のひとつに大和三山があります。藤原京は香具山(香久山)・畝傍山・耳成山という大和三山に囲まれた中心に大極殿を置く巨大な都でした。三山は藤原京造営の思想的ランドマークであり、中でも香具山は「天香具山(あまのかぐやま)」として天の尊称を持ち、古代から最も神聖視され多くの歌に詠まれてきた場所。歴史的風土特別保存地区で国の名勝にも指定されています。

香具山の標高は152mで丘のような低山。現在は周辺をめぐるハイキングコースが整備され、気軽に訪れることができます。見どころが多く、周辺を含めて半日で歩けますので、誰にでもお勧めします。

出発点は香久山観光トイレ。無料の駐車場があり6台ほど駐車可で、トイレと休憩所が完備されています(写真参照)。

天香具山へ行こう!

写真:菊池 模糊

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駐車場から東へ数分歩くと、案内板のある分岐に至ります。まずは、香久山登山道という標識に従って山頂をめざします。コースとしては山頂から東北側の万葉の森に下り、反時計回りに香具山周辺の史蹟をめぐって、またこの分岐点に戻り、さらに南の神社などを訪ねることになります。

天香具山へ行こう!

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分岐点には巨大な歌碑が立っています。これは万葉集第1巻にある舒明天皇の歌です。

大和には 郡山(むらやま)あれど とりよろふ(特にという意) 天の香具山登り立ち 国見をすれば 国原は煙立つ立つ 海原は鴎立つ立つ うまし国そ 蜻蛉島(あきづしま)大和の国は

香具山から見る大和の国の素晴らしさを述べた、舒明天皇の香具山賛歌といえるでしょう。

香久山に登り古代の三角関係の謎に挑もう!

香久山に登り古代の三角関係の謎に挑もう!

写真:菊池 模糊

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分岐点付近から北側に耳成山が見えています。耳成山は優しい感じの円錐形独立峰で標高139m。すっきりした山容で余分なところがない意で耳無し山とされたそうです。

香久山に登り古代の三角関係の謎に挑もう!

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分岐点から7分くらい登って香具山に登頂すると西側に畝傍山が見えます。畝傍山の標高は198mで、確かに香具山より高く見えます。

万葉集では、中大兄皇子が大和三山のことを詠んだ歌があります。
「香具山は 畝火ををしと 耳梨と 相あらそひき 神代より 斯くにあるらし 古昔も 然にあれこそ うつせみも 妻をあらそふらしき」というもので三山が三角関係にあったのです。

この解釈には諸説あり、香具山の性別が問題。「畝火ををしと」の「をし」の意味が「雄し(雄々しい)」とするか「惜し(愛おしい)」とするかで、香具山女性説と香具山男性説に分かれるのです。なお「妻をあらそう」の「妻」は、現代とは違い配偶者の意味で男性にも女性にも使われるので決定打になりません。

皆さんもぜひ歌を解析し、実際に香具山に登られて、香具山が男か女かという謎解きに挑戦してください。

香久山に登り古代の三角関係の謎に挑もう!

写真:菊池 模糊

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香具山の頂上には國常立(くにとこたち)神社が鎮座しています。祭神として祀られている國常立神は日本神話の根源神で、『古事記』では神世七代の最初の神とされています。小さな祠の前に深さ1mほどの壺が埋められており、雨乞いの神事に使われるそうです。悠久の古代を感じさせます。

周辺の巨石群や歌碑を巡ろう!

周辺の巨石群や歌碑を巡ろう!

写真:菊池 模糊

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香具山頂上から北に尾根伝いに行き、標識のある分岐を右へ万葉の森方面へ下ります。なお分岐を左へ下れば天香山神社に直接下りますので、巨石に興味の無い方はショートカットととしてお使いください。

しばらく下ると分岐があり、蛇つなぎ石の標識に従い左に折れさらに北へ進むと、右側に蛇つなぎ石への道が現れます。その奥に蛇つなぎ石があり尾根上にドンと置かれた感じです。

香具山は藤原京の東にあることから青龍の棲む竜王山ともいわれ、昔より雨乞いの儀式が行われていました。その際、大蛇にまたがった竜王が雨雲をもって舞い降り、その大蛇を繋いだ場所がこの蛇つなぎ石であったそうです。

周辺の巨石群や歌碑を巡ろう!

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蛇つなぎ石から少し戻り、香具山北麓を巻く感じで進みます。途中の開けた場所に東屋があり北の田畑が見えます。さらに西へ回っていくと、途中右側に月の誕生石があります。

月の誕生石は腹帯のような線が入った割れた巨石で、存在感があります。民話によると、丸い綺麗な石がどんどん大きくなり、お腹の辺りに白い帯の様なものが浮き出てきて、赤ちゃんを産み、香具山の頂から真ん丸いお月様が顔を出したそうです。香具山の母性を証明するかのような話ですね。

周辺の巨石群や歌碑を巡ろう!

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月の誕生石から西へ下ると集落に出ます。そこを南西側に折れ、しばらく歩くと天香山(あまのかぐやま)神社です。中程度の大きさで、ひっそりとした荘厳な雰囲気。祭神は櫛真智命神(くしまちのみことのかみ)で、古事記や日本書紀に登場する由緒ある神社です。

参道には、天岩屋戸神話で占いに用いられてきた波波枷の木の説明碑や、香具山にちなんだ歌碑が二つ立っています(写真参照)。

ひさかたの 天の香具山 この夕へ 霞たなびく 春立つらしも (柿本人麻呂)

春過ぎて 夏きたるらし 白妙の 衣ほしたり 天の香具山 (持統天皇)

三つの古い神社に参り古代ロマンに浸ろう!

三つの古い神社に参り古代ロマンに浸ろう!

写真:菊池 模糊

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天香山神社を後にして南へ歩めば最初に説明した分岐点に出ます。そこを南へまっすぐ進み左へ折れて香具山の南側を回れば、天岩戸神社があります。天照大御神が隠れた天岩戸をご神体とする小さな神社で、拝殿の裏の竹やぶの中に四個の巨石があります。

三つの古い神社に参り古代ロマンに浸ろう!

写真:菊池 模糊

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天岩戸神社を出て東へ歩き、日向寺の横を進めば、電柱に香久山登山道という案内があります。そこを北へ数分登ると左側に伊弉冊(いざなみ)神社が見えます。雑木林の斜面にある小祠という感じで、香具山山頂にある國常立神社の末社です。

三つの古い神社に参り古代ロマンに浸ろう!

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伊弉冊神社から北東側に数分登ったところに伊弉諾(いざなぎ)神社があります。これも小祠で國常立神社の末社。

伊弉諾命と伊弉冊命は夫婦の神で国生み神話の主人公です。そしてこの一帯は、天岩戸神社や日向寺など日本神話に登場する名前が次々と出てくる古代ロマンに溢れた場所。謎に満ちたパワースポットでもあります。

伊弉諾神社からさらに上に登ると、山頂近くの分岐に至り、駐車場に下ります。

藤原京跡資料室や藤原京跡を訪問し古代史を堪能しよう!

藤原京跡資料室や藤原京跡を訪問し古代史を堪能しよう!

写真:菊池 模糊

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駐車場に戻ったら、北側すぐにある奈良文化財研究所 藤原宮跡資料室へ行ってみましょう。ここは一帯の発掘調査を行ってきた機関で、無料の展示室があり、香具山と藤原京の全容を知ることができます。展示内容で驚くのは藤原京の規模で、5.3km(10里)四方もあり、なんと後の平城京や平安京より大きく、香具山も藤原京の内部にあったのです。

<奈良文化財研究所 藤原宮跡資料室の基本情報>
住所:奈良県橿原市木之本町94-1
電話番号:0744-24-1122

藤原京跡資料室や藤原京跡を訪問し古代史を堪能しよう!

写真:菊池 模糊

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藤原宮跡資料室のすぐ北側に畝尾都多本(うねおつたもと)神社があります。ここは伊弉諾神が妻を亡くして泣いた涙から生まれた女神である哭澤女神(なきさわめのかみ)を祀っており、御神体は空井戸です。

この近くに高市皇子の香具山宮があったと伝わり、境内には桧隈女王(ひのくまのおおきみ)が「哭澤の 神社に神酒据ゑ 祈れども 我が大君は 高日(たかひ)知らしぬ」と詠んだ万葉歌碑があります。高市皇子の死を悲しむ女王の愛情が偲ばれます。

藤原京跡資料室や藤原京跡を訪問し古代史を堪能しよう!

写真:菊池 模糊

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最後の訪問地は藤原京跡です。駐車場もあり広大な空間が広がる世界遺産候補地の中心。写真のように東側に香具山の優美な姿が横たわり、藤原京を造営した持統天皇の歌が口をついて出てきます。まさに「衣ほしたり天の香具山」という景色です。

香具山ハイキングコースの基本情報

出発地点:香久山観光トイレ
香久山観光トイレへのアクセス:
車の場合は、大阪方面から南阪奈道路利用で四条ランプを東へ出て国道165号線「出合」交差点を南へ約1km
公共交通機関利用の場合は、近鉄大和八木駅南口から、橿原市コミュニティバスで木之本町下車徒歩5分(土日は奈良文化財研究所藤原宮跡資料室前下車徒歩2分)

なお「あまのかぐやま」の漢字表記には種々あります。万葉集は「天香具山」が多く、JR駅名など一般には「天香久山」が主流で、神社名は「天香山」が正しいです。本記事では山名には「天香具山」を用い、トイレ名などの看板や標識は「香具山」「香久山」「香山」などその現地表示どおりに用いました。

2020年11月現在の情報です。最新の情報は公式サイトなどでご確認ください。

掲載内容は執筆時点のものです。 2020/10/20 訪問

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